第134話 応援係の私も!

 この世界は女性が多い。だから恋愛感情が同性に向きやすいってのは理解できるんだけど、実際にレベッタさんとヘイリーさんが、そういう関係だとわかって驚いてしまった。僕のことを好きだと思っていたんだけど、勘違いだったのかな? それとも二番手ぐらいな感じなんだろうか。


 まぁ僕は何番目でも良いんだけど、ちょっとだけ嫉妬してしまう。


 今日も選手に選ばれたルアンナさん、ベルさん、ヘイリーさんの訓練を砂浜で座ってみているんだけど、モヤモヤした気持ちは晴れない。


 隣で一緒に練習を見学しているレベッタさんは誤解だと言っていたけど、現場を目撃したのだからそうとは思えなかった。


「イオ君~~」


 甘え声を出してレベッタさんが抱きついてきた。いつもなら嬉しいんだけど今日はそういう気分じゃない。優しく押し返す。


「みんな真剣に練習しているんですから、真面目に見学しましょう」

「…………怒ってるの?」

「拾ってもらった恩は感じても怒ったりはしませんよ。安心してください」


 練習している三人から視線を移してレベッタさんを見る。笑顔を作ると強ばっていた表情がほぐれた。指が動いて爪の先が軽く触れる程度の接触をしてくる。


 目が、これならいいよね? と訴えかけていて、拒否したら泣いてしまいそうだ。気分が落ち込んでいるのは自分の問題だし、大切な人をこれ以上、悲しませるのはよそう。気持ちを切り替えなきゃ。


 指先は触れたまま視線を前に戻す。


 ヘイリーさんとベルさんが正面で組み合っていた。水着姿なのでいつ胸がポロリと出てしまっても不思議ではないんだけど、今のところは大丈夫そうだ。しっかりと布が大切なところをカードしていて、激しく動いていてもズレてはいない。


「ようやく捕まえたんだから、逃がさないよー!」


 力ではドワーフのベルさんが上回っていることもあって、ヘイリーさんは膝を突いてしまっている。そのままベルさんが足払いをして転倒させると、頭に尻を乗せて体を押さえつける。股で鼻と口が塞がってしまったこともあって苦しそうだ。足をバタバタと動かし腰を浮かそうとしているけど力が入らないみたいで、上に乗っている小さな体を振りほどけない。


「カウントはじめます! ワン、ツー……スリー! ベルの勝利です!」


 審判のミシェルさんが試合終了を宣言した。


 ベルさんが立ち上がって僕を見てきたので、小さく拍手をする。


「あっ……」


 指が離れて寂しそうな声を上げたレベッタさんだったけど、僕たちのために頑張ってくれている人は無視できない。今後の運命が関わっているのだから、感謝の気持ちは忘れちゃダメだよね。


「ご褒美が欲しいなぁー!」

「練習じゃなく、ブルド大国との勝負でも同じように勝てたらご褒美、考えますよ」

「内容は!?」


 食い気味にベルさんが聞いてきたけど何が良いかなんて思い浮かばない。


 勝てたら本当に凄いんだし、僕ができることなら何でもしよう。


「無理のない範囲であれば命令を一つ聞きます」

「それは個人的なお願いでも?」

「誰も悲しまないのであれば」

「よしっ!!」


 小さい手で拳を作って喜んでくれた。


「もちろん、ルアンナさんとヘイリーさんも同じですから」


 期待した目で見ている二人に向かって言うと、飛び跳ねて全身で感情を表現している。


 でも逆に落ち込んでいる人もいた。レベッタさんは当然のことミシェルさんもそうだった。


「私は審判だからダメってのはわかりますが…………ずるいです」


 頭にちょこんと付いた狐耳は力なく垂れている。潤んだ目で見られていて罪悪感をかき立ててきた。


 イマジナリー彼氏がいるんだから、僕のことなんてポンチャン教に必要な男以上の感情なんてもってなさそうなのに、どうして残念そうにしているんだろう。


「審判として頑張っている私には何もないんですか?」

「応援係の私も! 何かないの!?」


 割って入ってきたのはレベッタさんで、後ろにはブルーベルさんがいる。


 みんな期待した目をしていて何もないなんて言いにくい。


「私たちは体を張って頑張るんだから、報酬は反対ーーー!」


 ベルさんの言い分もわかる。勝たなければいけないという強いプレッシャーを感じ、さらにケガをする危険まであるのだから扱いに差はあってしかるべきだ。とはいってレベッタさんたちの願いは無視できない。


 うーん。どうしよう。


 助けを求めるようにルアンナさんを見ると、僕を見つめるだけで動かない。どう判断するのか様子を見ているみたいで、助けてくれるつもりはないみたいだった。


「うーん。わかりました。何でもとはいきませんが、三人まとめてちょっとしたお願いぐらいなら叶えます。これでどうですか?」


 報酬を差別化してみたところ、ベルさんは納得してくれたみたいで何も言わなかった。レベッタさんたちは不満そうにしているけど、本来なら何かをもらえる立場じゃないことは理解しているみたいで、口に出すことはない。ミシェルさんの狐耳は少し元気になっていたので、納得してくれただろう。


 すべての女の子に満足してもらうって、すごく難しいんだね……。


 女性経験の豊富な男だったらもっと上手くできたのだろうか。この世界にいる、まともな男にアドバイスをもらいたいと思ってしまった。


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