第15話 お城ツアー(アルフレッドのガイド付き)

「さて、どこか行きたい場所はございますか?午前中で城の中全てを回るのは難しいので、自分が陛下に必要と思われるところをご案内する形でよろしいでしょうか?」


「うん、それでお願いします。」


 蔵書室や資料室、会議室といった仕事関係から、ダンスホールや魔導師の研究室まで教えてもらった。


 研究室ではトラヴィスだけが嬉々として城倒壊の魔法の解析をしていて、他の部下と思われる人たちは床に転がっていた。


 どうしたのか訪ねると「みんな仮眠してるだけさ。」と笑顔で答えるので、ちゃんと休憩を取らせるよう権力を行使することとなった。


◼︎◼︎◼︎


「こちらは庭園となります。シルバー陛下もお疲れの時はこちらの東屋で休憩されてました。」


 最後に、と連れられたところは庭園という名の国立公園に近い、原っぱのような場所だった。


「素敵ね。気分転換にもってこいかも。」


 広すぎて先が見えないけど。


「馬に乗って一周してみますか?」


「うーん。楽しそうだけど私、馬には乗れないし……」


「では自分がお乗せしましょう。」


「え?」


 そう言うとアルフレッドは庭園の入り口を警備していた部下に馬を連れてくるよう指示し、あれよあれよと言う間に2人乗りをすることになってしまった。


 自転車だって2人乗りしたこと無いのに。


「ど、どうすれば……」


 間近で見る馬は思っていたよりもずっと大きく、ひとりで乗れる気が全くしなかった。


「大丈夫ですよ。鞍に手をかけて、そう、そして私の手に左足をかけてください。持ち上げます。」


 そう言ってアルフレッドは両手指を組み、手のひらの方を上に向けて中腰になる。


「え?アルフレッドさんを踏めってことですか?むりむりむりです!」


「いずれ陛下も馬に乗らなければなりません。これは練習と思ってください。」


 穏やかに、だけど真面目にそう言われ、一理あると腹を括った私は左足をアルフレッドの手の上にかけた。


「いいですよ、そのまま体重をかけて、それ!」


「ひゃあっ!」


 バレーボールみたいにぐんと持ち上げられ、私はなんとか鞍に跨ることができた。


「では行きましょう。」


 すぐにアルフレッドが私の真後ろに跨り、タン、と馬を蹴って進み出した。


◼︎◼︎◼︎


「すごい、川もあるの?」


 しばらく進むと川が見えた。


 ぴたりと背中にアルフレッドの存在を感じながらの乗馬はなんだか落ち着かなくて、なんとか会話しなければと思ってやっと出てきた言葉だった。


「ええ、夏には魚獲りもされてました。」


 だいたいのレジャーが城の敷地内で完結してしまうのだろうなと思った。


「あら?あの建物は?」


 少し進むと、大きな建物が見えた。


 外観は小さなお城そのもので、アルデルーナ城を彷彿とさせる。


「あぁ、あれは……そうですね……奥様方や、まだ幼いご子息達が過ごす城になります。」


 なるほど、後宮というやつか。


「今はどなたも、いらっしゃらないようですが。」


 うっ、アルフレッドがものすごく言葉を選んでくれている。


「すみません変なこと聞いて。」


「いいえ。」


 つまりあの日以来、誰も帰ってきていないということなのだろう。


「もうイヤです!わたしできません!」


「そんなこと言うなよ。今は昼間だから大丈夫だって。」


 突然、後宮の方から声が響いてきた。


「男女の声?なにがあった?」


「行ってみましょうアルフレッドさん。」


「かしこまりました。」


 そう言ってアルフレッドは2つ返事で馬を後宮の方へ走らせてくれた。


 声の主たちに何かあってからでは大変だという意識が一致したようだ。


 「私に」何かあっては危ないからダメだと過保護にされなかったことが、とても嬉しく感じた。

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