第135話 ナイテア王国の騎士、ルアンナだ

 短い期間だったけどビーチレスリングの練習は終わって、試合当日になった。


 僕たちは指定されたビーチにいる。


 ブルド大国の兵は船に残ったままだけど、甲板にあがってビーチの方を見ている。ここから少し離れているけど試合の状況ぐらいはわかるだろうし、遠視のスキル持ちがいたら詳細まで把握できるはずだ。


 選手は合計で六人。ブルド大国側は使者として交渉してきた額に一本の角があるユーリテスさん、その他二人の女性が上陸している。こちらはルアンナさん、ベルさん、ヘイリーさんの三人が選手として集まっていて、一列に並んでお互いに見合っている。全員、水着姿だ。何とは言わないけど食い込みがすごい。


 二つのチームの間には審判役のミシェルさんが立っていて、殴り合いにならないか警戒しているようだった。


 ちなみに景品となっている僕は木造の簡易な椅子に座らされていて見学している。


 今回は試合と言うことで観客もいる。試合会場をぐるりと囲むようにポンチャン教の信者たちが集まっていた。


「改めてルールを伝えます。武器、スキルの使用は不可、組み合っているときだけ打撃攻撃は許可されます。選手が試合場所の線を越えたら仕切り直し、背中を地面につけて3秒経過したら負けです。よろしいですか?」


 凜とした声でミシェルさんが選手たちに向かって言った。


 ルールに異論はないようで反論は出てこない。審判がポンチャン教側の人だけなんだけどユーリテスさんは気にしていない様子だ。多少、不利な判断をされたとしても勝てる自信があるんだろう。


 大国らしい傲慢な態度が伝わってくる気がした。


「問題ないようですね。最初の選手は誰ですか?」

「私だ」


 大将だと思っていたユーリテスさんが先鋒らしい。小さく手を上げると僕を見ている。


 私の活躍を見てくれ、なんてメッセージが伝わってきそうで、やっぱり彼女も男に飢えたこの世界の住人なんだなと思った。


「相手は私が担当しよう」


 ポンチャン教側の先鋒はルアンナさんだ。


 二人とも騎士同士。試合以上の重みを感じる。代理戦争っぽいな、なんて思った。


「ナイテア王国の騎士、ルアンナだ」

「ブルド大国第二期騎士団長、ユーリテス。正々堂々とした勝負を期待する」


 手を差し出されたのでルアンナさんが握る。手の甲に筋が見えるのでお互いに力を入れているみたいだ。ピリピリした空気になっているし、試合が始まる前から敵意丸出しじゃないか。


「大国の騎士が卑怯なまねをしないと信じているよ」

「むろんだ。正面から叩き潰してやる」


 ギチギチと二人の手から骨のきしむ音が聞こえだした。


 このままじゃ試合前にケガをしてしまいそうだ。


「挨拶は終わりましたね。離れてください」


 審判役のミシェルさんが、ケンカを始めそうな雰囲気を変えてくれた。


 握手は終わって距離を取る。


「試合を始めるので他の選手は下がってください」


 この場に僕もいると迷惑になるので、椅子を持って十メートルほど離れて円の外へ出た。試合場には選手の二人以外いない。


 すーっとレベッタさんが近づいてきて守るように立ってくれている。手には弓、腰には短剣があり、革鎧まで着ているフル装備だった。


「もしブルド大国側が負けたら襲ってくると思います?」

「相手の面子に関わるから素直に撤退するはずだけど、何が起こるか分からないからね。もし騒動が起こったら必ず守ってあげる」

「死なない程度でお願いしますよ」


 命に代えて守って欲しとまで思わないけど、きっと無理しちゃうんだろうなぁ。


 嘘をつきたくないのか返事はなく、レベッタさんは真っ直ぐ前を見ている。試合をする二人じゃない。その奥だ。船にいる人たちを監視しているみたいだった。


「手に武器はないけど……結構興奮しているみたいだね」


 視力強化スキルによって遠くの状況も詳細がわかるみたい。船にいるブルド大国の人たちを監視するのであれば、レベッタさんは適任と言えるだろう。


 襲ってくる気配をいち早く察知できるし、スキルブースターの力で進化させればメスゴブリンたちを攻撃したような、誘導機能付きの矢を射れるから先制攻撃しやすい。そう考えると、敵が暴れ出しても何とかできる気がしてきた。


「団長が戦うんです。盛り上がるのも分かる気がします」

「それが変な方向にいかなければ良いんだけどねぇ……」


 この世界の女性は暴走しやすい。レベッタさんの懸念ももっともだ。


「イオ君は絶対、船に近づいちゃダメだよ。あいつらはメスゴブリンと同じだと思って接してね」

「言い過ぎじゃ?」

「そんなことないってっ! 男に飢えた騎士なんて見境なく襲うんだよ。占領された国にいた男なんて不能になるまで、徹底的に使い回されるんだから。本当に気をつけてね!!」


 敗戦国にいる男の扱いについて考えたことなかった。映画やアニメ、歴史から考えれば、碌な扱いをされないことは容易に想像がつく。


 ブルド大国と呼ばれるぐらい何だから、色んな国を支配してきた経験はあるだろう。既に多くの恨みを買っていそうだ。


「うん。わかった。気をつけるよ」


 試合が始まりそうなので会話を終わらせて前を見る。


 ビキニ姿の二人が柔軟体操をしながら準備を進めていた。


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