第130話 説得力ありますね

 僕が行った港の近くにビーチがあったみたいで練習会場に選ばれた。白い砂でゴミは落ちていない。天気も良いので海水浴日和なんだけど、泳いでいる人はいない。それどころか、海岸にいる人を見かけなかった。


 これには異世界特有の事情……ってほどじゃないんだけど、海に住む魔物が原因らしく、襲われるのが怖くて遊ぶどころじゃないんだ。だからベルさんは案内してくれなかったんだけど、ビーチレスリングの練習にはもってこいな場所なので、選手の三人と発案者の僕、護衛役のレベッタさん、責任者のミシェルさんが集まっていた。商人のブルーベルさんは仕事があるらしく、今日は姿を見ていない。


「イオディプス君! 見ててくださいね~~っ!」


 離れたところで手を振っているのは、テンションが高めのルアンナさんだ。いつもは鎧を着ているんだけど、今は違う。この世界にも水着というのがあるらしく、肌にピッタリとつくビキニタイプを着ている。体の形がはっきりとわかるほどだ。異性が少ないためなのか、生地は薄いため胸の膨らみや中心点、股の食い込みもわかっちゃうので目のやり場に困る。


 二人目の選手であるヘイリーさんは、競泳用の水着っぽいのを着ている。色は黒い。肌の露出が少ないので奴隷の焼き印は隠れている。奴隷としてを隠しても問題ないのだろうか、なんて思ったけど、ミシェルさんが決めたらしいので大丈夫なんだろう。少し眠たそうな目をしながら、腰に手を当てて胸を張っていると、二つの小さな中心点が目に入った。こちらも生地は薄いみたいだ。


 僕に向かって親指を立ててきたので、手を振っておく。


「二人とも頑張ってね~~!」


 勝負には勝って欲しいけど、最悪負けたとしても僕がブルド大国に行くだけ。僕は戦争利用されないよう気をつけるだけでいい。


「私には応援ないのー?」


 振り返ると水着姿のベルさんが立っていた。くびれはなく、すとんとした幼児体型だというのに、ビキニタイプの水着を着ている。胸や股の部分にはレースが付いていて、水玉の模様がある。色も赤と言うこともあって一番派手だ。


「もちろん、ベルさんも応援していますよ」

「だったらパワーわけてよー」


 手を出されたので握ると、引っ張られて抱きしめられてしまった。


「あーーっ! ずるい! 私もーっ!」


 聞き慣れたレベッタさんの声がしたかと思うと、後頭部に柔らかい感触がした。抱きつかれて胸が当たったみたい。二人の女性に挟まれた、サンドイッチ状態だ。すごく幸せな感じがするけど、やるべきことは沢山ある。流されてはいけない。


「ベルさんは早く練習に行ってください」

「はーい。また後でね」


 パッと離してくれたベルさんは、ビーチレスリングする仲間の元へ走って行った。残されたのはレベッタさん。僕と同じく応援係なので離れた場所で待機だから、抱きしめられたまま座る。


 胸がクッションになっていて非常に喜ばしい環境で、彼女の心音が伝わってくる。


「三人なら勝てるかなぁ」

「ブルド大国が誰を出すかわかりませんが、負けないと信じています」

「そうだよね……」


 不安そうな声だった。


 ギュッと僕を強く抱きしめる。


 知らないところで僕の扱いが勝手に決まってしまい、遠くに行ってしまいそうだと思っているのかな。


「仮に負けてしまって僕がブルド大国へ行かなきゃいけなくなっても、レベッタさんたちは連れて行きますから」

「いいの?」

「それは僕のセリフです。欲深いと言われている大国が何をするか分かりません。安全は保証できませんが、それでも付いてきてくれますか?」


 一人で行くなんて言ってないので、レベッタさんたちを連れてブルド大国へ入ることはできるだろう。ただその後は、どうなるかわからない。気を使って一緒に行動することを許してくれる可能性はあるし、僕を軟禁して二度と会えないようにすることも考えられる。相手の情報が少ないので何をしてくるか予想付かないのだ。


「もちろん。ダメと言われても付いていくよ。今回みたいね」

「それは、すごく説得力ありますね」


 ポンチャン教の聖地にまで忍び込むぐらい何だから、ブルド大国への密入国もやってのけるだろう。その点においては、必ずやるという謎の信頼感があった。


「あ、そろそろレスリングが始まるみたいだよっ!」


 正面を見るとルアンナさんとヘイリーさんが向かい合っている姿が見えた。二人とも腰を落としていて間合いを詰めている。


「スキルは使用禁止なんだよね?」

「うん。そういうルールです」

「だったらルアンナが勝つかなぁ。イオ君はどう思う?」

「どっちも勝って欲しいけど、今回はヘイリーさんを応援したいな」


 綺麗な肌に焼き印をつけさせてしまったのだ。どうしても肩を持つぐらいはしてしまう。


 お互いに応援する相手が決まったので静かに様子を見守る。


 先に動いたのはルアンナさんだった。体格の良さを活かして真っ正面から足を掴み取ろうとするけど、動きを予想していたヘイリーさんは横に飛んで回避。すぐさま腰にタックルをした。勢いがあったので押し倒せるかと思ったけど、騎士として鍛えられた筋肉に耐えられてしまった。覆い被さるようにしてルアンナさんは腰を掴む。


 お互いにがっちりと組み合って、力での押し合いが始まった。



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あとがき

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