櫻川さんは、サクラがお嫌い? 3

 

 

 やたらとオシャレな名前なんだよねぇ、ここ。ちなみにこのカフェではお酒の類が一切出ない。2階のレストランには置いてあるけれど、少しお高め。格としては中級ってとこかな。


 食事と一緒に気兼ねなく飲みたいなら、同じ通りのエリア違いの場所にある大衆居酒屋とファミレスと町中華が混ざったみたいな庶民向けの店舗がある。ここも私は知らずに使ってました、ダガーヤ系列です (サッサーラ豆知識)。


 売れ筋はタイワーメンとテバサ、ドテーニとミソッカ、そしてカラーゲ。 ……台湾ラーメン、手羽先、どて煮、味噌カツ、唐揚げ。


 とにかく品数が多い店だから意識してなかった。ダガーヤ商会の創業者、絶対名古屋の人だな。もしかしたら口癖で言ってたのが印象に残りやすかったから、名字にしちゃったとかかも知れない。


 カフェのメニューにやたらと甘そうなスパゲッティがあるの、なんじゃこりゃって思ってたのよ。そんでもって噂でしか聞いた事ないけれど、3階のVIP層向けに要予約の肉をトッピングしたラーメンがあるとかなんとか。


 ドラゴンねぇ……。遠い記憶の底からフリップ芸が得意なコアラのキャラクターがおいでおいでしている気がする。なんかシュールだな。


 無意識に感じていた違和感の数々が、ひとつの大きな答えに収束して妙にスッキリした所で、いつの間にかドカ盛りパフェを平らげていた青髪の鬼っ娘が、一切れが大きい焼鳥を串から上品かつ恐ろしい速さで外しながらフォークで食べていた。


 こういう所を見ると、お嬢様なんだかただのせっかちなんだかよく分からなくなる。なんであんなに動きが速いのに高貴な雰囲気すら漂うのか。育ちの良さとは果たして何ぞや……。


 彼女は当然、この世界における各種作法を完璧に使いこなし、どういう格式であろうとも優雅に振る舞えるのだが、美味しいものは一番良い状態で味わいたいという主義らしく、溶けやすいアイスの載ったパフェを先に、温かい状態で出てきた焼鳥(タレ付き)を次に持ってきたんだと思われる。


 じゃあ注文だけ先に済ませておいて順番に持ってきて貰えば良いのではと思うでしょう? そこはチマチマ一品ずつ出てきて好きなように食べられない、幼少期からのお作法訓練漬けの日々が思い出されて嫌になってしまうとかで。その反動みたい。


 何事も過剰なのは良くない。適当テキトーという名の適切さを常に心がけましょう。


「…………」


 パチッ…… シュッ!


 焼鳥を串から外し口に入れるを淡々とこなしていた彼女の額にある短いツノから蒼白い放電の光が僅かに漏れたと思ったら、テーブル席から少し離れた空中で何かが焼き切れる気配が。


 灰も煙も一切出させずに全てを消し去ってしまったようで、何だったのかまではいつも分からない。多分、この世界にいるハエとかアブとか小さなハチみたいな虫だったんだろうね。


 原理は電気で虫を焼き切って駆除する殺虫器の考え方に近い。彼女のものは周囲に展開したセンサーで動くものを捉えて、自動的に判別をした上でその物体にピンポイントで不可視のレーザーのようなものを当てて消し飛ばすというもの。


 これを独自の術式にして常時無意識下バックグラウンドで作動させる事で、近寄ってくる害虫を寄せ付けなくしている。


 サーチしているのは赤外線や電波の類だし、捕捉や攻撃も元を辿れば電気とか電子。細かい制御の部分に魔法を使っているけれど、体外へ放出するものが電気的なものしか無いから魔法感知には滅多に引っ掛からない。


 誰でも魔力は持っているし、血が巡るように体内を循環しているので、そのふるまいを検知して魔法を使ったと指摘していたらキリがない。それは息をしているのを見て呼吸しただろうと難癖をつけるようなもの。


 その点、サッサーラの魔法の使い方だと体内の魔力循環か術式を作動させているのかが非常に分かりにくい。通常は外部へ術式を展開して魔法を構築し、現象を引き起こしているからだ。


 体内で制御用の術式を動かすやり方ではあまり大きな出力が得られないので、強力な攻撃を行う場合には彼女も外部へ術式を展開している。


 私と出会う前の彼女は電気というか電撃を周囲に撒き散らす放電攻撃か、強力だけれど長い構築時間を要する落雷魔法ぐらいしか使えるものが無かったらしい。


 放電は無差別に周囲を攻撃してしまうし、落雷は強力でも時間が掛かる上にダンジョンのような閉塞空間では使い勝手が非常に悪い。下手をすればダンジョンを破壊してしまい、防衛機能が働いて強力なボスクラスのモンスターなどが突如出現するリスクを招きかねない。


 生まれつき雷系統の素養はあるが、制御が苦手で味方を巻込みかねず、開けた土地での戦で雑兵を蹴散らすような使い方しか出来ない。


 種族的に強靭な身体と逞しい見た目が好まれるのもあって、背丈の低い彼女は特定の趣味を持った…… つまりは変態趣味の枯れたジジイとか、若くても何人もの女を侍らせるようなな野郎の味変要員とか、とにかく胸◯ソの悪い案件はなししか来なかったらしい。


 そんな最低野郎でも残念ながらある程度の実力者ではあったから、お盛んなほうの縁談が本人の知らない所でまとまりかけていたのに気付いて、溜まりに溜まった怒りが爆発。本家の自分が住んでいた場所を天災級の雷で吹き飛ばして、混乱のドサクサに紛れて国を出ていったそうな。

 

 

 

 

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