第136話 絶対に叩き潰すっ!
二人とも体は引き締まっていて、出るどころは出ているから目が離せない。特にこの世界は技術力が高くないので、水着をつけていても胸の頂点にある突起物ははっきりと見えちゃっている。そんな格好で準備運動をしているから、躍動感とか、その、色々とすごかった。
「最初から組み合って力比べをしないか?」
軽くジャンプをして大きな胸を上下に揺らしているユーリテスさんは筋力に自信があるらしい。
好戦的な笑みを浮かべながら提案していた。
「鬼族はドワーフと同じぐらい力が強いと聞く。お前は自分が得意な場所でしか戦えない臆病者なのか?」
肌にピッタリと吸い付くビキニタイプを着ているルアンナさんは、提案を拒否しながら挑発した。
敵国かつ同じ騎士というライバル意識もあってトゲのある言い方だ。平和的に進めるなんて考えは最初からないみたい。
「冷静に敵を分析し、自身に有利な戦場を選ぶのは当然だろ」
「その言葉、私もそのまま返そう。力だけが売りの種族と真っ向から戦うつもりはない」
話ながらも興奮してきたのか、二人ともおでこを接触させて押し合いを始めた。慌ててミシェルさんが引き離そうとするけど、単純に力が足りないのでびくともしない。スポーツマンシップなんて言葉はなさそうだし、審判するのも大変そうだ。
「離れてくださーーーーいっ! じゃないと二人とも失格にしますよ!」
頭に血が上っていても、さすがに今の言葉は無視できなかったみたい。
後ろに下がって数メートルの距離ができる。
「はぁ、はぁ……合意が取れないなら通常のルールでやります。いいですね?」
仲裁するときに乱れた髪を直しながらミシェルさんが交互に二人を見ながら言った。
「それでいいですよ。騎士ユーリテスは?」
「いいだろう。総合力すら上回っていると教えてやる」
「ほう、お前の冗談は面白くないな」
またおでこを子ぶつけ合いそうになったので、ミシェルさんが両腕を広げて邪魔をした。騎士のプライドがぶつかり合って試合前から盛り上がっている。各陣営の選手や見学をしているポンチャン教の信者もヤジを飛ばし合っているし、船の甲板にいるブルド大国の騎士たちも同じだ。全体的に殺気立ってきたぞ。
暴動が起こらないか心配しているんだけど、僕の護衛をしているレベッタさんは特に気にした様子はない。
「みんな暴れないのかな?」
「まだ大丈夫だよ。本番は二戦目、三戦目の勝負が決まりそうなときだから」
初戦で負けても次があると思えるから自重できるけど、勝敗が決する重要な試合なら?
ユーリテスさんが止めようとしても部下の騎士や兵が暴れるかもしれない。レベッタさんは、そういったことも警戒して僕を守ってくれているのか。
「最初から大将戦みたいになっているから盛り上がっているだけ。今はそう思って応援することにするね」
「うん。それが良いと思う」
荒事になれている彼女からも同意を得られたので、安心して応援できる。
試合をする二人の熱気はさらに上がっていて、レスリングだというのにシャドーボクシングみたいなことをしている。ヤル気がすごい……!
「お互い準備できましたね?」
ミシェルさんが手を上げると選手はうなずいた。
「では、試合開始!」
振り下ろされるのと同時にユーリテスさんが飛び出した。頭を低くしてタックルするような姿勢で、足で砂を巻き上げながらブルドーザーみたいに進む。ルアンナさんは横に飛んで回避してから足を伸ばして転倒させようとしたけど、しっかりと踏ん張って耐えた。
反撃を警戒したルアンナさんは後ろに飛んで距離を取る。
「鬼じゃなくて牛だったみたいだな。だから無駄に胸もデカいのか」
「お前も無駄に胸が大きいじゃないか」
「私はイオディプス様に揉んでもらうために大きいだけだ。ユーリテスとは違う!」
レベッタさんがすごい目で睨んでいる。大きいのが好きだと勘違いされたのかもしれない。いや事実だから訂正する必要はないのか……。
「お前、すでにイオディプス君と……」
「さぁね。想像に任せる」
「ずるい!」
大国の騎士団長なのに男への飢えはあるのか。
あんなわかり易い挑発にのってしまったようで、顔を真っ赤にさせながら指をさしている。よく見れば怒りによって体が震えていた。
「絶対に叩き潰すっ!」
「いいけど……」
試合中だというのにルアンナさんはこちらを見た。
「乱暴な女って男性にモテないよ?」
「っ!!」
観客に僕がいることを思いだしたみたいだ。ユーリテスさんの首がゆっくりと動いて目が合った。
その瞬間、ルアンナさんが動く。
肩で腹をタックルすると太ももを掴んでしまった。
「卑怯だぞ!」
「ルール違反はしていない!」
組合になったので打撃攻撃が解放された。ユーリテスさんは拳を振り下ろして背中を殴っているけど、腰に力が入ってないのでたいした威力にはなっていない。少し背中が赤くなる程度のダメージだ。
状況は圧倒的にルアンナさんが有利。このまま押し切って試合が決まるかと思っていたんだけど、その考えはちょっと甘かったらしい。
なんと掴まれた足ごとルアンナさんを持ち上げてしまったのだ。
想像を超えるバカ力だ!
ブランコのように何度も足を上下に動かしていると、ルアンナさんは手を離して宙に飛んでしまい、クルクルと回転していた。
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