第5話 やだー!!!
「とうとうこのビルドも終わりか~」
ユーキは最後に所有していた魔剣が昇天してから、帰還した冒険者ギルドの報告を聞き終えて天を仰いでぼやいた。
自傷型超火力ビルドの肝であった呪いの魔剣はすべて昇天してしまい……このまま同じ戦法を続けてもこれまで通りの戦果は上がらないだろう。
九本目か十本目の魔剣を昇天させ終えた頃からすでに20余年が過ぎている。最後の魔剣は30本目だった。
冒険者ギルドには大枚をはたいて魔剣の情報を集めてもらっていたが、なしのつぶて。
果てにはマーディス神の神殿に参拝に行った際、『もう魔剣に封じられていた天使は昇天したから……その見てて痛いビルドを見直せ』と神から直接神託を貰うレベルであった。
幸いと言うべきか。
地上に囚われたすべての天使を解放した報酬として神は望みを一つ叶えてくれると言ってくれた。
なので『新しいビルド作り直すから成長ポイントの割り振り権をお願いします!』と答えたらなぜかマーディス神は心の底から嫌そうな顔で『……ごめん、ちょっと半年ほど待ってくれる?』と言いだしたのである。
この世界に転生し、理想のビルドで遊び倒した。
その時間の長さに比べれば半年など余暇みたいなもんである。
それでも最後にこのビルドで遊び倒してから新しい転生をするつもりであった。
「こんにちわー! 募集で誰か来ているかい?!」
「あ、ゆ、ユーキ様! お待ちしておりました!」
冒険者ギルドの門扉を開けて、受付嬢に声を掛ければ緊張で背筋を伸ばして応対してくれる。
長年の間使い手を蝕み。死に追いやる恐るべき魔剣……呪いから解放するすべは解明されていたが、リスクがあまりにも大きく誰もなしえなかった魔剣解放をユーキは長い年月をかけて成し遂げ、今では聖教会によって聖人認定がされている。
今や世界で知らぬもののいない英雄のダンピールを前に、受付嬢ははっきりと緊張していた。
何せこの伝説の英雄が新しくパーティーを組むというのだ。ギルドマスターが直接対応するべく動いている。豪華な応接室に通されることになった。
「いやぁ、今までは孤剣一つでいかなる怪物も切り伏せていた英雄が仲間を求めると聞き、我々も選考に選考を重ねました。
ご希望は……新人を中心に、でしたね」
「ああ。どうせならこの回復魔法で仲間を支えるようにしたい。すでにあまたのダンジョンを踏破し栄光も財産も得た。
あとは後進を育てることに邁進したいんだ」
にこやかな笑顔で聖人君子のようなことを言うが……当然ながらユーキの性情は全く変わっていない。
契約と報復の女神マーディス神の最高位
もちろん回復魔法の専門家である神官職の攻撃力が多少上がっても大きな差はないが、彼はもう世界でも屈指のヒーローユニットだ。TRPGならNPCキャラとしてルールブックに名前が載るレベルである。
(へっへっへ、仲間の新人さんを癒しまくってまた火力上げて気持ち良くなってやるぜぇ~~。
今や神官系の神聖魔術もマスターレベルだ。仲間を失い悲嘆にくれる冒険者から一銭ももらわずに辻
死から復活したらどれだけ火力が上がるんだろうなぁ~)
などと自分のエクスタシーの事しか考えていないのであった。
半年後には女神マーディス様の手によって新しいビルドに
そんな本心など知らぬままギルドマスターは上機嫌でいう。
「あちこちから問い合わせがありまして。新しいメンバーなのですが……」
そこでギルドマスターは書類に目を通して眉間を曇らせた。
その様子にユーキは首を捻った。
「なんか問題が?」
「そ。その……新しいメンバーの職業が全員女性で、神官に神殿騎士に
「バランス悪ぅ??!!!」
あまりにも神聖系に偏りまくったメンバーにユーキは思わず叫んだ。
バランスが悪いのはそうなのだが……後半二人の職業は抜けると神殿の運営に多大な影響が出る系である。なんでそんな超大物が、いくら優秀とはいえ一介の冒険者のパーティーメンバーに入りたがるのであろうか。
ギルドマスターは神聖なパワーで催眠されていたような状態から脱すると……誤魔化すように叫んだ。
「い、いやしかし誰も彼もがうら若き娘で! みな才気にあふれているのです! 決してあなたの足手まといには……」
「やだー!!!!」
すでに成人した大人と思えないような、子供っぽい拒絶の言葉と共にユーキは窓を蹴り破って逃げ出したのだった。
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