第121話 みんな物騒な考えは捨ててください!

 ベッドから降りて皆と距離を取り、今後について聞くことにした。


「計画と言ってましたが、これからどうするつもりなんですか?」


 とりあえず潜入してから考えよう、なんて行き当たりばったりな考えじゃないだろう。僕と合流した後に何をするつもりだったのか聞きたい。


「イオ君に変装してもらって、そのまま船で帰るだけだよ!」

「僕は常に監視されています。こうやって抜け出せたのも偶然で、すぐに戻らなければいません。船で逃げる前にバレちゃいますよ」

「そうなったら戦えばいいじゃん! 私たちなら勝てる!」


 ぐっと拳を握って良い笑顔を浮かべているレベッタさんの頭が叩かれた。犯人はルアンナさんだ。


 相棒のヘイリーさんはベッドの上であぐらをくんで、バカなことを言っているみたいな顔をしていた。褐色肌の商人、ブルベールさんは手で口を隠しながら笑っている。わかっていたけど、まとまりのない集団だ。本気で助けに来てくれたのかな、なんて不安になったけど秘密にしておこう。


「暴力的な方法を取らずに帰る方法はないんですか?」


 ポンチャン教と取引をしていて、内部を知っているブルベールさんなら良いアイディアが出るかもしれない。そんな淡い期待感を持って聞いてみた。


「可愛い男の子がいるんだから女として格好つけたいところだけど、正直なところ前代未聞過ぎてわからないんだよね」


 SSランクの男が生まれた。そのこと自体が世界初なのだから、誰がどう動くなんて想像できないよね。僕だって同じだ。ミシェルさんたちは何をするかわからない怖さがある。現に今、一国を相手にケンカ売ってるしね。それでも教団の力を使えば何とかなると思っているのだろう。


「ルアンナさんはどうです?」

「変装がバレてしまうのであれば、ミシェルを暗殺しましょう。そうすればポンチャン教は混乱するし、脱出するチャンスが生まれます」


 ダメだ……。冷静でいるように見えて、実は一番物騒な考えをしていた。


「その案、採用」

「採用じゃありませんッ!」


 ヘイリーさんが乗っかってきたので、すかさず却下した。


「みんな物騒な考えは捨ててください!」

「じゃぁ、イオ君はどうしたいの?」


 僕に怒られて、しゅんとしてしまった三人の代わりに、ブルベールさんは僕に絡みつきながら質問をした。さりげなく胸を触っているところはメヌさんを彷彿とさせる。大きく柔らかい二つの胸が体に密着して下半身が元気になってしまった。足を組んで誤魔化そうとするけど、もう一方の手で押さえられてしまい、服の上から触られてしまう。


「ダ~メ。ちゃんと教えて」


 耳元で蕩けるような声を出されたら抵抗なんて不可能だ。


 ふっと力が抜けてしまい、取り繕うのが馬鹿らしくなって本音を伝える。


「僕は女性には傷ついて欲しくないんです。それが誘拐犯であるミシェルさんたちであってもです」

「そっか、優しいねぇ~。でも優しいだけじゃ何も解決しない。それは、わかってるよね?」

「はい」

「それじゃぁ、どうするつもり?」


 下半身を撫でている手が止まって握ってきた。


 力を入れたり逆に抜いたりと、優しく刺激してくる。レベッタさんたちと違って上手い……!


「手慣れてますね」

「実は私に弟がいてね。そいつの妻から色々と話だけは聞いてたんだよ」


 噂に聞く、耳年増ってやつなのかな? なんて思っていたら限界が来てしまいそうだ。会話の前に行為を止めなければ。ブルベールさんの手を掴んで指を絡める。抵抗はされず、逃がさないという気持ちを込めて握り返してくる。


 殺気を感じたので視線を横に移動させてベッドの方を見ると、暴走しそうなレベッタさんは、ヘイリーさんとルアンナさんが押さえていた。今はまだ冷静に話せそうだ。


 再び前を見る。


「みなさんが滞在している間に、僕がミシェルさんを説得します」

「どうやって?」

「彼女たちは冒険者活動をする僕の身を案じて誘拐したのだから、活動を停止すると約束すれば建前は消滅します」

「それだけじゃ諦めないよね。彼女は他にも狙いがあったでしょ?」

「はい……ミシェルさんは僕を教皇にしたいと思っているようです」

「そうして自由を奪って拘束するつもりか。しかもイオ君のスキルを使えば、どこの国も逆らえなくなる。そんな彼女を説得できるのかな?」


 一応考えはあるけど、皆の前で言ってしまえば止められてしまう。どうやって誤魔化そうかと考えていると、ブルベールさんが話を続けてきた。


「お姉さんに一つ、良いアイディアがあるんだよね」

「どんなのですか?」

「信者たちにミシェルがイオ君を独り占めにしようとしているって噂を流して、彼女と取り巻きたちを孤立化させるの。そうすれば内部分裂してくれるよ。醜く争い合ってくれるかも。お互いに殺し合ってくれたら最高だよね」


 敵を倒すためであれば効率的だ。やる価値はあるだろうけど、僕の信念が許さない。暴力以外の手段で解決したいという気持ちを受け止めて欲しいな。


「女性が傷つくような計画には賛同しません。例え僕だけが損をするようなことになったとしても平和的な手段を選びます」

「だから話し合うと?」

「はい」


 ブルーベルさんの目をしっかりと見て言った。


 幸いなことに今のところ誰も死んでない。ヘイリーさんについた焼き印だって回復スキルで消すことは可能だ。今ならまだやり直せるんだから、平和的な解決方法を捨てるわけにはいかなかった。

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