第35話 葬送の使者
葬送の使者
葬送の使者は祖父なのだろうと望は思った。祖父は小泉で飛行機の設計をしている技師だった。中島飛行機では、武蔵野が発動機、太田が陸軍の機体、そして、小泉が海軍の機体を製造していた。祖父の生前は幼い望によく海軍の話をした。戦艦武蔵の話も祖父がしてくれた。技師だけあってどんな書籍やテレビの特別番組よりも具体的で明確だった。
沈みゆく戦艦武蔵が自分の死への暗示としたら、史上最も攻撃を受けた壮絶な最期が訪れるのであろうか。確かに自分はあるべき歴史を変えてしまっているのだからこの比喩が大げさでないのかもしれない
「戦艦武蔵は死に装束を身にまとい戦場に赴いた」
海軍が戦艦武蔵に求めたのは囮だ、ご丁寧に塗装を目立つ色に塗り替えて出撃している。もはや、当時の海軍には正攻法で立ち向かえるほどの実力がなかった。きわめて被害の大きい作戦でしか勝機を得る見込みがなかったのだ。任務遂行のために戦艦武蔵は航空機の攻撃を一手に引き受けるという作戦だったと祖父に聞いた。
一方、戦艦武蔵はどんな攻撃を受けても、傾きさえしなければ沈むことがないはずだった。それは、艦の内部に浮力を確保する密閉された空気室を設けた設計だったからだ。当時想定されるいかなる攻撃を受けても艦内部に設置された浮力室用の防壁を破壊することは不可能だったのだ。
ただ船が傾いたらどんな船でも戻さない限りは助からない。同型艦大和を沈める際は魚雷を片側に集中させて戦艦武蔵より容易に葬っている。戦艦大和の最期を看取った駆逐艦冬月の吉田司令は、戦艦大和が傾いたことを見て沈没を予想した。船が傾くことを放置すると沈没は免れない。現に戦艦武蔵は機関室に注水してまでも艦の傾斜を戻そうとしたが戻せなかった。
誤算は、浮力室の防壁も当時の技術では一枚板の鋼鉄で作れる筈がなく、継ぎ合わせの構造だった。度重なる攻撃の衝撃で鋼鉄の継ぎ目が緩んでしまう事態が生じた。密閉が破れ注水を許してしまったことが致命傷だったようである。海軍にとっては不沈艦武蔵の沈没は”起こりえないことが起こった”衝撃の事実であるが、現代この事実を語れる人もごく少数のようだ。
先の大東亜戦争は望にとって単なる歴史物語ではない、望の祖父は飛行機の設計という形で大きく歴史に係わっているのだ。祖父は”生き残った者のすべきこと”についての使命めいた任務を背負っていたと祖父と同じ大学に入った今は考察できる。歴史の事実を紐解き、語り継ぐ事が本人の意志に背いて強制的に歴史に呑み込まれた人々の供養だと考えていたようだ、それを暗愚な父でなく自分に託していたのではないかと判断した。葬送の使者に祖父が来たのならば、海軍に係わる話が下りてきてもなんら不思議ではなかった。
中島飛行機の技師達は戦後口を噤んだ、祖父も例外ではなかったが、望にだけは話してくれた。
望は、軍役に満たない年齢で終戦を迎え、気安く平和を語り、誤った歴史解釈で尊敬する先祖を侮辱した国語の先生を人として許せない。その動機の中には、祖父が残していったものへの侮辱も含まれているのだ。国語の先生は事実を知らない愚者にもかかわらず、誤った解釈で生徒に自分の結論を押しつけている。それはあたかも幽霊や祟りという不確定な要素や暴力的な言葉を用いている新興宗教のように感じられた。
望は、初めて2人だけで出かけた時間には不釣り合いの話題に付き合ってくれる菫の対応が嬉しかった。それと同時に菫に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。この配慮のない対応は未来を知った望の甘えに他ならない。菫は相槌を打ちながら授業をうけるような眼差しで自分の話を聞いている。
望は菫には現時点ではできない話を思い出していた。祖父は自分が死んだら葬式では花を飾らないで欲しいといった。祖父の遺影に菫を写したら祖父は悲しむのだろうか?無駄な考えだ、もうすぐ自分は祖父のところに行くのだから。断片的な子供の頃の記憶を重ね合わせると祖父の花嫌いは特攻機が花の名前だったからだと思われる。
設計技師にとって、軍という組織的な命令に従って飛行士の死を前提とした飛行機の設計を課せられた。その命令がいかに祖父を苦しめたかということは望の想像が遠く及ぶものでない。国家の滅亡と倫理、祖父は現実を咀嚼するのに苦労したに違いない。戦後は戦争で死んでいった者の無念を背負っていたのだろう。祖父が戦争のことについて望以外には殆ど話さなかった事が全てを物語っていたようにも感じる。
望の父親は祖父の葬式には盛大な花で飾った。意図を父親に聞いた事はない。ただ、望は物言わぬ祖父が気の毒だという感情はなかった。父親は勉強すべき時期に非行化し客観的には学が無い人だった。それでも望は非行化した頃の面影を一切父に見ることはなかった。
望の所属する写真部の顧問は英語教授である。顧問の教授とは毎年7月に一席設けて懇談会を行っている。その席で、教授は親を殺害した子供を評して”親を越せない子供は気の毒だ”と語った。真っ先に父の顔が浮かんだ。その父は国立大学に行けなかった息子の高い学費に文句を言わず稼いで捻出している。
「おじいちゃん設計師だったんだ」
菫の言葉に望の追憶が途切れた
「実はおじいちゃんウチの大学の大先輩。ごめんね退屈な話に付き合わせちゃって」
「結構興味があったよ、この国語の先生が紫ちゃんの話に繫がるんだ」
「まあ、戦勝国は大分温厚な敗戦国処理したからね。自分達が無差別殺戮した負い目や、命より国家を優先する兵士を目の当たりにしてきたから。状況分析が極めて低い中学の国語の先生みたいなのが背景を理解できず誤解して、なんの根拠もない自分の解釈を教師という立場を利用して性善説推しの新興宗教の布教活動する世の中になっちゃったけど。
・・・鎮守の領域で恨み話は良くないね。一昨日から僕の話ばっかり聞かせて申し訳ない。菫さんの話も聞きたいな。高女の娘と髪の毛引っ張り合いの喧嘩したとかいう武勇伝とかないの」
「ははは・・・そんなわけあるか
でも紫ちゃんが言っていた”こんなところでサボっていないで私たちのところに来なさい”ってのは的を射ていると思う。望がいまでもそんな下衆教師に気を留めているなんて、少しがっかりかな」
「菫さんこそ僕を見誤っていない?僕にはがっかりするところしかないよ」
「望は自分の座標を見誤っているよ。自分の評価が厳しすぎる」
昨日恩師にも言われたことだ、お世辞も2度続くと多少は真に受けることもある。6秒ほどの沈黙の後、菫が口を開いた
「・・・私の話か、太っている頃は楽しい想い出はなかったな、貴重な高校の時期は食べているか勉強しているかの記憶しかない。望の失恋話を聞いていると楽しいよ。私にはそういうことがなかったから」
「碧さんや桃香さんどうしているかな?」
菫は望の横腹をつねった
「痛いです」
望は感情なく言った。言った後、後悔した。自分が動揺していることに気付いた
「-10点」
「菫さん位かわいかったら、ウチの大学じゃ奈緒さんみたいに女王様待遇の地位を確保できるでしょうに、大学の連中は専門バカばっかりだけど、中学の時に仲間はずれにしたような下衆もいないし」
「下衆ならいるよ
”どうせお前みたいな無愛想で難関大のブスだと誰も相手にしないだろう。俺様が声を掛けているんだから俺のものになれ”
って女を誘う下衆野郎が」
「・・・」
「どうやら、そいつは高校の時も同じ手口で女をたらし込んだらしい。その娘はその男から逃げるために、わざと男の嫌いな奴に抱かれて、男に愛想尽かされてやっと逃げたられたらしい」
「下衆野郎だね」
望は無感情に言った。菫の仮説はまったく望の想定していない解釈だったが、碧に物足りなさを感じていたのは事実であった、それでも、そういう部分も含めても別れるつもりはなかったよ」
菫は望の顔を10秒ほど凝視した後
「望、私のことを怒っていいのよ、私を酷い言葉で罵っていいのよ」
望は笑顔で
「菫さんは、きれいな人だね。一緒に歩いていることが夢みたいだ。
僕はね、好きになった人には不機嫌な顔をしないようにしているんだ。だって不機嫌な顔した人と話すのは気持ちいいものではないでしょう。
僕は他の男と違って容姿も性格も頭も良いわけじゃないから、せめて笑顔だけは他の男に負けたくないんだ。だから・・・我慢している訳じゃないんだよ」
「ねえ、望、男女の能力差が歴然としているとお互い疲れちゃうことがわからないの。碧ちゃんがどんなに追い詰められていたか気付いていなかったの?」
望は不機嫌な顔を作らないように
「足らない部分を満たして欲しいという気持ちは諦めて求めていなかったよ、身長が高い人を彼女が望んだとしても、急に僕の身長は伸びないのと同じ。足らないところは他で埋め合わせればいいという発想なんだけど」
「望、矛盾しているよ。君は高嶺の花で僕はふさわしくないみたいなこと言ってなかった?」
「でも、それは付き合う前の話だよ。この場合は条件が違うよ」
「さっきの選挙の話を聞いたら、望は付き合った人には最後まで義理を通す人なんだ
・・・重っ。
望も重いけど、たぶん碧ちゃんは元カノの紫ちゃんが重すぎたんだと思う」
望は笑った
「同じような言葉、桃香さんにも言われたな」
望はまた菫につねられるのかと思って身構えたが、菫は望のジャケットを引っ張るだけだった
「望は、紫ちゃんの呪縛から逃れるために、碧ちゃんに声を掛けた。違う?」
望は禊ぎを行う手水舎までの距離が遠いと思った
「桃香さんが言いたかったのはそのことだったのだろうな。桃香さんは奥ゆかしい人だったから僕にははっきり言わなかったけど、碧さんにそのことを確認することはできる人だった」
菫が怒った顔をしたように望には見えた
「はっきり言わない人だから、望は桃香ちゃんを好きになれなかった。碧ちゃんの失恋を生かしたってことかしら」
望は現役で大学に合格したら桃香と2人で出かける約束をした話をした。そして、望が大学に合格出来なかったから御破算になったことを話した。
現役のセンター試験の日、偶然であった紫と2人で話していると量子と真希の2人が会話に加わった。真希は桃香と同じ中学で友達だった。4人の会話を見つめる桃香を望は手招きして呼んだが桃香は会話に参加を拒否して逃げていってしまった。
桃香は紫と話す勇気がなかったのが原因か、それとも4人が理科系専攻で会話が合わないと考えたのか、桃香が中学時代志望していた自分達の高校より偏差値が10高い紫達の高校に行けなかったことに劣等感を抱いていたのか分からないが、会話に参加することを拒否した。それを言えば、菫の高校はさらに偏差値が10高いが、それを知ったら桃香は気絶してしまうのだろうか?1年半程親しくしていたが、桃香が持っている階級や肩書きに関する劣等感は望には全く理解できなかった。そういう桃香の奥ゆかしいところが望は苦手だった。
加えて言えば男性の多数が、自分より学歴の高い人を嫌う傾向が強い。これも望は理解できない。これは逆手にとって極力積極的に望より頭の良い女性に近づくようにしている。望は女性と駆け引きするのはいいが、男と駆け引きをするのが面倒だった。
望は、菫と話せば話すほど菫の能力の高さに魅了されていくのが分かった。
「菫さんは凄い人だ、多分僕が答えを出すことに拒絶して、だらだらと考えて結論が出なかった答えを的確に導いているね」
「望は自分の出した結論に縛られすぎている。逃げてもいいんだよ。なんでそんなに格好つけるの?」
「僕はね、ずっとバカにされて学生生活をしてきたから、そういう事しか支えがなかったんだよ」
「望が人に甘えられないのは、人を信じていないからでしょう。私と一緒だ。気持ち悪いくらい一緒だ。
私は男にかわいいって言われるのが嫌だ。
私はみんなに頭が良いって言われるのが嫌だ。
私は人から羨ましがられるのが嫌だ。
・・・陰口を言われるのが一番嫌だ。
望も本当は私のこと気に食わない女だと思っているんでしょう」
望は精一杯機嫌の良い顔を作った
「僕は、菫さんのこと尊敬しているよ、だって菫さんは僕の師匠だもん」
菫は望の背中を天満神社の前でしたように、平手で強めに叩いた
「・・・一昨日喫茶店で、やっと碧さんへの愚痴が言えたんだ。
僕はね碧さんと別れた後も決して碧さんを悪く思ってもそれを口にしなかったんだ。それが碧さんへの復讐であり、自分への戦いだったんだ。でも受験に失敗して色々考えたとき、碧さんを許したい気持ちが芽生えたんだ。菫さんの推測は衝撃的だったけどそういうことかと凄く納得できた。僕まで碧さんを悪く言ったら碧さんの気持ちはひとりぼっちだ。誰かとまた恋に落ちるまでは碧さんの17歳の居場所と残像は残しておこうと思った」
望は、碧さんへの償いの気持ちが小夜さんに強く惹かれた原因だろう。きっとそのことも菫は気付いていると思った。
菫は望を見つめたまま言葉を失った。望は菫が難しい顔をしているなと思った。短い沈黙の時間が流れた
「菫さん指切りしないか」
菫は返事に困っているように望には見えた、望は迷う菫に気を遣って
「ごめん、忘れて」
望は手水舎に向かって歩き出した
「手水舎の作法は知っている?」
菫は望を追いかけると両手で望の手を取って強引に小指を絡ませた
「すねないの!いいよ、望のお願い聞いてあげる」
「ああ」
望は気のない返事をした
「約束はなに」
望は笑顔で
「約束なんて何もないんだけど」
菫は小指を見た後、望の顔を凝視した
「指きりげんまん、嘘吐いたら、王水飲ます」
菫がそう言うと、望の目から涙がこぼれた。10秒程間をおいて菫が優しく望に語りかけた
「何の約束をしたの?」
望は何も答えず、手水舎に向かって歩き出した
菫は望の背中に抱きついた
「前橋で出逢った記憶も、地震の記憶もない。居酒屋で望はポニーテールの襟足がきれいだと褒めてくれた」
望は背中で震えている女性は未来の菫だと直感した
「どうも僕は年上の人に好かれるみたいだから、未来の菫さんを選ぶよ」
「苦しいよ、苦しいよ、20歳の望にあんな顔されちゃ、・・・あんな顔、私の望にされたことないよ」
「僕はね、今の菫さんも未来の菫さんも好きだよ、もっときれいになる菫さんが見られないのは残念だけど、今でも十分満足している」
「ねえ、望どういうことなの?」
「時空がおかしくなっている。多分僕は誰の記憶にも残らず消滅すると思う」
「そんな・・・。ごめん望、私そんなつもりじゃなかったのに」
「いいよ、19歳の菫さんは指切りしてくれたから思い残すことはない。あとは上手くやるから19歳の菫さんに身体を返して。それと、お願い、今日だけでいいから、菫さんと僕が会っている間は、どんな衝撃的な事が起こっても今の菫さんの身体を奪って出てこないで欲しい」
「ごめん望、約束する」
望は背中の菫が震えているのが分かった。菫は泣いているのだろう
「何で私、泣いているんだろう」
菫の震えは止まったが泣き声だった
「望、また私じゃなくなった」
「いつから?」
「”王水飲ます”って言った後から」
「そうか、菫さん、安心して、正体が分かったよ、お詣りが終わったら相談したい事がある。
さあ、手水舎で禊ぎを済まそう」
望は他の参拝者に注目されている自分達のことが恥ずかしいとは思わなかった、菫の震えは止まったが離れようとしなかった
「氷川神社の御利益があったな」
泣き声の菫は
「まだお詣りはしていないよ」
「神社はね、
参拝しようと思ったこと
神様に無礼のないように準備、振る舞ったこと
実際に神社に来たことでもう十分御利益を得ているんだ」
「本当?」
「僕は子供の頃、別神社の神主からそう教わった。神様が与えてくれることではなくて、自分が行動を起こすこと、そして準備をすること、そして、準備した振る舞いをすること」
「神社ってそういう原理なんだ」
菫は望の身体から離れた。菫の目が幾らか赤かった。望は菫の耳が必要以上に良いのはなんの因果か考えた。ああこれは仏教の管轄の話だ。望は叱られること覚悟で菫の髪を撫でた。とても柔らかくて、自分の使っているシャンプーのハットトリックの匂いがした。
望は手水舎の作法を説明した後、一言補足した。
「手水舎は手と口を清める。つまり諸悪は口と手から起こる。五感で得るものは情報に過ぎず、それを処理したうえで言葉になり行動になるのだ。
ここから御神体にお目通りするに当たり一時的に汚れを払うのだ」
菫は望の身体から離れた
「望は祟りをどう考えるの?」
「大抵の場合は人が創った演出。それ以外は神様の取り巻きが起こすか、人または土地、社会が起こす。ただ確率は0.3%程度だと聞いている。人の災いは寺、土地、社会の災いは神社が適切だが、作法さえ間違えなければどちらでもいいと教えてもらった」
「今回の件は、望はどう理解しているの」
「おじいちゃんと戦艦武蔵の関係者が英霊になって教えてくれたのかな、参拝が終わったら詳しく説明するよ。
それと、除霊の願(がん)はかけない方がいい。願をかけると定期的に行うことと、お礼参りが必要になる。今回は神様に自己紹介とお目通り頂くことのお礼をすればいい。
きちんとお詣りすれば神様は実在する。観測した電子と仕組みは似ているかも知れない」
望は話して辛くなった。未来の菫と一緒に消えてしまう自分には大学生の菫に願を掛けた後の作法を助けることはできない
「神社ってお願いするためにあるのかと思った」
望は笑って
「では、願いが叶う人と、叶わない人が現れるのはなぜだと思う」
菫も笑って
「神様も私と同じで差別主義者だからかな」
「違うよお布施が足らないからだよ」
「お布施はお寺でしょ! 私は喫茶店のお姉ちゃんみたいに騙されないのよ」
望は声を出さず好きだよと口を動かした後
「さすがは菫さん。それは詐欺師の言葉だね。罪の原因に本人が気付かないと神様は助力して頂けないというのが正解に近いかな」
「なるほどね、原因が分からず神通力で問題解決したら人はまた神通力に頼るようになるね」
「だから宗教は程々でいいんだ、うちは仏教の檀家だけど、お釈迦様の仰ることの半分位しか忠実に守っていない。
仏教じゃ人間に生まれて来ることは何らかの罪があったと考えるから、誕生日を祝うなんて仏教を分かっていない証拠だと解釈するのが正しいね。でも彼女が喜んでくれるので僕は平気な顔で仏法に逆らって彼女の誕生日を祝うけどね。
大体仏教なんていつ作られた理論だよ?
ニュートン力学と量子力学みたいなもんで新しい発見で更新しなきゃ意味ないと思うよ。法律と神仏の預言者を通した言葉のどっち信じるかで迷う時点で間違っているね。僕は人の理解力を信じていないから宗教に関しては勧誘を一切信じないし、聞かれない限り人には話さない。大体、宗教に限らず肩書きを最初に言う人は高い確率で詐欺師だと思っているから」
「ははは、さすがは天魔。迷いがないね。地獄に落ちても悔いはないって感じ?」
「確認できない物に心を迷わせるなんてバカらしい。僕はコペンハーゲン解釈の支持者だからね、考えても無駄なことは考えない。
真剣な顔で勧誘に来る人は逆に関心するね、言って分からない人になんで声かけるのか、たいていの場合何かがおかしいときは定義がおかしい。ディラックのノーベル賞の言葉じゃないが、数字で示せない事象は疑われて当然だ」
「地獄に行くことを恐れない人は言うわね。
私もみんなから仲間はずれにされたとき思ったよ。世の中の人は平等に幸せになる権利があると思っているんじゃないかな。努力とか苦労とか悔しさみたいなものをみんな無視して」
「さすがLe Petit Princeを世間知らずの坊やと評する人は違うね」
「世間知らずの適応障害者、望の前なら遠慮なく言えるわ」
「Le Petit Princeを日本語でしか読んでいない人は”飼い慣らす”を”社会的適応性を付ける”という意味までたどり着けない。名探偵ビオラは才媛だね」
「偏差値23に褒められても嬉しくないわ」
「名探偵は名探偵と知られたら相手が警戒するから、不思議少女を演じてた訳ね?余程の自分に自信がないとできない芸当だね」
「望だって人からどう見られたって平気なくせに、人前で抱き合っても涼しい顔している人がよく言うわね。さらに地獄に行くことになんら恐怖を感じていない」
「恐縮です」
2人は笑った
「楽しいよ、望と話していて、話しかけて良かった」
「菫さんには気を遣わなくていいから、すごく楽しい」
「気を遣っていなかったんだ。このあとお姫様になるみたいだから、どうしてもらおうかな」
「姫様、遠慮せず何なりとお申しつけ下さい、ただお金はない貧乏学生なので、その点は予めご了承下さい」
「そっか」
「じゃあ手水舎で禊ぎを済まして参拝しよう」
2人は手水舎で禊ぎを済ませると、無言のまま本堂に向かった。
2人並んで2礼2拍手した。ここは関東の神社、作法も関東に従う。
お詣りを済まして、楼門まで来ると菫が突然おんぶして欲しいといった。
望は屈んで菫を迎えた
「大丈夫?」
「僕の腕触ってみて」
「菫は望みの腕を掴んだ」
「見かけによらず鍛えているのね。望、今日はありがとう、私のために・・・」
「姫様、逃げますよ、振り落とされないようしっかりお捕まり下さい」
<つづく>
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