ぬばたまの夢のかけらを握りしめおもうは青き月のおもかげ
第2の広場への道すがら、全力で階段を駆け上がっていたマヌーは、丸い何かを踏んづけるやもんどり打って倒れた。
「……」
地べたに突っ伏したまま動かないマヌー。
柄にもなく昔のことを思い出したりしたからだろうか。正直なところ、第2の広場へ近づくにつれ彼の足取りは重くなっていた。
ふと、倒れ込んだその拍子、マヌーは打ち付けた手のひらの内に丸い小石があるのに気づいた。
「なんでこんなとこに……これが……?」
マヌーは呟きながら自身でも理解が追いつかずにいた。
だってこれはまだ自分がカエルだった頃のモノ。鏡の中で演じた際にふざけて臨時のバイトに投げつけたあの丸い小石。それがどうして今、鏡の外にいる自分の手の内にあるのか?
つまりそれは――
「……壁の崩壊……? いや、そんなまさか……ありえない……」
マヌーは突如不安に駆られた。第4の壁か第5の壁かは知らないが、何か予期せぬことが起きている。もしあの鏡の中のものがこちらの世界にまで現れてなんてことになったら……。
「はぁ」とため息をつきながら、マヌーはそのまま地べたへ仰向けに寝っ転がった。どうしてこんなに不安になるのだろう。この場所がそうさせるのだろうか?
不意にスーツ姿のプロデューサーと仲良く並ぶ彼女の姿が過って、マヌーは思わず息を止めた。
「……」
無理もない。プロデューサーといえばかつてマヌーにガスライティングを仕掛けて自殺に追い込んだ張本人である。偶然未遂に終わったが、警戒するなという方が無理な話であろう。
「……」
不意に視界の隅で星がいくつか煌めいた気がして、マヌーはふうっと息を吐いた。もう不安も疑心暗鬼も、必要ない。
洗い流すように澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら、思い出されるのは海の向こうで出会った美しい星々。
マヌーは手の内の小石をそっと握りしめると、大地を確かめるように何歩か踏みしめて、ふたたび、第2の広場へ向かって駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。