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/*問

モトとバアルの物語にみる豊穣神の死と復活のモチーフを、

たとえばひとりの役者の筋書きに集約させたら、

その人は救世主たり得るか

?*/




 ――二伸――


 そういえば、古代エジプトではミイラをつくる際にレバノン杉の香油が使われることもあったんだそうです。


 それほど昔から古代エジプトとフェニキアの間には交易があったのかと思うと、ああ、私はもういてもたってもいられません! 


 それほど心はいつもティルスとともにあるのです。


 小高い丘の上から麓の港町を見守るように聳える青々と繁ったレバノン杉の姿は、一体どれほど雄大に見えたことでしょう。


 もしかしたら、雨上がりの澄みきった真っ青な空がどこまでもつづくような日には、レバノン杉の香りのする舟の舳先によっこいせと腰掛けて、釣りでもしながら水平線の彼方に沈む入り日を眺めては、束の間の緑閃光に心踊らせる、なんてこともあったのでしょうか。


 傍らには猫もいたりして――。

 

 ほら、かつてシリア人の大量移動とともにエジプトに持ち込まれた神々がいたそうじゃないですか。


 だったらエジプトの猫神……いえ、猫だって、船乗りと一緒に港町に持ち込まれることもあったかもしれないなという――ええ、ただの私の願望です。


 私はカエルですが、どうしても猫が好きなんです。八つ裂きにされたくは、ありませんがね。


 あるいは、労働の合間にエジプトの船乗りから特別に仕入れたワインを片手に、これまた偶然手に入れたエジプトのパンをひとかじりしながら、猫と一緒に丘の上から入り日に煌めく港町を眺める、なんてのもいいですね。庶民だからってビールばかり飲んでいたとも限りませんしね。


 パンもヒエログリフとして使われていたくらいですから、きっと古代エジプトの人々にとっても身近な存在だったのでしょうか(スミマセンあまり歴史に詳しくないんです蛙汗)。


 いつだったかシリウスを神格化した女神spdt――仮にソプデトと呼びますが、正確には子音以外の発音はよくわからないのだとか――について調べていたときに、三角△のヒエログリフで表すことを知ったのですが、よくよく見ると星みたいなやつ*だの、カマボコみたいなやつ⌓だの色々ついていて。


 星は歴史に疎いカエルでもなんとなくわかりますよ? 三角もなんだか鋭そうだし。でも古代エジプトにカマボコって、意味がわからない。


 でも調べてみて納得しました。あれはカマボコじゃない。パン⌓だったのです! 

 

 


   △⌓*




 そうそうあの本、ちゃんと読んでいますよ。創世記の1ページ目までは頑張って読みました。スゴいでしょう? それで最近よく思うんですけど。


 あの本の救世主の筋書きをおもうにつけ、私にはたびたび思い出される話があるんです。かつて人々と共にエジプトに持ち込まれたウガリット神話の神々、モトとバアルの物語。


 モトは死の神であり乾季の神なのでしょう?


 対してバアルは、のちにエジプトのセト神と同一視されていくようですが、元々は豊穣神で慈雨を降らせるウガリット神話の主神だった。


 敵対する彼らの間で繰り返される死と復活の再生の物語には、農耕をして生きてきた人々の豊穣への祈りが垣間見えます。


 私好きなんですよ、そういうの。


 今でこそバアルはあの本の中では悪魔的な立ち位置として描かれているようですが(なんということでしょう!)、当時は各地の神殿で神々への感謝と祈りを込めて、神官たちによる祭儀なんかもあったんじゃないでしょうか。


 ただ、豊穣神の死と復活の儀式については形を変えながらも引き継がれているように思います。


 たとえば、聖油を注がれた者メシアとか。


 正直、いくらお香が好きな私でも、さすがに全身に油を塗られるのはごめんです。ましてや生きてる間に注がれるなんて。


 乳香だろうが没薬だろうがキフィだろうが、関係ありません。そんな油をかぶってあの日射しの強い土地を歩こうものなら一瞬で揚げカエルになってしまう!


 せめて死んでからにしてくれ、と思います。


 生きてる間に油を塗るどころか注がれて怒りもしないなんて、あの本のメシアはよっぽど器の広い方だったのかもしれません。


 その超人ぶりに、本来は人ではなかったのではないかと、疑いたくなるくらいです。


 まあたしかに、あの物語を必要とする人たちの気持ちも分からなくはないですがね。


 神も仏もないじゃないかと思えるほどの争いの時代になんとか人々を支配……いえ、統治しようと思ったら、人智を超えた能力*を持つ者(宇宙人とかAIとか色々ありますけれども)、しかも同じ次元で確かに存在しているものに権力を持たせて祭り上げた方がはやい……いえ、なるべく手で触れられる身近な存在の方が、人々は信じやすいのかもしれません。


 たとえば、超能力を備えた実在する人間とか。


(*……能力にも思いやる、気遣う、想像する、信じる、愛する等いろいろありますが、ここでいう能力は金の支配する争いの時代のことですから、金稼ぎやそれを支える権力に直結しない能力は省きます)


 他にも、ナイル川の恵み――豊穣の証である葡萄酒とパンも、彼らの間では聖体として形を変えながら今も崇められているようです。


 美味しいですもんね、赤ワイン。


 頭痛持ちは飲み過ぎ注意ですけども。それでもやめられません。ご存知でした? 酔わなくたってお酒の美味しさを味わうことはカエル*にもできるって。



 ところで、あなたはどう思います? 



 私だったら、うーんそうですね……もし聖油を注がれるならやっぱりレバノン杉の香油がいいなぁとも思ったんですが、今の時代は香油に限らずともお香とか違った製法がいくつも確立されているでしょう? 伐採しすぎ問題は無視出来ませんけれども。うーんだからやっぱり、


 私だったら、レバノン杉の面影がよぎるお香――シダーウッドアトラス――を浴びるくらいがちょうどいいですね。


 だってただの落ちぶれたカエル*だし。


 それにしても――あ! しまった。まだ書き途中でスミマセンが、もうじき予約した船が出港してしまう! つづきはまた今度、会ったときにでもいたしましょう。


 アディオス!





 大海の上のカエル* より


 心はいつもティルスとともに。 

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