第45話 放課後お食事会
side北条粋
聖夜くんとのデートから帰った翌日、放課後はやっぱり聖夜祭に向けて準備をしていました。今日の帰りもご飯会をしようとレオが誘った結果、4回目の開催にしてようやく全員が参加することになりました。
いつも誰かしらがいないですから、レオも嬉しそうです。かく言う僕もこれで2回目の参加。前回はたまたま誰も夕飯が必要ない日でしたから参加できましたが、いつもだったらそうはいきません。
今回は昨日の夜から誘われていましたから、今朝のうちに清さんと純さんの分の夕食も作り置いてきました。何か怒られるかもしれませんが、最近はあまり気にならなくなってきました。
作業終わりにいつもお世話になっている蛍のお姉さんのカフェに立ち寄って8人でテーブルを囲みました。比較的適当に座ったのですが僕の隣には聖夜くんがいますし、その正面には武蔵くんがいます。
聖夜くんの反対側の隣には秋兎くんが座りました。秋兎くんの正面にリオさんと昴が並んで座って、その隣に武蔵くんと蛍が並びます。蛍の正面、僕の隣はレオです。
ここに来るまで蛍がやけに武蔵くんに絡んでいました。たまに聞き耳を立てていたときに聞こえた話は勉強の話だったり武術の話だったり。武蔵くんも蛍も武道を習っていたという話は聞いたことがありませんから不思議に思ったのですが、武蔵くんが強いことは聞いていますからその関係なのだろうかと推測しています。
僕は僕でレオと細かな打ち合わせをしていましたから、聖夜くんはリオさんと昴と秋兎くんと話していました。この4人で話すと、聖夜くんと昴がよくしゃべっています。リオさんと秋兎くんは聞き上手なタイプで、的確なツッコミを穏やかに入れるのがちょうど良いようです。
みんな性格も趣味も異なっていますが、どこかほんわかした空気を纏っているところはそっくりです。彼らが話しているところを見ているだけで不思議と癒されます。
「いつもので良いのかな?」
「お願いします」
1番端に座っていたレオがまとめて注文をしてくれて、僕は聖夜くんと武蔵くんを気にしながら話に戻りました。プラネタリウムの準備が着々と進む中、聖夜祭当日の動きに関してもかなり詰まってきました。
前日までに設営を行って、当日は僕たち以外の6人でライトの冷却を行います。最初は僕とレオも入れて8人で行う予定でしたが、実行委員長と生徒会長は全体指揮を執ることが生徒会全体で取り組む方の計画で決定してしまいました。
1度は抗議をしたのですが、サプライズの成功までの秘匿性を高めるためには断ることができませんでした。とはいえ普通にやるには6人では人手不足です。
その結果2台のライトに対して2人を配置して、4人が冷却している間に残りの2人のうち1人がバケツにホースの先を差し込みます。そしてもう1人は連絡を取りながら1階で水道の蛇口をひねります。
これしか方法が思い浮かばなかったのですが、思いのほかみんな乗り気になってくれたので助かりました。それぞれの負担が大きすぎて下からプラネタリウムを見る余裕はありませんが、時間を見て僕とレオくんで交代しようかと話しています。
香ばしい匂いとデミグラスソースの香りが強くなったのを感じてキッチンの方を見ると、ちょうど1皿目ができあがったところでした。
「お待たせ。今日のお任せ定食のハンバーグオムライスです」
蛍のお姉さんがカウンターの上に次々にお皿を並べてくれたものを蛍が受け取りに行ってくれました。レオと僕も手伝って全員分を運ぶと、目の前でライトに照らされたデミグラスソースがオムライスとハンバーグの上でテラテラと輝いていました。
「それじゃあ、いただきます」
レオが音頭を取って、全員が食べ始めます。自分で作るオムライスよりも温かくて美味しくて、ホッとしました。
「今日も美味しいです。ありがとうございます」
「粋くんはいつもそう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
「いえ、本当に美味しいですから」
お冷を注ぎに来てくれたお姉さんにいつも通り感謝を込めて伝えると、お姉さんは擽ったそうに笑ってくれます。
「何か言って欲しくて料理をしているわけじゃないけどさ、美味しいとかありがとうとか、言ってもらえたら嬉しいよね」
「そうですね」
僕は家族に言われたことはありませんが、心のどこかでそう言ってもらいたいと思っていないこともありません。叶わぬ願いですから、せめて自分からは作ってくれる方に感謝を伝えたいのです。
お姉さんがキッチンの方に戻って行くと、誰かの足がコンッとぶつかりました。足が届きそうな人たちの顔を見回すと、武蔵くんと目が合いました。
「会長、今度うち来たらハンバーグお願いしますって言い忘れてました」
「え? ああ、うん、分かった」
きっと乙葉さんのリクエストなのでしょう。まだいつになるかは決まっていませんが、楽しみにしてくれているのならば嬉しいです。
つい綻んだ顔のまま聖夜くんの方を見ると、半分ほど食べたところでスプーンのペースが落ちて来ていました。さっき武蔵くんの足が当たったのは、これを伝えようとして周りを見るように仕組んだものだったのでしょう。
「聖夜くん、お腹いっぱいですか?」
「ええっと、少し。あと半分くらいで限界かもしれません」
聖夜くんは元々すごく少食というわけではないにしても、僕と武蔵くんよりは食べる量が少ないです。しょんぼりしている聖夜くんの肩に手を置きますが、なんと声を掛ければ良いのかは分かりません。
「会長、半分食べてあげれば?」
武蔵くんの言葉に驚きました。武蔵くんは食べ物のシェアはマナー的に良くないことだと言われてきた僕が簡単にそれをできないことを知っているはず。それでもそう言ってくる意味が分かりません。
「武蔵くんが食べてあげるのは、どうですか?」
「俺は自分の分だけでお腹いっぱいっす」
確かに僕の方が良く食べます。けれど武蔵くんならまだ食べられると思います。それでも無理だと言って、何か狙いがありそうな表情で僕を見つめる理由が読めません。
「じゃあ、俺が食べるけど」
そう言って、聖夜くんの方に手を伸ばしたのは蛍でした。蛍が食べてくれるならありがたいです。そう思って聖夜くんの方を見たとき、食べかけの断面を見て何かもやもやした感情が湧いてきました。
それが何か思考が追い付く前に蛍の手を止めて、聖夜くんのお皿から自分のお皿に半分オムライスを移しました。
「結局食うの?」
「うん、僕が食べる」
そう宣言すると、レオがニヤニヤしながら僕の肩を強く叩き始めました。マナーが悪いと怒られるならまだ分かりますが、ニヤニヤされた経験がありませんから理由に心当たりがあるわけもありません。ただ首を傾げることしかできなくて武蔵くんに助けを求めても、武蔵くんも首を傾げていました。
聖夜くんなら何か分かるかもと横を見れば、聖夜くんは耳を真っ赤にして俯いていました。
「聖夜くん?」
問いかけても首を振るばかりで、聖夜くんなら分かっているのでしょうが聞けそうにありません。
他の方々もリオさんと秋兎くんは澄ました顔をしていますが、リオさんは何かを察したときの口元のニマニマを隠しきれていませんし、秋兎くんは半分以上残っていたお冷を一気に飲み干しました。
昴は熱くなったのか手で顔を仰いでいますし、蛍くんはドンッと構えながらも眉間にシワが寄っています。考え事をしているのがバレバレです。
けれど誰も何も教えてくれないのでほとほと困っていると、ニヤニヤ笑っていたレオに肩を叩かれました。
「なあ、やっぱり粋ってさ」
もったいぶって言葉を切られて、緊張を感じました。背筋に通った汗にゾクリと身震いしそうになります。
「付き合ってんだろ?」
「え?」
全く予想していなかったかと言えばそれは嘘になります。その言葉が出てこないことを願っていました。
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