第6話 人魚(深刻な人材不足)

「マーフォート族が海に?」


マントを脱がせてもらいながらレックスの報告を受ける。


「はい、境界ギリギリに兵を敷いている次第です。」


マーフォート族とはいわゆる人魚のことだ。

以前から海路や漁の関係でいざこざが絶えない。


「名目としては、アルデルーナ城で起こった惨事が自分たちにも起こらないか警戒しているとのことです。」


「まずいわね……」


「まずいに決まってますわ!」


リザの声に思わず顔を上げる。


「こんな切っぱなしのお髪でいつまでもいるなんて、許せません。」


泣きそうな目をしたリザが私の不揃いな髪をかきあげる。


「リザ殿、今はそれどころじゃ……」


「ううん、確かに。リザの言う通りね。」


レックスの言葉を遮る形で私はポンと手を叩いた。


「マーフォート族の問題もあるし、身だしなみを整えたら行きましょう。アルデルーナへ。」


「いいね。ぼくもまだ海を見てなかったから同行するよ。」


トラヴィスが、うきうきと返事をした。


「承服いたしかねます。あなたはもう名実ともに女王陛下です。向こうの脅しくらいで顔を出すべきではありません。誰かを交渉に行かせるべきです。」


レックスが苦い顔をしてトラヴィスを睨む。


「うーん。じゃあ今回の件を任せられそうな方ってどなたかいますか?」


「それなら……」


誰かの名前を出そうとして、レックスは口を開けたままわずかに停止する。

そして静かに下を向き顎に手をやって考え込んでしまった。


「ごめんなさい。まずいことを聞いたわね。」


レックスの反応を見て、すぐに分かった。任せられそうな人はもうこの世に居ないのだろう。


これは本当にまずい状態なのかもしれない。


「やっぱり私が行きます。」


「しかし陛下……」


「そうだ!建前はアルデルーナ城の慰問ってことでどうでしょう?新米女王の初公務としては申し分ないんじゃない?」


「ふむ、なるほど。」


私の言葉にピンときたのか、レックスは目を光らせた。


「ど、どういうことですの?」


リザが目を細める。


「たぶん、護衛としてある程度の兵士を連れて行く口実になるということだと思うよ。」


「おや、察しがいいですね。いつもそうだと助かるのですが。おい。」


トラヴィスを褒めると、レックスがそばにいた兵士を呼び寄せた。


「星騎士と月騎士の若造2人を呼んできてください。」


「あ、あの、エーデルワイス公と……」


「クランシーに決まっているでしょう。あの2人が残っていて助かりました。」


はいすぐに。と返事をして兵士が去って行った。


「さて、慰問の段取りをしなければ。」


「じゃあぼくは大人数を転移する準備をするかー。」


「ではアイリス様はこちらで身だしなみを整えますわよ、いま、すぐに。」


「わかった、わかったよリザ。」


私はぐいぐいとリザに腕を引かれ、レックスはブツブツ言いながら、トラヴィスはやる気なく、みな散り散りにそれぞれのやるべき事をしに執務室をあとにした。

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