第39話 5次元の世界

 5次元の世界


「おぬしは何の為に氷川神社に参ったのか?」

 突然菫が的外れな質問をした

「それはかわいい女の子と一緒に歩きたかったからです。須佐之男命、大国主命、そして櫛稲田姫命、不埒な動機で参拝して申し訳ありません」

 2人は笑った

「化粧を直してくるね。泣いたから」

「途中まで護衛します」

「ここで待っていて、席を取られちゃうかも知れないし」

「もしかしたら、化粧直しに行ったまま消えちゃうかもしれないから・・・」

 望は菫が今日一番の笑顔をしたように見えた

「ははは・・・どっちが?」

 望は長時間菫をこの話に留まらせたことを詫びて繋いだ手を解き、菫を見送った。菫は振り向かず繋いでいなかった方の右手を頭より高く上げ左右に振った。

 望の隣にはタオル地のハンカチがまた戻ってくる主を待っている。”あの女子高生の椅子になりたい”望はあの日量子に言った言葉がよみがえった。何故あんなことを言ったのか?これは昨日まで糸が途切れていた記憶の考察になる。”かかあ天下”とは群馬の女性を示す俗語である。自分の母親も群馬の人だった。大学に来て散布図や相関係数を知れば、そんな広い主語が意味のある訳ではないことは容易く分かった。

 相関係数rは-1から1の間で数字を取り、1に近づくほど相関関係があるとする。0になると全く相関がないとなる。今流行の血液型占いも何処ぞの教授がデータを取ったら0.4~0.5位でとても相関があるとは言えないという結果を得ている。

 メディアは血液型占いといった”儲けのタネ”をそう簡単に台無しにはしない。メディアに係わっている人達の飯のタネをそう簡単手放す愚行はしないだろう。その”場”には”正しい事を伝える”という軸は無視しているのだ。まあ、嫌味で言えば意図的にボルン-オッペンハイマー近似を取っているとでも言おうか。

 そう考えると群馬の女性とかかあ天下の相関性も血液型占いの程度よりも低く、印象的な人が偶然、複数いただけだと思う。多くの人は識者という肩書きを持った人の言葉に騙されてしまい、検証する手段を経験に委ねてしまう。ディラックのノーベル賞の時の言葉が身に染みる。しかしこの話は菫にはできるが、碧や桃香には無理な気がする。

 望は独りで思い出し笑いをして、自分は菫が強い女性だということも、所帯を持てば自分を尻に敷くことは容易に想像できた。しかしそういう女性は好きだった。あの日、量子が初対面で食事に誘ったように、自分も直感で菫に好意を抱いたに違いない。

 大宮に吹く風が穏やかに感じた。望は先程婦人に頂いた鳥の羽を眺めていた。”炭素の同位体を調べれば年代が分かるな”と考えて、下らないと、ほくそ笑んだ。櫛稲田姫命は市井の方にとってはどんな御利益を求めて参られるのだろうと考えた。櫛稲田姫命は八岐大蛇の生贄でそれを須佐之男命が助けて妻にした方だ。予備校の古典講師が教えてくれた須佐之男命は悪業で神々の住む高天原を追われて、葦原中国、すなわちこの世に来たと聞いた。姉である天照大御神が所業の悪さに天岩戸に隠居してしまったのは有名な話である。

 須佐之男命は櫛稲田姫命の両親に櫛稲田姫命を妻にしたいと告げ、自分が天照大御神の弟であることを告げて両親を納得させた。

 櫛稲田姫命は乱暴者の夫を飼い慣らした日本史上最高の良妻なのかもしれないと思ったら可笑しくなった。八岐大蛇のような直接攻撃では太刀打ち出来ないが、夫を飼い慣らすような間接攻撃には絶大なお力を示されるのだろう。”菫と相性がいい訳だ”そう思うと笑いが込み上げた。

 菫がこちらに向かって歩いてくる

「お待たせ」

「羽を見て、何をほくそ笑んでいるの」

 タオル地のハンカチに、待っていた主が帰ってきた。開口一番

「望は年上好きだもんね」

 望は菫の言葉が小夜に対する嫌味だと気付いた

「この神社にお祀りされていらっしゃる櫛稲田姫命ってどういう功績があったか考えていた」

「どういう御利益?」

「性格に難のある旦那を更生させる神様」

 菫は黙り込んだ。望が話題を変えようとしたら菫が深刻そうな声で

「性格って、努力すれば治るのかな?」

「菫さん、直したい性格あるんだ。僕にはそんなところ見当たらないけど」

「ありがとう。望は優しいのね」

「まあ、気を遣って言ったわけじゃなくて本心だけど」

「ヤキモチヤキと嘘吐く人が許せないとこかな」

「菫さんには嘘は言っていないよ」

「望は私に嘘を吐いていないと思う。だから一昨日もずっと話していたかった」

「一緒に居たら、間違いなく菫さん押し倒して男女の関係になっていたな。未来の菫さんの歴史通り」

「はっきり言うのね」

「僕は好きな人には嘘吐かない主義だから」

 10秒ほどの沈黙の後、力強い声で菫は告げた

「ねえ、望。私のこと好き?」

「好きですよ」

 望は即答した

「小夜よりも?」

「今は誰よりも佐々木菫さんが好きですよ」

「”今は”?」

「僕が僕の中で菫さんが好きなのは僕の言葉で言うと”恋”なんだ。恋は自分の中だけにある状態で悪いことじゃないと思う。でもそれが僕の中から外に出た時、すなわち言葉や行動に移ったとき”愛”に変わると思っている。これは悪性を含んでいる。愛は侵略行為だ。愛は菫さんの心も奪うし、時間を奪う。大切にしてくれた両親の管理からも奪うし、菫さんが持っていた理想や憧れも奪ってしまうことになる。愛を客観的に正当化するなんて信じていない。でも悪業と知りながらも僕は行動を起こす。

 こういう回りくどい言い方しか表現の手段を持っていないけど、この件が解決して僕が消滅しなかったら菫さんに告白しようと思っている。

 ぼくはそういう考え方をするので、付き合う前はどんな女性にも声を掛けるけれど、付き合ったら他の女性には見向きもしない。この前話した通り、投票した議員へ僕が担う責任と同じでね」

 菫は単調な言葉で

「重いよ、そんな重いから碧さんは耐えられなくなったんだよ」

「でも、菫さんなら簡単に熟(こな)すと思うけど」

「信じていいの?」

「今は夢を見ているだけかもしれないね。付き合ったから必ず結婚するわけじゃないからそれまでに気に入らなくて、僕が菫さんの意図した人間に直せないようなら他の人を見つければいいんじゃない」

 菫は力のこもった声で

「この話、解決しなくっちゃね。望がどんな素敵な言葉で私を口説いてくれるか楽しみにしているわ」

「国語の偏差値23の人にそれを求めるか」

 菫は笑って

「さっき、すんなり返歌を詠んだよね。国立大学に行きたくなくてわざと悪い点を取ったでしょう。紫さんが望んでいた大学に入るために」

 菫は望の頬をつねっている

「イテテ、そんな器用なこと僕が出来るわけない”かは”(古典の反語)。僕は菫さんみたいに不思議少女を演じきる才覚はないですよ」

「ペテン師の言葉を信じるか!」

「菫さんは才媛だね。僕なんかじゃ役不足でしょうに」

「才媛か、望以外に言われると腹が立つ言葉ね」

 望は遠い目をして

「僕は菫さんが行ってた高校と偏差値が20位違うからよく分からなかったけど、肩書きの重さって相当だったんでしょう。僕も大学に入って人からの見られ方が変わって分かった。菫さんは高校時代からそういう目で見られていたんでしょう。僕は1年余計に勉強してこの学校に入ったけど、微塵も菫さんには妬みはないんだ。むしろ、そういうところも含めて菫さんを尊敬しているよ」

 菫は俯いて悲しい表情をした

「我慢したこと話しちゃおうかな、望にバラされるなら気分が良いな。

 愛美なんて大嫌い! 勉強しないで何でもわかっちゃう奴なんか大嫌い!」

 望は菫の左手を握った

「菫さんはずっと努力して肩書きに相応しい自分でいたんだろう。頭のいい人の中には愛美さんみたいな人が多いからな、試験で順番通りにしか問題解けない人」

「望は、分かっていたんだ。天才には2種類あるって」

「さっきのお弁当、美味しかったよ、多分愛美さんなら一生掛けてもあの味には到達できない。きっとそういうことさ。僕のために早起きしてくれてありがとう」

「望と話をして泣きながら愛美が帰って来たとき、凄く気持ちが良かった。私の生きて来たことが全て肯定されたとさえ感じた。愛美は持って生まれた能力でここまで来た、でもウチの大学ではそれが通用しなかった。望のマングースとオアシスの話、すごく感銘を受けた。今更愛美に理解できる勉強の手段を得るのは難しいと思う」

「人は平等に生まれて来ないし、育った環境だって違う。彼女みたいに平等だの権利だの言う人はそもそも理系には向かない。自然の出来事に真摯に向き合わないと本来の姿は見えない。愛美さんはいきなりフィルターを掛けて世界を見てしまった。理系には遠回りな発想だと思う。微分も積分も意図も分からず、ただ言われるままに解いて好成績を残していたのだろう。少なくともウチの大学の校風には合わない」

 菫は真顔で

「愛美の悪口を言うな」

「悪口かな、あまり器用じゃないし、語彙力も少ないからそう聞こえるなら、僕の勉強不足だな」

「望は”菫が先に言ったんじゃないか”って言わないんだね」

「これは中学の国語の先生が反面教師ということだね。50歳過ぎて責任を中学生になすりつけるような大人にはなりたくないと思ったから」

「人を恨むと罰が当たるよ」

「残念でした、僕は碧に振られて仏教の勉強をした頃から死んだら地獄に落ちることを覚悟しているんだ。だから生きているうちに今できることは積極的にやろうと思ったんだ」

 菫はあきれた顔をして

「なんで地獄に落ちると思ったの」

「簡単さ、地獄が怖いと思わせるのは、詐欺師の手口と同じ、恐喝と変わらないと気付いたからさ。詐欺師の言葉に恐怖する振りを覚えたのさ、恐怖の素振りの裏で笑いをこらえているって感じかな」

 菫は笑って

「地獄って恐喝なの」

「呪いとか、祟りも恐喝だね、見えない物は言葉を重ねて信じさせるしか手段はない。詐欺師は人の心にある罪の意識を増幅させて人を支配する。余り感心しないやり方だよ。最初に見てもいない地獄物語を聞かせて、悪業をしたせいで地獄に導かれるっていう定型手順書があるみたいだね。誰が考えたんだか」

「見えない恐怖を作って、その恐怖に導かれるって訳か。根拠とか妥当性を疑わない人は簡単に騙されちゃうね」

「歴史の呪い祟りは大抵人が仕込んでいるって思っているよ、呪い祟りとか言うと大抵の人は二の足を踏むからね。でも時々僕みたいにインチキに気付いちゃう奴が出てくる訳。そういう奴は昔ならば人の手で闇に葬っちゃえばいい、祟りでそうなったって宣伝活動になって一石二鳥だね」

「この話、神社の裏でする話かしら?」

「でも、1000件に3件は本当の呪い祟りがあるらしいから侮れないけどね。まあ本物か贋作かは一般人には分からないだろうから」

 菫は静かな声で話を戻した

「結局、私に憑いているのは呪いや祟りじゃないのよね。そしてパラレルワールドも望は否定している。じゃあこの状態はどういう状態だと思っているの?」

 望は顔をしかめて

「シュレーディンガー方程式の解”Ψ”みたいなものだと考えている」

「分かりにくい回答ね、解説して」

「僕は多重世界に疑問なんだ、3次元までは信じられるけど、次に時間の軸を追加するのはしっくりいかないんだ」

 ここでいう3次元は、3次元ユークリッド空間を意味しているが、高校で標準以上の数学を学んでいる菫にとっては解説無しで話が通じると思っていた。そして、専門的に学んでいる分野でも自分と菫の知識は遜色ないと疑わなかった。

 これは菫が高校の同級生だった碧や桃香と明らかに言葉の感じが違うことで気付いたからだった、今日話してみて会話の組み立て方が紫に似ている気がする、それを具体的に示せる言葉は用意できないが、菫ならば間違いなく気の利いた言葉で表現できるものだろう、いつか桃香が言ったとおり、”高校のうちに読んでおく小説がある”という言葉が胸を締め付ける。いつか教えてもらった、どこぞの頑固な職人が、専門以外に社会性に乏しい話だった、自分も職人気質を快しと思っていた。

 3次元は簡単に言うとx(横軸)、y(縦軸)、z(奥行き軸)の世界の話である。現在この3次元世界を人間は認識していると認識している。

「3次元に時間軸を追加すると4次元になって、5次元はその4次元にさらに軸を増やす訳だから世界が複数存在するってことよね。つまり5次元の世界こそがパラレルワールド」

 つまり3次元の世界にt(時間軸)を増やしたのが4次元の世界になる

「もし、パラレルワールドに相関性や相互性があるとしたらあり得る話だわ」

「座標(1,2)と座標(-2,2)が万有引力や分子間力で相補性があることを示す位難しいと思う」

「そっか、でも、座標(1,2,3)と座標(1,2,10)をXY平面から見れば、点は1つにしか見えないけれど」

望の解釈が正しければ、菫が言う話は、平行に並んだ窓ガラスを垂直な位置から見たとき、手前のガラスと奥のガラスにある点の位置が一致した場合、観察者は手前のガラスにある点だけで、奥にある点は気付かないということを示している

「実際は、2つ存在しているが、重なって1つしか見えない。でもこのXY平面から観察されないだけで、YZ平面から確認すれば2点有ることは分かる筈だ」

「確かに、2点有ることは変わりなくて、偶然観測者の視界から隠れているだけ、望の言うとおり相関性や相互性は考えにくいわね」

「でも、測定される前の電子だったら理屈はあり得るね」

「どういうこと?」

「高校の理科で習う原子モデルはインチキ、いやそれは言い過ぎだ、神話の物語を信じ込まされていると言ったら良いかな。観察される前の電子は粒子として存在しない…2つの座標に半分ずつ存在しているってこと」

「量子力学の話か」

 望は菫が江ノ島に行ったとき小夜と自分の会話に参加できるように、予習したのだと思った。大学で指定された教材の先を読めばそこには量子力学のことは書かれている

「そうだね、観察される前の電子は実体がない」

「2つの点に相関があるとしたら量子の状態だって言っている?」

「そうだね、そうすると今起きていることは実体がない」

「だから、望は私の手を握っているんだ」

「核心に近づけば近づくほど自分が消え去ってしまう恐怖に晒されるんだ?」

「私たち、不安定に揺れる吊り橋に手を繋いで渡っているみたいね」

「今こちらを盗み見している人達は、僕たちがこんな話をしているなんて想像できないだろうね。多重世界の住人なんだろうな僕たちは」

 先程出会した恋愛映画の撮影現場のような出来事の続きを期待しているのだろうか、ここにいて執拗に視線を感じる

「観客から拝観料を貰わないと合わないね」

「菫さんも気になっていたんだ」

「望は私を独りにしたりしないって分かっているから、誰に見られも平気よ」

 望は、菫が疑問もなくあっさり答えたことに好感を持てた。かつて紫と会話していたときのような心地よい感覚が蘇った

「菫さんって素敵な人だね、いつまでも話していたいや」

「望って面白い人だよね、他の男が全く見向きもしないところに興味があるなんて」

「菫さんは見向かれるところだらけだからね。必ず僕よりスペックのいい人が誘いに来るだろうさ」

「私はね、望が思っている以上に望を評価していると思うよ」

「菫さんは、人を見る目がないね」

「望以上の人っている?」

「渉師匠とか」

「あれは、別格。ああいう人と付き合うと身が持たないわ」

「なんか、菫さんの発言矛盾していない?」

「私なんか、勧修寺有美さんには遠く及ばないってことよ」

「そうかな?」

 菫は望の頭を小突いた。望は話題を戻した

「シュレーディンガー方程式で計算すると1000光年離れる場合が想定できる。物理化学の教材に書いてあった。測定されると一瞬で地球に来る、相対性理論が光より早いものは存在しないという定義だから、運動と考えると困っちゃうね。

つまり、僕たちのいる世界は実体のない世界だっていう仮定をするなら成り立つ

だから僕はこの話が終わるまで菫さんの手を離したくないんだ」

「もし、私達が実体のない存在だったら、観察者は誰なのかしら」

「さあね、櫛稲田姫様かな」

「それならさっき私達は実体化したね」

 菫は笑った

「実はね、前橋で菫さんに会った時間の記憶が2つあるんだ」

「どういうこと?」

 菫の顔から笑顔が消えた

「あの日足利駅で降りて紫さんと食事をした記憶と前橋で量子さんと食事をした記憶、同時に存在するんだ」

「食いしん坊ね」

 菫は真顔で言った。望は菫の選んだ言葉に安堵した

「菫さんはこの話、驚かないの?」 

「私も、望といて感覚が麻痺しちゃったのかな、一応ツッコむけど、思い違いじゃないの?」

 望は真剣な顔をして

「紫さんが未来から来た話はその時聞いた、そしてすんすんの本名とあだ名の由来もその時、紫さんから聞いている、桃香さんにすんすんの話は聞けない。同時に起こっていないと黒羽量子という名前が僕の記憶にある筈がないんだ。

 黒羽量子さんとの行動は菫さんが観察している。

 さっき話した未来から来た紫さんの話は料理屋の女将が観察している。

 もっと不思議なことは未来の菫さんが経験したことを変えた後に、この出来事を思い出した話で、昨日まではこの時間自分が何をしたのか全く記憶がない。

 さらに言えば、実験の時に起きた地震の記憶も昨日は思い出した、これは奈緒が観察している。

 菫は紫に確認することを提案した。しかし、去年の7月に斎藤と出会って紫の話をしたとき、電車を降りた後の記憶は残っていなかった。ちなみにこれはゆき先輩と呼称する田沼由樹が観察している」

 さすがの菫も首を捻った

 手水舎の前で未来の菫が現れたとき、前橋で出逢った記憶も、地震の記憶もなく、今の髪型も違ったことを語って、望に詫びたことを伝えると、菫は手を強く握ることしかできなくなっていた

「未来の菫さんの目的ってなんだろう」

 穏やかな公園の景色に望は答えの出ない言葉を投げ掛けた

「多分、未来の私はパラレルワールドを理解していなかっただけだと思う」

 望は最も合理的な答えだと思った

 菫の見解だと、自分が小夜を死に追いやった後悔が蓄積されて、この時空の後悔の時間に戻ってきたという仮説にたどり着いた。これは紫の母親が紫の弟のことを按じてこの時空に迷い込んできた理由と重なり、実例は少ないながら共通性が見いだせる。確かに手水舎の前で未来の菫は望に詫びている。

 そう仮定したら、望が覚悟したように小夜の人生を2人が放棄すれば、全く同じ悲劇が菫の未来でも起こる筈である。今、望の隣に座っている菫も同じように未来に時空を彷徨うのであろうか。だとしたら、小夜の命を何としても守る必要がある。

 <つづく>

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