第6話 女性にしてはいけない話

 女性にしてはいけない話

「こらこら、望君は私とお話ししているのでしょう~」

「女性が胸の話をしたら会話から逃げるよう、渉師匠から指導されていますので」

「破門されてしまえ~」

「交際する人にしか女性の胸の話はしません」

「それ、私に告白しているのぉ~」

「菫さんは面白い人ですね」

「あ~また誤魔化した〜」

「菫さんは僕に告白されたいのですか」

「え~小夜ちゃんの前で私に告白する望君を見てみたいよぉ~」

「メフィストーフェレスですか、あなたは」

「奈緒ちゃん前でもいいよ、一緒に行こうか~」

「パンツを拝見しますので許して下さい」

「80点。其方を儂の弟子にしてしんぜよう

 でもね、師匠の私から最初の指導。

 女の子の前で最初からエッチな話はよくないよぉ~」

 望は”ツッコミを入れて欲しいのですか”と言いかけて止めた。わざと小夜に話しかけた。

「小夜さんこの前”相補性”って本読んで・・・」

 小夜は笑いながら菫を指さした

「こらこら、急に小夜ちゃんとお勉強の話をしようとしてもダメだぞ~

 実はね、望君が飲んだコップには秘薬が入っていたのよ~」

 「 ”ひやく?”リュードベリ定数のお話ですか」

小夜がケタケタ笑っている。

「え~2人だけの話題で私を仲間はずれにしないで~」

「はいはい、菫さんが今日魅力的に見えるのは秘薬のせいなんですね」

「100点。残念でした秘薬ははいっていませ~ん」

 ここで小夜が口を挟んだ。

「秘薬は私が入れておきました」

 菫は少しだけ音程を下げて

「小夜ちゃんが冗談を言うなんて珍しいね~

 準備運動は済んだみたいね~」

 望は小夜が口を挟む時間を与えずに

「秘薬なんか飲まなくてもお二人が素敵なのは分かっていますよ」

 菫は考える時間を与えない意図のようだ

「奈緒ちゃんと私ならどっちを選ぶぅ?」

 望は即答しなければならないことを弁えていた

「菫さんですね」

「私のどこが好き」

 菫が望の失策を誘導していることに気付いて、早打ち将棋のような会話に付き合うことにした。ここで間を空けてはいけない筈だ

「頭の回転が速いところかな」

 望の意識が、小夜でなくても菫でもいいのではないかという流れに動いていることを感じていた

「え~かわいいって言って欲しいな」

 望は菫がかなりの恋愛巧者でないかと感じた。容姿では小夜と格差がある。若干ぽっちゃりしていることを除けば、菫の言葉を疑う余地はない。ただ独特な声としゃべり方、そして相手を小馬鹿にしたような発言が男子学生から敬遠されているだけなのである

「はいはい、トテモカワイイデス」

 望はわざとカタコトで答えた。迷いを捨てて、当初の思惑通り一途に小夜を思うことにした。よく考えてみたら今日はそこまで重要な話を小夜に告げるつもりはなかったのだ。

 そもそも望には女性が他の男性でなく自分を選ぶ要素がないことを自己分析していた。それは受験を通して認識した自分への甘さ、入学後も自分より優秀な人達がざらにいて、容姿も秀でているわけでもない。菫が自分に贔屓にする理由など思い当たらないことに気づく冷静さを残していた

「うっうっ、かわいくないんだぁ~」

 嘘泣きしている菫もかわいいと望は素直にそして客観的に感じた

「10年後の菫さんもきっとかわいいと思います

 ・・・菫さんの話についていくのに精一杯なうえに

 魅力的な女性2人とお話して緊張していますのであまり気の利いた返答ができなくて申し訳ない」

 菫は望の隣におもむろに座り望の胸に手のひらを当てた、

「どれどれ~」

 望は戸惑いながらも、吐息を漏らし

「ああっ 

菫の柔らかい手のひらは望の心を壊していく

望は菫の手のひらを両手で掴むと・・・」

 望は即席の官能小説をそこで止めると、菫の顔を覗き込んだ。

「ええ~続きは~」

「いきなり触らないで下さいよ

 別に嫌ではないけど、一応」

 望は声を出して笑った。菫が同期の連中に変わり者と言われる理由を体験することができた。また他の男にもこんなに馴れ馴れしくしているのか疑問だった

「男の子が女の子にすると訴えられちゃうね~

 鼓動が早くなっているね、本当に緊張しているんだね~」

 望は菫が本当にメフィストーフェレス(悪魔)ではないかと思った。

「お2人は高嶺の花ですからね。鼓動も早くなりますよ」

「スミレなんてどこにも咲いているわよ」

「冬には見たことないですが」

 菫は恥ずかしそうに目を反らした

「僕も確認していいですか」

 菫は望の胸から手を離し、腕を交差させて自分の胸を隠すように庇った。望はゆっくりと小夜の胸を目掛けてゆっくり手を伸ばした。対面に座っているので伸ばしても届かない。小夜は手の甲を叩いた。

「イテテテテ」

 続けて菫も望の頭を小突いた。菫は軽く深呼吸して

「ねえ、こんど3人でお出かけしない?」

 と切り出した。

「今日は小夜さん、菫さんって気軽に話しかけられるようになれればいいなと思って近づいたのですが、恐悦至極です。身に余る光栄です」

「時代劇か〜? 小夜ちゃんもいいわよね〜」

 菫は少し早口で言った。

「私は遠慮しとく、若い二人で楽しんでらっしゃい」

 小夜はいつもの冷静な口調で答えた。

「小夜さんも行きましょうよ」

 間髪入れず望が促した。菫は笑顔だった

「じゃあ指切り」

 菫は笑いながら小指を立てた。

 望も笑顔で菫の小指に絡ませた。小夜も渋々小指を絡ませる。望が

「なんか三人で小指を絡ませるのいやらしいですね」

 小夜が指を離そうとしたが、菫と望が指に力を入れて離れさせなかった。

 ”ゆびきりげんまんウソをついたら王水の~ます”

「今度の土曜ね、望君ちゃんと予定立ててね」

「江ノ島辺りでいいですか?」

「グー(good)。タコせんべいを食べた~い」

「菫ちゃんの章はこれで終わり、次はヨッちゃんの章ね〜」

 あきれ顔の小夜は返答した。

「誰が三つ子の姉さんよ」

「私は奈緒ちゃんをからかいに行くから

 とんち坊主とさよちゃんはお出かけの日の

 テルテル坊主でも作っていて」

 菫が席を立ち、手を振って移動していった。

「菫ちゃんのお酌で飲みたい男子はいるか~」

 アニメで聞くような声が遠くで聞こえた。

<つづく>

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