第141話 何が言いたいんですか?
「試合は中止です! みなさん城へ避難してくださいっ!!」
審判であるミシェルさんが試合の続行は不可能だと判断した。会場に着ていたポンチャン教の信者たちは、城の方へ早足で逃げていく。何度も訓練していたようで落ち着いていて混乱していない。順序を守っている。しっかりと統率が取れているのは流石だなと思った。
「イオ君も避難するよ!」
「ダメです。僕はこの場にいてサポートします」
腕をレベッタさんに引っ張られたけど抵抗した。
話している間にも船はシーサーペントに襲われていて甲板が破壊されている。何人かは海に投げ出されているようだ。
早く助けないと! 口論している暇はないので、レベッタさんを引き寄せて唇を重ねる。
「ぷはっ」
既にスキルブースターは起動済みだ。皆を守るという気持ちがブルド大国の人たちにも効果を及ぼしているだろう。そしてキスをしたレベッタさんはスキルの進化が始まって、今は弓神スキルになっているはず。
「仕方ないな~! 前払いでもらったんだから頑張らなきゃねっ! イオ君の愛情パワーをくらえっっ!!」
ヤル気を出してくれたみたいで矢を番えた。狙いなんて定める必要はないみたいで、すぐに弦から指が離れる。矢は光りに包まれ天へ昇っていき落下すると、船に絡みついているシーサーペントの頭をくりぬき、血を吹き出しながら沈んでいく。
攻撃の範囲は物理的な矢よりも大きい。あの光が広げたみたい。
「次もやっちゃうよーーっ!」
ご機嫌なレベッタさんは次々と矢を射っていくけど、出現したシーサーペントは海に潜って逃げてしまい全滅までには至らない。まだ数匹残っているみたいだ。
それでも海上は一時的に静かになり、船から投げ出された女性たちは泳いで岸に向かっている。魔力があるこの世界は人の体力も地球以上あるみたいで、あのペースなら助かりそうだと思ってほっとする。
「確かレベッタは視力強化だったよな。今のは全く違うように見える」
ビキニ姿で片手に剣をもったユーリテスさんが近づいてきた。
後ろにはエルフのトリーシャさんもいる。ドシーナさんは意識を失ったままらしく姿は見えない。
「あれがスキルブースター本来の力かい?」
部下が襲われているのに余裕があるみたいで、僕の能力を分析していたようだ。
「さぁ。どうでしょうか?」
「ふふふ。隠さなくて良いよ。スキル進化できることも我々は知っている」
「…………だとしたら、何が言いたいんですか?」
「部下を助けたいから、私にも同じことをしてくれないか? シーサーペントを退治したら我々は一時撤退しよう」
能力がバレているのであれば、僕を敵に回したらヤバイと思ってもらうために効果を広するのもありかな。
抑止力として使えるのであれば、スキル進化を体験してもらう価値はありそうだ。
少し遅れてやってきたルアンナさんを見る。
「ユーリテスさんにスキルブースター本来の力を体験し手もらったらマズイですか?」
「……ふーん。相手は知っているんだ……」
少し考える素振りをしたけど、すぐに結論を出してくれる。
「一時的なら問題ないよ。我が国の力を味わってもらうじゃないか」
僕と同じ考えに至ったようで許可が出た。
女性を救うためとあればヤル気は全開だ。遠慮無く使わせてもらうからね。
「手の甲を」
「これでいいかい?」
目の前にシミ一つない白い肌の手がきた。優しく握り、皆を守ってと願いながら唇をつける。効果はすぐに出たみたいでユーリテスさんが動揺する気配を感じた。口を話して一歩下がる。
「これが……私の力……? 今なら何でもできる気がする」
剣を鞘から抜くと海を見る。シーサーペントは海中にいて水面からだと影が見えるだけだ。
外に出すのは難しそうだけどどうするつもりだろう。
「剣聖スキルの力を使わせてもらおう」
腕を上げて剣を掲げると刀身が光った。ものすごい魔力が集まっていて触れただけで指が吹き飛んじゃいそう。
同じ騎士であるルアンナさんは、その姿を睨みつけるようにして観察している。敵の戦力を分析しようとしているのかな。
「イオ君、離れるよ」
抱きかかえられると数メートル移動してしまう。まったく、レベッタさんは心配性だなぁ、なんて思っていた僕は平和ボケしていたのかもしれない。
ユーリテスさんが剣を振り下ろすと突風が発生して吹き飛ばされそうになった。
刀身の光が伸びてビーチの砂が舞い、海を割って、シーサーペントを両断する。あまりの威力にユーリテスさん自信が驚いて自分の剣を見ていた。
「す、すっごい! ねぇ、私にもやって!」
喜び飛び跳ねたトリーシャさんがやってきた。レベッタさんに抱きしめられたまま、頬にキスをする。
「ありがと」
お礼を言うと彼女は地面に手をつけた。砂に指が埋まると、足下が揺れてきた。
何かが動いている音が聞こえるけど周囲に変化はない。
「ものすごいの見せてあげる」
海を見る。割れ目は埋まっていて異変はない。何が起こるんだろうと期待しながら待っていると、突如として海面から無数の木の枝が伸びてきて船を持ち上げる。さらにはビーチまで運んでしまった。
「これで海の魔物は私たちに攻撃できない。残りも派手にヤっちゃおう」
「良い案だ。次は全力を出してみる」
また海を割るつもりみたいで、ユーリテスは歯をむき出しにして凶暴な笑みを浮かべていた。
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