第137話 ミシェルさん! 回復を!
「これで終わらせる!」
ルアンナさんの着地点にユーリテスさんが移動すると腕を伸ばした。頭を掴むと地面に叩きつける。砂埃が舞って姿が見えない。
まさかか落下するのを待つんじゃなく叩きつけるなんて、もうレスリングじゃない。ケンカだ!
審判役のミシェルさんは勝敗を告げてない。
ビーチの砂埃が消えると、地面に手と足をついてブリッジしているルアンナさんの姿が見えた。
なんて体勢なんだ。某ホラー映画を思い出した。
「しぶといっ!」
苛立った様子で叫んだユーリテスさんが上からのしかかり、二人は抱き合いながらゴロゴロと転がる。一瞬だけ地面に着いているけど、抑え込まれたわけじゃないので3秒のカウントはされていない。動きが止まったら体の側面がビーチに接触する態勢になった。
二人とも手で顔を掴み、足で腹を押して背中を地面につかせようとしている。
「団長ーー! 負けないでーー!」
ブルド大国側の選手は大声で応援していた。一方のポンチャン教の選手、ヘイリーさんとベルさんは腕を組んで見守っているだけ。個人戦をしているかのごとく、自分たちには関係ないといった様子だった。
チームワークでは完全に負けている。
それでも勝負に勝てば良いんだけど、身体能力はユーリテスさんが上回っているみたい。徐々に有利な姿勢になると、いっきにルアンナさんの背中を地面につけて腰当たりに乗る。
「ワン! ツー!」
審判がカウントするとルアンナさんは上半身を持ち上げて頭突きをした。ユーリテスさんの顔に当たってしまい、鼻の骨が折れて血が流れ出る。
攻撃が当たって痛いはずなのに姿勢は崩れていない。頭を掴んでルアンナさんを叩きつける。しかも押さえつけるんじゃなく、地面が揺れるほど何度も叩きつけているのだ。足をばたつかせて抵抗しているけど、力は入ってない。意味はなかった。
十回ぐらい頭を地面に叩きつけられると力が抜けてしまい、四肢がだらしなく伸びる。気絶したみたいだ。
ユーリテスさんは片手で鼻血を拭い取ると、ルアンナさんの頭を地面に押しつける。背中もピッタリとつけているのでカウントが始まる。
「ワン!」
意識は戻らない。四肢は伸びたままだ。
「ツー!」
勝ちを確信したのかユーリテスさんが笑って僕を見た。
その一瞬で、ルアンナさんの腰が浮かんで肩が浮く。スリーカウント目は中断された。
「寝ていればいいものを! しつこい!」
「イオディプス様の前で負けられないんだよ!」
顔を殴られながら起き上がろうとするルアンナさんだけど、上に乗られた状態じゃどうしても力は入らない。
最後の抵抗として腕が伸びてユーリテスさんの水着の紐を掴もうとして力尽きてしまった。
完全に伸びてしまいミシェルさんのカウントが再び始まる。
「ワン……ツー…………スリー! 勝者、ユーリテス!」
悔しそうな顔をしながら勝者を宣言した。
勝負が付いたので立ち上がり、ユーリテスさんは拳を掲げる。
「さすが団長ーーー! スカッとした!」
「生意気な女をボッコボコにしてやりましたね!」
仲間の選手がユーリテスさんの勝利を喜んでいる間に、僕は走り出していた。
「あ、イオ君!」
伸びてきた腕をすり抜け、足を進めてルアンナさんの元へ駆けつける。
顔を見ると目が腫れていて顔全体に痣ができている。鼻の骨も曲がっていて、呼吸するのも苦しそうだ。そんな姿が前世の母さんとダブって見える。
早く治してあげたい。
「ミシェルさん! 回復を!」
「私のスキルだけじゃ完治できないけど……イオディプス様は助けてくれますか?」
「もちろんです!」
「では、怪我をしているところを触りますね」
スキルブースターを発動させてから、ミシェルさんはルアンナさんの顔に触れた。温かい光が包み込んで腫れが引いていく。折れた鼻も真っ直ぐになると怪我は完全になくなった。スキル進化まではしなかったけど、ブーストされたおかげで顔は綺麗になった。
「すごい……これがスキルブースター……」
普段よりも高い効果を発揮したことでミシェルさんは感動しているようだ。
「ユーリテスさん、しゃがんでください」
「キスでもしてくれるのか?」
「違います」
冗談をばっさり否定しても嫌な顔せず、腰を落として目線を合わせてくれた。
「ミシェルさん」
「はい」
顔に手を当てると回復スキルが発動して、折れた鼻が治る。
「敵である私まで回復させてくれるの?」
「女性が傷つく姿は見たくありませんから」
言いながら服の袖で顔に残っている血を拭い取った。
「これで、綺麗な顔に戻りましたね」
「…………うん」
勝利の余韻なんて吹き飛んだようで静かになると、腕が伸びてきた。
「ダメだよ」
パシッとレベッタさんが叩くと、僕を抱きかかえて背に回す。隠したようだ。
「少しぐらい良いじゃないか」
「それで終わらないから離したんだけど」
剣呑な雰囲気になった。勝負が終わった後を考えると、この状況はよくない。
「レベッタさん、僕は構いませんよ」
前に出るとユーリテスさんの手に触れる。
「あっ」
凜々しい彼女の頬が赤く染まった。恥ずかしそうにしながらも真っ直ぐな目で僕を見ている。
「勝者にはご褒美がないと、ですからね」
手の甲に軽くキスをした。抱きしめられそうになったけど、レベッタさんが引っ張ってくれたので無事に回避する。
ユーリテスさんの顔を見ると目が潤んでいた。
「あぁ……ほしい……」
「あげませーーーーんっ!」
もう僕のわがままは聞いてくれてないようで、レベッタさんは走って距離を取ってしまった。
最後に手を振ると、ユーリテスさんも同じことをして返してくれる。
勘違いじゃなければ少しだけ仲は良くなった気がした。こうやってみんな平和に過ごせれば良いのになぁ。
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