第9話 ケルピー(気づいたら体が先に動いてた)
「我はマーフォート族族長の息子、ジャンジャンである。なにようで来た!?ここは国境だぞ!すみやかに立ち去れ!」
「はじめましてジャンジャン様。私はヒューマン族アジュール王国の女王に先日就任しましたアイリスです。」
「は?え?女王!?」
シェリールの協力を得た私たちは問題の国境まで船で向かった。
ずらりと並ぶ武装した人魚達は、突然のことに動揺を隠せないようだ。
「な、なにようで来た?ここが国境線と知ってのことか!?」
さっきと同じこと言っている。
「あいにく、それはこちらの言い分です。今すぐ兵を引いていただきたいのです。漁師達が恐怖を覚え、仕事にならず困っています。」
「それはできん。我々とて自国の領土は守らねばならない。当然だろう。ましてや隣国が攻撃を受けたのであれば警戒して何が悪い。」
ちっ、とマイルズが私の横で舌打ちをした。
「おい、いま舌打ちしたか?」
「いいえ?」
マイルズがタレ目の穏やかそうな顔立でニコリと笑えば、だいたいの人はけむに巻かれるようだ。
「我が国から各国へ当てた伝令で、おおよその事態は把握しているはず。慈しみの言葉ではなく、あなた方の三叉の矛先を向けられるのは悲しいです。」
本当に悲しいといった態度を取ってみると、ジャンジャン達はすこしバツが悪そうに互いの顔を見合わせた。
いいぞ、いい感じだ。私たちの役目は時間を稼ぐこと。
シェリールが父親を交渉の席に引きずり出してくれるのを根気強く待つのだ。
「ジャ、ジャンジャンさま!」
睨み合いをしていると、若い人魚が慌ててやってきた。
私はマイルズの方を見て「やった!」と目配せをする。
シェリールが父親をうまく説得できた朗報だと思ったからだ。
けれど、その期待はまるで違う形で打ち砕かれた。
「ケルピーの群れが首都を襲ってきました!」
「なんだと!?クソ!こちらに兵を割いている時に……」
ジャンジャンが悔しそうに海面を叩く。
「ケルピー!?ケルピーが出たの!?」
私が船から身を乗り出す。
「うるさい!貴様らには関係ない!」
「関係大ありよ!だって……」
首都が攻撃を受けたと言うことは
「シェリールも危ないってことじゃない!?」
彼女は城から抜け出していた。
今は海岸から城に帰ってる最中かもしれない。
運が良ければ安全な城の中にいるかもしれない。
でももし運が悪ければ—
『我に海の加護を!』
「おまえ!!?」
マイルズの怒りの声が飛んできた。
私を掴んで食い止めようという手が空を切るのを横目に、私は甲板から海の中に勢いよく飛び込んだ。
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