第131話 じゃあ美味しく――
二人は円を描くように回りながら相手の腰や足を掴もうとしている。激しい動きで胸がぷるん、ぷるんと揺れていて汗が飛ぶ。水着を掴んだりするので取れちゃわないか心配になってしまう。異性が少ないからか、彼女たちは羞恥心ってのが少ないんだよね。脱ぐぐらいいいじゃん、みたいなノリになることがある。特に今回みたいな競い合いをしているときは顕著だ。
ルアンナさんはヘイリーさんの腰近くの水着を掴んだ。体を持ち上げようとして食い込むと、普段は隠れている白くシミのないお尻が露わになってしまった。
「すごい……」
思わず口に出てしまうほど美しい。目が離せない。
レベッタさんも興奮しているようで仲間のヘイリーさんの応援を始めた。ビーチレスリングが大好きみたいで、子供みたいにはしゃいでいる。
「そうだね。すばしっこく動くヘイリーをよく捕まえたよ。体格差もあるから、悔しいけどルアンナの勝ちかなぁ。イオ君もそう思うよね?」
「え、はい。そ、そうかもしれませんねっ!」
お尻に夢中だったなんて言えない。とりあえずレベッタさんの意見に同意したけど、ヘイリーさんがこのまま負けるとは思えなかった。逆転しようとして最後まであがくはず。
あ、ほら。膝蹴りを腹に何度も当てて逃げ出した。
「蹴りはありなんですか?」
「組み合っている状態なら、ね。離れているときに殴ると反則負けになる」
地球のレスリングとは違って打撃を入れても反則にならないらしい。ミシェルさんは練習試合を続行させているので、解説は正しいのだろう。思っていたよりも暴力的な試合になりそうだ。
二人の距離は二メートルぐらい。ヘイリーさんが腕を伸ばして肩あたりを掴もうとするけど、ルアンナさんは手を叩いて邪魔をした。そういった攻防を何度か繰り返していると、偶然にもヘイリーさんが水着の肩紐を掴んでしまう。
「あっ!」
引っ張るとビキニのトップスがずれて胸が露わになったけど、ヘイリーさんの背中が邪魔して肝心な部分が見えない。ミシェルさんが間に入って、二人を引き離すと、試合は一時中断となって水着を整えてから再開となる。
腰を落とすとぶつかり合い、頭がお互いの肩に当たる。腕は腰の方に伸ばし太ももを掴もうとしていて、リーチの差を活かしたルアンナさんが右の太ももとを握り、持ち上げる。バランスを崩してしまい倒れると思ったんだけど、体をひねって自由になっている残り一本の足を回して膝を側頭部に当てた。
これも組んでいる状態だからルール違反にはならないみたいで、審判役のミシェルさんは動かない。脳が揺さぶられたルアンナさんはぐらりと力が抜けて倒れてしまった。すかさずヘイリーさんが抑え込み、スリーカウントされて勝負は付いてしまう。
名前が同じだから勘違いしてしまったけど、これって僕の知っているレスリングじゃない。
「これ……格闘技じゃ……」
「ん? そうだよ。制限があって難しいから、格闘技として人気なんだよねぇ。イオ君も気に入ってくれたよね?」
この場にいないはずの人の声が聞こえたので、振り返るとブルーベルさんがいた。息は乱れていて汗をかいている。急いで仕事を終わらせてきたみたいだ。
「もっと平和的な感じなら……」
「ふーん」
何も言わなくなったブルーベルさんは僕の隣移動すると、下半身を見る。盛り上がっていることに気づかれたようで、妖艶な笑みを浮かべていた。
この世界の男たちは性欲がほとんどなく女性に冷たい。それが常識で、僕は異質な存在だと分かってしまったのかも。その証拠に、手が僕のお尻に当たって鷲づかみされてしまった。
「痛いですよ?」
「減るものじゃないからいいでしょ」
ぐいっと引き寄せられてしまって抱きしめられる。抵抗しようとしても力で負けてしまい、動けない。
「女は嫌い?」
「…………嫌いじゃないです」
「じゃあ好きなのかな?」
ここで、はいと答えたら大変なことになる。具体的には押し倒されて襲われるだろう。ブルーベルさんの肉欲で濁った瞳が、そう語っていた。
「秘密です」
「教えてくれない悪い子にはお仕置きしないと」
あ、何を答えてもダメな感じなんだ。服の下に手を入れられて腹や胸を触られる。
「意外と筋肉があるんだね。私の婚約者より素敵な体をしているよ」
「結婚の予定があるんですか!? だったら、これは浮気に……」
「もうすぐ婚約破棄するから大丈夫」
「ってことは、まだお相手には話してないんですよね? 流石にそれはダメですって。順番は大事です」
「えー。でも、私が近寄るだけで不機嫌になって殴ってくる男だよ? お互いに冷め切ってるんだから、破棄したいと言ったら喜んで受け入れてくれるよ。問題ないって~」
女性の暴力を振るう男は死ねば良い。
うん、これは浮気にならないな。何も問題なかった。
「ね。だからお姉さんとイイコトしよっ」
抵抗する気力が湧かずに力が抜ける。なすがまま上着をめくられてしまった。
「シックスパックっていうんだっけ。男性のは初めて見た」
自然と出てきてしまった涎を拭きながら、ブルーベルさんが僕の腹筋に釘づけた。顔を近づけてペロリと舐められると、ぷるりと体が震えた。
「じゃあ美味しく――」
「いただくのは私だからねっ!」
全力で走ってきたレベッタさんが、ブルーベルさんに跳び蹴りを放った。肩に当たって吹き飛ぶと、そのまま取っ組み合いを始める。髪を引っ張り、顔を殴る派手な戦いだ。
止めようと思ったけど、ヘイリーさんが僕を押さえてしまう。
「勝利のご褒美」
自らの頬を指で突いていた。
キスして欲しいってことなんだろう。
「横取り禁止なんだから! お前は最後だっ!」
激怒した声が聞こえてきた。戸惑っている場合じゃない。早く要望に応えて止めに行かなきゃ!
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あとがき
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