活動屋

「あーそれはお兄さん騙されちゃったね」

「え、でも警察手帳持ってたよ。あれは偽物なんかじゃなかった」

「あーそういう問題じゃなくて」

「じゃあ、どういう問題?」

「うーん、もっとなんというか、根本的な問題?」


 マヌーが公園の最奥で柵を開けようとガチャガチャしていると、気さくな女性に話し掛けられた。


 偶然通りかかっただけの人にこうも自然に話し掛けられるものだろうか。


 その女子力の高さに驚きながら、マヌーもいつしかタメ口になっていた。


「はっきり言ってくれない?」


 鍵のようなものを差し込みながら、マヌーは尋ねた。


「うーん、だから」


 すると気さくな女性は答えようとして、「あ、ちょっとゴメンね」と背を向けると、パーカーのフードからやにわに黄色いメガホンを取り出して、先程から公園のなかほどでチャンバラをしていた男性たちに向かってドスの利いた声で怒鳴った。


「このトンチキ野郎! そんなんじゃ先に斬られっちまうだろバカヤロー!」

「すみませんっっ」

「ったく。今のシーンもう一回最初から!」

「「「はいっ!」」」


 女性はくるっと振り返ると何事もなかったように、


「なんかごめんね、うるさくしちゃって」


 なんて言いながら、ふふっと可愛らしく笑った。



「……」



 どこからともなく乾いた風が通り抜けた。


「ん? どした? 急に黙り込んで」


 紺と白のアメリカンキャップの下でショートボブの明るい毛先が可憐に揺れた。


「あ、いえ。別に」


 マヌーは平静を装っていたが、自身でもそれと気づかぬうちに鍵のようなものを強く握りしめていた。


「別にって、急に他人行儀じゃんー。でもまぁ体調わるいとかじゃないならよかったよ」


 女性は手の内で黄色いメガホンをガシガシと叩いた。


「あ、それとももしかして。今のパワハラだなーとか思っちゃった?」

「あー……。いえ、別に」  

「ふふふ、君嘘つくの苦手でしょう? 顔に出てるよ」

「え……」

「なんてね。そりゃ一見パワハラだけどさ、私の怒号には愛があるから。その辺のパワハラとは一緒にしないでほしいな」

「いえべつにほんとにそんなんじゃ」


 マヌーは確信した。関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ。


 関わっちゃダメだ。


「僕はただその黄色いメガホンどうしたのかなって」


 マヌーは不意に手を止めると核心に迫った。見逃すわけにはいかなかった。だってそのメガホンはかつて臨時のバイトが暴走するマヌー(その頃はまだカエルであったけれども)を止めてくれたメガホンなのだから。


「ああこれ? さっき通りかかった人にもらったの。なんだかんだ大声出すときに便利っちゃ便利かな。でも微妙に大きくてさー。ポケットに入らないんだよね」

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