第16話 後宮の霊
「そんなにおっしゃるなら、ご自分でなさったら良いでしょう!?」
「あ、こら!ひとりじゃ無理だから頼んでるのに……!おーい!」
私とアルフレッドがたどり着いた頃には、男性だけが取り残されていた。
メイドと思われる女性たちの背中を見ながらガックリと項垂れている。
「バーリガン卿いかがしましたか?」
アルフレッドと同年代と思われる茶髪の男性が振り向く。
「あ、アルフレッドおぉ……!」
男性は情けない声をあげてアルフレッドの足にしがみついた。
「卿なんてよそよそしい呼び方しないでくれよぉ。まだ正式に次いでないし!」
「やめないか、陛下の御前だぞ。」
「へ、へいか?」
その言葉に、やっと私がいることに気づいたようだ。
「あ、し、失礼いたしました。」
ばばばっと服装を整えると、すかさず私の手を取り甲に口付けをした。
あまりに自然な流れで、手を引っ込めるタイミングを失ってしまう。
「レイ・バーリガンと申します。アルフレッドとは昔馴染みです。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。」
「こちらこそ、高いところからすみません。」
私たちは挨拶を済ませると、馬から降りてレイの話を聴くことにした。
「こんなところでいったい何を?」
「いや、まぁ、その……姉さんの荷物を引き取りに来たんだが……」
「ああ、サーヤ様か……この度は……」
「いいんだ。大変なのはうちだけじゃない。」
どうやらお姉さんが例の事件に巻き込まれたので、遺品を引き取りに来たようだ。
「だが、困ったことに変な噂が立っていて誰もここに近づこうとしないんだよ。」
「変なウワサ?」
「いったいそれはどんな?」
頭をかきながらレイはため息をついた。
「いや、本当に下らないのだが、アルデルーナで死んだ女の霊が出ると言うんだ。」
くだらない、と言いつつレイの足はガクガクと震えていた。
「アルデルーナで亡くなった者の霊なら、アルデルーナに出るんじゃないか?」
アルフレッドが真面目に少しズレた意見を言う。
「死んだことに気付かず、こちらに帰ってきたんじゃないかと言われているんだ。」
なるほど。急に多くの人が居なくなると、そういう噂が立つのも頷ける。
みんな不安になっているんだ。
「では、今夜は私がここに泊まるわ。」
「え?」
「なんですって?」
私の思いつきにアルフレッドとレイが目を丸くする。
「元々ここは王様が泊まる前提で作られているんだから問題はないはず。私が一晩泊まって安全だと証明すれば皆さん安心なさるでしょう?」
ドン、と胸に手をあてる。
こんなファンタジーな世界だ。幽霊くらい居てもおかしくはないだろう。
むしろ、本当にアルデルーナで亡くなった人の霊なら話してみたい。
あの日いったい何があったのかと。
「かしこまりました。自分もお供します。」
アルフレッドが力強く頷く。
即位宣言の時から、私を全面的に信用してくれているのか、アルフレッドは私の思いつきを全て快諾してくれるな、と思った。
「ありがとう。心強いわ。」
物理的に強い人がいるのは単純に助かる。
そして何より、アルフレッドにはもともと試してもらいたいことがある。
そう、王冠の召喚だ。
貴族の誰でも召喚チャンスがあるという前例を作るわけにはいかない。
可能性のありそうな人から順々に、コッソリ試すには後宮という閉ざされた場所は都合がいい。
「では、午後の公務が終わり次第レックス様にご相談しましょう。」
「そうね、そうしましょう。」
すっかり乗り気の私たちを見ながら、レイは何かを思いついたような顔をしたかと思うと、勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません。オレが不甲斐ないばかりに。ぜひ、よろしくお願いします。」
「いいんです。私がやりたくてやるんですから。」
「必要なものがあればなんでも仰ってください。うち、金だけはあるので。」
「何を言っているんだ?お前も泊まらないのか?」
「ばっか、お前……!バカか!?」
アルフレッドの言葉に、飛び上がらんばかりに驚いたレイは、アルフレッドの胸ぐらを掴む。
そして私から距離を取り、こちらを見ながらコソコソと話をする。
「なんでそこでマイルズの話が出てくる?」
「いいからいいから。」
とりあえず話が終わって帰ってきたが、アルフレッドはなんだか納得いっていないようだ。
「こほん、では、アイリス陛下。」
「は、はい。」
レイが襟を正し、私にウインクを飛ばす。
「アルフレッドをよろしくお願いします。」
「はぁ……?」
護衛される私ではなく、アルフレッドをよろしくとはどういうことだろう?逆では?と思いながら私は生返事をした。
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