夢覚ましなる者
息を切らしてはてしない階段をのぼっていたチアキは、視界を埋めつくす白い歯車に思わず歯ぎしりをしたかと思うと、ふらふらと階段にへたり込んでしまった。
「あと……ちょっとなのに……」
チアキはもはや歩くことすらままならなかった。
激痛に視界が滲めば滲むほど、チアキの心はより一層はっきりと大事な者の姿を映し出しているようだった。
傾いだ頭上から花冠がゆっくりと転がり落ちたその刹那、バランスを失ったチアキの身体を不意に後ろから伸びた手が抱き止めた。
「君は……」
チアキは薄れ行く意識の中でその人を確かに見た。その見覚えのある琥珀色の瞳を。
「…………王……子……?」
いつの間に取り落としたのか、足元で黄色いメガホンがカタンと音を立てた。
その人は、腕の中で気を失いながら呟いたチアキをじっと見つめると、一瞬躊躇い、まるでいつかの後悔を背負ったように、ゆっくりと首を横に振った。
「ごめん、僕、王子じゃない」
王子と瓜二つの姿をしたその人は、握りしめていた花冠をそっとチアキの頭に被せると、まるで何かを諦めたように軽やかに、最後にどこか申し訳なさそうに笑った。
このとき頭上で花冠が最後に赤く煌めいていたことを、チアキはいまも知らない。
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