第2話
武器店の店主からもらったリストに載っていた名前は、ほとんどが既に知っている名だ。今は行方をくらましている連中だ。
それでも新しい名前が2つある。辺境の騎士見習いと魔王領の少年。
「魔王領は考えていなかったな。魔王プレイしたがる変態も多いからあり得なくもないか」
俺は宿で酒を飲みながらリストを眺めていた。ニセモンの酒でも酒の味がするし酔える。それで十分だ。いくら飲んでも酩酊しないのと二日酔いにならないのもいい。
「え、変態、18禁、18禁なの。魔王様おやめください。はぁはぁ」とうさ耳少女がベッドの上で遊び始めた。無視する。
一応彼女にはその機能の設定は有るらしい、使っても良いよとも言われたが絶対にいやだ。彼女はNPCだが運営が管理している。行動パターンはAI任せだろうが。もしかしたら人がモニターしてるかもしれない。
「そっち系もいるが、魔王プレイしているのは大抵レッドアクションをを許可してる。破壊や殲滅ができるオプションな。大抵英雄プレイしているユーザーに殺されるんだけど」
魔王プレイはスレッド化すると面白みがなくなるらしく改善要求が出ている。リトライするユーザーも少ないとデータが有る。
逆に共有エリアでは英雄プレイヤーが魔王プレイヤーに殺されるのも有りで、このレベル帯だと魔族の方がステータス強い。
「そいつ怪しいじゃない。もっと変態的なプレイしてるとか」とうさ耳少女。
「なんだよそれ、言ってる事がわかんねえ」コイツの発想に追いつけないさすがAIなのか、ぶっ飛んでる可能性も高いが。
「ゲームのルールじゃなくて、別の遊びをしてるって言ってるの。他のユーザーに近づいてアラームが鳴っても帰らないように説得する。そうすると運営が困る」
リアルの運営に影響を与え喜ぶ、たしかにそんな迷惑プレイヤーは過去にはいた。だが今は対策が万全だ、ゲーム内への影響が出そうなリアルの記憶には制限がかかっている。わかりやすいところで火薬やマシンガンの詳細な構造などだ。ユーザーは名前を覚えていても作り出す事は出来ない。
だがと青年は「GMコマンド。ゲーム内に規定外のリアル記憶を持ち込む方法が存在するか、または過去になかったか確かめてくれ」
その問いにうさ耳少女が答えるが声質が違う「
GM権限の発動を確認:問い合わせ内容、ゲーム内に規定外のリアル記憶を持ち込む方法が存在するか、または過去になかったか。解答、規定外の記憶を持ち込む事はできません。過去に有ったという問いにたいしても無いと解答します。これはベータテストまで遡っての解答です」
「この声嫌い、可愛く無い。そもそも今の声だって合成音なのに変える必要ある」本人はあの声にご不満のようだ。
「形式美なんだろう」逆に俺は普通の声だあれをやられたら、本当なのか冗談なのか判断つかない、困る。
「魔王領へ行くにはキャラクター変える必要があるな。俺魔族人持ってないからメイキングからだし面倒くせえ。先に辺境に行くか」人型で魔王領へ行けば余計なトラブルが起きるのが必須だ。かと言ってログアウトしてキャラメイクからし直すのもな〜。
「魔王領には他のGMに行ってもらえないかな」とつぶやくと「有効な提案かつ運営の許可を必要とします。代理提案しました」とまた可愛くない声を出す「許可されました。ムーヌスは現状の調査の続行を推奨します」
GMコマンド使ってないぞ。絶対常時モニタしてるだろう、これ。
久しぶりに自分のキャラクター名を聞いた。基本このキャラはGM用だから名前を呼ばれることがない。
「なんだお前ムーヌスって言うのか」とうさ耳少女
「教えてなかったか」大した理由もない、ただ面倒だった。
「そうだよ、私にはパランなんて名前つけたくせに。この世界にない単語だけど、あっちじゃうさぎ肉の意味だよね、私って非常食。あ、それとも私の体が美味しようって意味、ねぇねぇ教えてよ」
彼女は今回ログインする前に適当にキャラデザした相棒だ、名前はその時以来今まで忘れていた。性格はランダム設定、真面目にやるべきだったと後悔してる
2つの長距離ゲートと3つの辻馬車を乗り継いで、目的地の辺境にたどりついた。
「さて、どうやってターゲットを探そうか」
情報収集は酒場かギルドと相場が決まっている。
「冒険者ギルド行ってみるか」まだ日が高かったので酒場はまだ開いてない、ギルドに行く事にした。
「C級のムーヌスだ。聞きたい事が有るんだが」とギルドカウンターでプレートを受付に見せる。その時。
「炎獅子の群れがでた。このままだとこの街に入ってくる勢いだ」1人の男が駆け込んできた。
「なんで、炎獅子が群れてんだよ。間違いじゃないのか」そこにいたベテラン風の冒険者が怒鳴る。
「間違いなんかじゃねえ。ココリス達が押さえてんだが、数が多すぎる20頭近くいやがる」飛び込んできた男が怒鳴り返した。
「20!」
「B級のココリスっんとこでも炎獅子20頭は無理だ。マスターはいるかー」別の冒険者が叫ぶ。
「騒ぐな、聞こえている」奥からも大きな声が出た。
声の主が奥から出てきてテーブルの上に乗る。彼がこの冒険者ギルドのマスターなのだろう。
「ギルドから炎獅子討伐の強制依頼を発動する。ここにC級以上のやつは何人いる、手を上げろ」
面倒くさそうなこのトラブルに巻き込まれてしまった。
「このイベント、プレイヤー用じゃないっすかね〜」とパランが小声で言ってきた。
俺もそう思う。ならターゲット用のイベントかもしれない、接触できるチャンスだ。俺も手を上げた。
24人いる。脅威度300の炎獅子20頭にはすこし少ない。これはピンチに主役登場のパターンか。俺は前座だな怪我だけしないように立ち回るか。
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「ナナガシがやられた、誰か治癒魔法を頼む」
「薬草、ポーション余っている奴いるか」
「炎獅子1匹漏らしてしまった。街に入る前に潰す5人続け」
「暴れるな止血だけはした。ぶっ飛んだ足は諦めろ。下がれ、生きてるだけマシだろう」
「もう一度氷壁を作って囲むぞ」
「俺は魔法薬が切れてる。無理だ」
炎獅子討伐は悲惨だった。
最初から無理なのは誰もが判っていたので防御優先な戦い方で進めてた。徐々に押されながらも数を減らしていたが、ある時点で支えきれなくなり崩壊した。
俺でさえ身を守るため裏技で2頭の炎獅子をしとめた。俺が目立つのはさけたいそこでわざと怪我をして前線を離脱。生きて帰れた冒険者は半数もいない。
街にはうち漏らした4頭の炎獅子が襲い掛かり、それを止めようと騎士とD級の冒険者が応戦。なんとか追い返せたが被害が大きいと聞く、特に騎士隊が壊滅状態だと。彼らは魔物と戦うのが苦手なのだ。
そして、この状況に英雄は出てこなかった。
「そう言えばこの辺にすごい騎士見習いがいると聞いたんですが」と隣のベッドにいるギルドマスターに聞いてみた。
「あぁ、そいつはケインのことだろうな」ギルドマスターの耳に入っているなら本物だ。
「今回参加しなかったんですか」
通常炎獅子の異常発生なんて起きない。これは間違いなくユーザー用のイベントだ。難しさもユーザーの強さに合わせ調整されているはず、彼が出てきていたらこんな惨事にはなっていない。
「街の防衛に回っていたはずさ。騎士見習いだからな」
「炎獅子を倒したって話きいてません?」
「無茶をいうなケインは17才の騎士見習いなんだぞ」
これは当たり。
しかも炎獅子イベントが発生したというのなら彼は通常のプレイ状態、期限前だ。初の未帰還者の候補になる。
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