第17話 後宮でお泊まり

「付き合ってくれてありがとうマイルズさん。」


「無理はするなよ。アルデルーナの件で疲れているだろう?」


「いや、アルフレッドだけに寝ずの番はさせられんだろう。」


 後宮で泊まるという話をしたら、警備ということでマイルズも来てくれた。


「星騎士の方々も外に控えておりますし、無理しなくてもよろしくてよ?」


「ははは、相手が幽霊なら人数は関係ないだろ。」


 なぜかリザとマイルズは互いに睨みをきかせている。


「部下を使って城の中を探索しましたが、今のところ不審なものはございません。安心してお休みください。」


「うん、お言葉に甘えさせていただきますね。」


「陛下、お風呂の準備が整いました。」


 メイドの1人、ミモリが呼びにきてくれた。

 後宮の霊のうわさは有名で、快く着いてきてくれたのはリザとミモリだけだった。


「では、俺たちは失礼する。」


 どちらが風呂場の前で警備に当たるかという話をここにお泊まりしながら2人は部屋を後にし。


◼︎◼︎◼︎


「ひっろーい!」


 寝室の隣に設けられたお風呂場に着くと、思わず声が出てしまった。


「お城のより広いし、隣の寝室よりも広くない?」


「ええ、まあ。」


 リザがなんともいえない顔をして頷く。


「大丈夫よリザ、なんでこういう作りか分かってるわ。」


 ドレスを脱ぐのを手伝ってもらいながら、私は努めて明るく話す。


「では、アルフレッド様とここにお泊まりになることにしたは……」


「ミモリ、はしたなくてよ。」


「そ、それは違う!」


 顔が赤くなるのが分かった。


「前にも言ったけど、私以外に王冠召喚できる人を見つけるのが第一優先。その人を見つけるまで私のことは後回しよ。」


「お言葉ですが、陛下がお子様を授かれば後継者となり得るのでは?」


 ミモリが首を傾げる。


「何事もなければ、ね。お産時に問題があって私も子供もどうにかなってしまう可能性だってある。だから必要なのよ、後継者が。」


 生前の私は、小児科に強い大病院で長い時間を過ごした。

 小児科に強いということは産婦人科にも強く、お産に問題のある妊婦さんがよく運ばれてきていた。


 だから肌で感じていた。

 出産は簡単なものではないということを。


「だから、アルフレッドさんを呼んだのは、王冠召喚してもらいたかったの。」


 この世界は精霊王の定めた者がコミュニティのトップになるのが絶対の法則だ。

 それはヒューマンだけじゃない、どの種族もそうなのだ。


 裏を返せば、王冠召喚のできない者がトップになった時、他種族に統治権を認めてもらえず攻めてこられる可能性が大なのだ。


「そこまでお考えでしたのね。」


 リザがほぅ、と感心したような息を漏らす。


「もー常に考えてるよぉ。犯人から声明もない、他種族からの攻撃もない。なんで、誰が、どうしてあんなことしたのかサッパリ思いつかないから、対策の立てようがないわ。」


 ざぶり、とお風呂に入ると指先からじんわりと温もりが身体中に染み渡る。


「だから私は保険をかけるの。攻めてこないなら今のうちに守りを固めることに集中しなくちゃ。」


 自分に語りかけるように、私はぼやく。

 ゆらゆらと揺らめくお風呂のお湯を見ながら。

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