第1話 戴冠6時間前

「アイリス・ホワイト。首席卒業おめでとう。」


「ありがとうございますシルバー国王陛下。」


ロマンスグレーのお髭が似合うナイスミドルな国王陛下から賞状を受け取り、固く握手をすると会場から拍手が起こる。


「君の人生が祝福に満ちることを願っているよ。」


国立アルデルーナ学園の卒業式は異例の盛り上がりだ。


なんてったって孤児院育ちが首席を取ったのだから。


底辺からのサクセスストーリーはどこの世界でもウケがいい。


「卒業後の進路はもう決まったのかな?君さえ良ければうちの魔導師として……」


「はい陛下。私、冒険者になります。」


「ぼ、な、なに?」


「冒険者です陛下。世界を旅して色々なものを見るのがずっと夢でしたので。」


「そ、それは……いや、うむ……」


常に冷静で温和と名高い陛下が言い淀んでいる。

それはそう。普通は安定を求めるでしょうね。


「すまない。見識を広めたいと願う若者の門出に水を差す権利は誰にも無いな。」


コホンと咳払いをし、陛下は私の手を両手で包み込んだ。


「だが、気が変わったら城の門をくぐりなさい。君ならいつでも歓迎しよう。」


「深く感謝いたします陛下。」


それは心からの言葉だ。


この国は戦争がない。

豊かで衛生的。教育熱心で治安がいい。


それもこれも陛下がいい王様だからだ。


そんな陛下のご厚意を無下にするほど私も恩知らずじゃない。

ただ、夢を諦めたく無かっただけ。


だからー


「お約束します。世界を調べ尽くした暁には、必ず貴方様の治世に貢献する事を。」


「ああ、その日を楽しみにしているよ。きみに精霊王のご加護があらんことを。」


陛下の暖かい笑みに私も笑顔を返す。


ああ、本当に素晴らしい陛下だな。


もちろん自分の夢は譲れないけれど、いずれはこの方のために尽くそうって、そう思った。


心から思ったんだ。

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