第9話 メフィストと天魔

メフィストと天魔

 

 望はこの状況を打破する方法を思いついた

「ああ食べ過ぎちゃったかな、ベルトが苦しい、失礼」

 望はベルトを緩めるふりをして、わざとズボンを下ろした

「何、見せているのよ」

 奈緒が驚いた口調で言った

「いっけねー手が滑った」

「ケンケンのパンツ。・・・結構大きいのね」

 菫はいつも通りの口調で答えた。ケンケンはパンツに書かれたアニメのキャラクターだ。邦題は”チキチキマシーン猛レース”ケンケンは人の邪魔を生きがいとしているブラック魔王の相棒犬のキャラクターだ

「どこ見てんのよ」

 奈緒は顔を真っ赤にして言った

「望君のパンツだよ〜。奈緒ちゃん見逃しちゃった〜?」

 菫はいつもの調子でブレがない

「最低で変態ねあなたは」

 奈緒は菫に吐き捨てた

「結構大きかったでしょう?」

 望は菫にさらっと伝えた。

「なっ」

 奈緒は怒りで言葉が出ない

「うん大きかったね」

 菫は冷静に答える。

「何話しているのよ二人とも」

 奈緒の声は怒鳴り声だった

「ケンケンの絵だよ〜

 ・・・そっかごめんね奈緒ちゃん

私と見ていたところ違ったのか〜」

 奈緒は立ち上がって菫の口の両脇を掴んで左右に引っ張った

「この口か、この口が言ったのか」

 菫の手の平は望の左の平にすがりついた

「いたいよ、いたいよ奈緒ちゃん」

「奈緒さん、大人気ないですよ。手を出しちゃダメです」

 2人の言葉にようやく我に返った奈緒は深いため息をついて

「あっちの席いくわ、もう限界」

 独り言のように呟くと、ふらふらしながら別の席に移っていった。

 二人は哀れな奈緒を見送ると、菫が呟いた

「やっと二人っきりになりましたねぇ~」

 望は菫の言葉に若干の違和感を抱いている。それが何かは分からないが、何かが違うと思ったがあえて触れないようにした。

「こんなかわいい女性と二人っきりになったら何を話していいか分からない」

「最初のところ、もう一回言って~」

「かわいい菫さん・・・どうやってからかってやろうか」

「もぉ~エッチなことを考えているでしょう~」

「例えばどんなこと?」

「80点、ずいぶん腕を上げたね

 師匠は嬉しいよ〜」

 望はやはりぎこちなさを感じていた

「菫さんは僕をどこへ到着させたいんでしょうか?」

「もう、望君ったらプロポーズ?心の準備できていないよぉ~」

「ご両親への手土産は何が慶ばれるでしょうか」

「両親は甘党かな、和菓子なんか喜ぶと思うけど、お茶とかコーヒーとか安直に持ち込むと大怪我するから気を付けた方がいいわよぉ~」

「両親に”娘に近づくな”とか言われてみたい」

「そしたら”お腹の子供に罪はないのぉ~”って言えばいいかなぁ〜」

「菫さんは両親までからかうんですね」

「そんなことしないよ~パパおかしいね~」

「身重なんですね」

「他人事!、ひどい私を捨てて奈緒のところに行くのね

 うっうっお腹の子供は一人で育てるよぉ~」

 ここで通りかかった竜志に聞かれてしまった。

「お前達、そういう関係だったのか・・・」

 竜志は菫の言葉を信じているようだった

「望君ったら酷いんだよ

 奈緒の方が、奈緒の方が・・・うっうっ」

 望は涼しい顔で聞き流していた。多分菫も竜志が奈緒に気があることを知ってからかっているのだろう。ただ、奈緒の名前を出すのは揉め事の火種になる予感があり心配だった

「お前、鬼畜みたいな奴だな」

 望は薄笑いを浮かべた。菫に感じていた違和感がなくなったことを感じて安堵からの笑みだった。

「望、お前悪魔だな」

 竜志の声は震えていた。望は竜志の言葉が届いていなかった

「あっ、行っちゃったよぉ~」

 菫の言葉に望は我に返った。竜志の後ろ姿が見えた。

 自分の仮説を確認してみたくなった

「さっきの菫さんの顔、今日見た中で一番好きだったな」

 菫が明らかに動揺していることを望は感じ取った。菫は先程の冗談が真に受けられるとは考えていなかったようだ。菫の挙動で仮説は確信に近づいた

「望君ってほんとに悪魔みたいだね~」

 菫の言葉は受け流して、最も聞きたい言葉を望は口にした。

「菫さんは、人嫌いですね」

 10秒ほど無言の時間が流れた。望はうつりゆく菫の表情を眺めていた。長い時間に感じた。

「なんでそう思うの?」

 菫の口調は明らかに違っていた。

<つづく>

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