第122話 日焼けしているお姉さんは好き?

「あまーーーいっ! イオ君の考えは砂糖水よりも甘い!」


 話に割り込んできたのは、二人に押さえられていたレベッタさんだ。


「男性を巡る争いで平和的解決なんて不可能だよ! どんな劇でも必ず悲恋になるんだからっ!」


 演劇の場合は盛り上げるために悲劇的な要を素入れているだけで、平和的な解決が不可能という結論にはならない。反論はいくつも浮かび口を開きかけるけど、ブルーベルさんの細く長い指が唇にピタリと付いて止まる。敏感なところに触れられて心臓がドクンと跳ねて脈が速くなってしまう。今まで出会った女性の中で最も色気を感じる人かも。


「レベッタの言い分はともかく、誰も傷つかないなんて結果は難しいと私も思う」


 納得がいかない。唇に付いた指を握って外す。


「どうしてです? 信者になって冒険者を引退する案は、ミシェルさんの顔を潰さず妥協してもらえるラインで、受け入れてもらえる可能性は高いはずです」

「合理的に考えればね。でも私たちは頭の他にもう一つの脳……子宮で考えることもあるんだ」


 地球だと男は下半身に操られている、みたいなことを言っている人がいた。ブルーベルさんの話が、それの女性バージョンだとしたら感情や本能といったものが許さないと言いたいのだろう。


 残念だけど、人は合理的に判断できない。時に誰が見てもおかしいと思ってしまう結論を出してしまうこともあり、レベッタさんのことを考えれば説得力はあるし、自分も身に覚えのあることだった。


「それでも僕は諦めたくないです」


 誰にも譲れない考え、信念だ。合理的思考とは対極にあるし、誰に理解できないと思いだ。けど決して折れることはない。例えこの考えのせいで僕が死んでも後悔はしない。人には命よりも大事なことってあるんだよ。


 気持ちが伝われと思いながら、まっすぐブルーベルさんを見る。


「……ふぅ。仕方がないねぇ~。女は男性のわがままを受け入れる器量を持てって言うしね。協力するよ」

「ありがとうございますッ!」


 嬉しくて思わず抱きしめてしまった。薄着な上に下着を着けてないみたいで、服の上からでも体温が伝わってくる。


「わぉ。積極的~」


 ガシッと背中に腕を回されてベッドに押し倒されてしまった。動く気配を感じたので、横目で見るとレベッタさん、ヘイリーさんと目があう。眼光は野獣のように鋭く、涎がでていて二人とも怖い。ルアンナさんが必死に取り押さえてなければ大乱闘になっていたはず。


「ねぇ。イオ君」

「なんでしょう?」

「日焼けしているお姉さんは好き?」

「……はい」


 水着の跡が付いていたら最高、とまで言いたかったけどやめておいた。日焼けブームが到来しそうだからね。僕の言葉はそれほど影響力があるってのをちゃんと知っているのだ。


「すべてが終わったらさ。子作りしようね」

「スカーテ王女と相談させてください」


 こんな時に頼ってごめんなさい! と心の中で謝りながら、回答を先延ばしした。


 焦らされたというのに、ブルーベルさんの余裕がありそうな微笑みは崩れてない。むしろ罠にかかったと思っていそうだ。


「いいよ。楽しみだな~」


 襲われることなく僕から離れたけど、下腹部を優しく撫でているところが怖い。王家をねじ伏せる自信があるのかな……。悪魔と契約した絞まった気分になってしまった。


「で、どうするつもりだ?」


 暴走している二人を押さえながらルアンナさんが聞いた。すごい理性とパワーだ。


「私とミシェルは幼なじみでね。二人で話してみるよ」

「そんなことで、イオディプス君を返してもらえるのか?」

「難しいと思うけど、落とし所は探せるんじゃないかな~」

「ダメだったらどうする?」

「ミシェルと縁を切ってイオ君を脱出させるよ。何が起こっても私が責任を取る」

「責任か……だから二人で会うんだな」


 仮に失敗してもナイテア王国の存在を知られないため、ブルーベルさんは単独で会うと決めたんだと、今気づいた。流石に交渉が失敗したからと言って殺される様なことはないだろうけど、二度と取引できなくなるリスクは残る。それでも僕のために動いてくれるのだから、感謝の気持ちが自然と湧き上がる。


 お礼の件、本気で考えてもいいかな。って考えが流されつつあった。


「いいだろう。少し……いや、かなり不安は残るが、私たちは部屋で待機していよう」


 押さえているレベッタさん、ヘイリーさんに顔を近づける。


「暴走するな。失敗すればイオ君は戻ってこないと思え」

「わかってる」

「うん。イオ君のために頑張る!」


 返事を聞くとルアンナさんは手を離した。落ち着いた二人は暴れずに大人しくしている。


「話はまとまったね。イオ君は部屋に戻って吉報を待っていて」

「わかりました……けど無理はしないでくださいね」


 無難な対応をしていたら、僕が望む未来はこない。


 矛盾しているようなことを言っている自覚はある。


 それでもブルーベルさんが心配だったので黙ってはいられなかったのだ。


「ありがと。ベストを尽くすよ~」


 優しく頭を撫でてくれた。たったそれだけで、包み込まれれる様な安心感を覚えていた。


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