第115話 ヘイリー:秘密
「どうしても奴隷にならないとダメなの? 水夫や使用人とかじゃダメ?」
「さっき言っただろ。港からは出れない」
食い下がるレベッタをテレシアは一刀両断した。
他に使える手はなさそう。焼き印は嫌だけどイオ君とは比べるまでもない。話を聞いた瞬間から結論は出ていた。
「私が奴隷になる」
「ヘイリー!?」
驚いたみたいでレベッタが両肩を掴んだ。前後に揺らされて気持ち悪い。
全力で振り払った。
「イオ君の方が大事」
私のスキルランクは高くない。地位だって普通だ。どこにでも居る女で価値はない。人に誇れるようなことがあるとしたら、ちょっとだけ冒険者生活が長く過ごせたことだろう。運良くベテランと呼ばれるまで生き残れた。
でも、結局それだけ。
そんな女はどこにでも居る。結局の所、代えがきくのだ。
家族とは死に別れちゃったし、死んでも悲しむのはレベッタたちぐらい。奴隷の焼き印を刻まれたところで何の問題もなかった。
「そうだけど……一生残るかもよ?」
バカだけど優しいレベッタは心配をしてくれている。
イオ君だって独り占めできたはずなのに、私たちに紹介してくれるほど気の良い女だ。私が男性だったら惚れてたいたかもしれない。
「別にいい」
「良くないよ。だったら私が奴隷になる。ヘイリーは商人の側近になりなよ」
「ダメ」
イオ君を見つけてくれた恩があるからね。傷つくのであれば、おこぼれをもらった私は最初であるべき。
それに私は、奴隷になってどんな扱いされても耐えられる。表情の変化に乏しいから感情は隠し通せるし、適任と言えるのだ。何を考えているかわからない、不気味って言われて続けてきたけど、こんなところで役に立つとは思わなかった。これも運命、なのかもしれない。
「ダメじゃないってっ! 私がやる!」
「諦めて」
「いやだーーーっ!」
感情的になりすぎている。これじゃ説得なんて不可能だ。
「はぁ……」
これからすることを想像すると嫌になって、ため息を吐いてしまった。
スキルを起動させる。
動体視力が強化されて相手の動きがよく見える。
あっけにとられた顔をしたレベッタの腹を殴りつけ、頭が下がったところで後頭部を叩きつける。
「ガハッ」
倒れたと思ったけど、足を踏ん張って耐えてしまった。しぶとい。
睨みつけられて少しだけ心が痛いけど、余計な感情を押し殺して膝を顔面に当てる。
直撃して鼻が折れた。意識が飛んだみたいで仰向けに倒れる。
「ほんとバカ」
一方的に攻撃できたのはレベッタが抵抗しなかったから。
友達の私に手を出せなかったんだろうね。
もし相手も本気なら、こうも上手くはいかなかった。負けることはなくても体はボロボロになっていたはず。
「終わったようだな。ヘイリーが奴隷で良いか?」
静観していたテレシアが近づいてきた。
衛兵長であるため粗暴な冒険者を見下している。当然、私たちのことも嫌っていて仲良く話す間柄じゃない。それでもこうやって協力してくれるのはイオ君がいるからだ。
彼に嫌われたくない、その一心で嫌いな相手とも上手くやろうとする。その根性だけは認めてあげる。
「問題ない」
「では行こうか。準備はできている」
誰かが奴隷になるって決断するのはわかっていたみたい。
「あなたが奴隷になれば?」
「なんでだ? 私は伝手と情報を渡してやったんだから、後はお前たちがやれよ」
決して自分がなると言わない。
何も失わずにイオ君を手に入れようとしているのがムカつく。
けど解決策を提示してくれたのは間違いなく、テレシアの言っていることは正しいので我慢する。
「わかってる」
「ならいい。行くぞ」
倒れているレベッタを置き去りにして隣の部屋に行く。
熱せられた石があり、焼きごてが置かれている。
「今回は通常の奴隷化作業とはことなり緊急性が高いので非合法な手続きをする。私が焼き印をしてやろう」
楽しそうに口角を上げながら、テレシアは焼きごてを熱せられた石の上に置いた。
「脱いで背中を向けろ」
言われたとおり服を脱いで上半身裸になる。
小さな胸が露わになった。
つんとしていて、やや上を向いている。触れば柔らかい。レベッタと違って胸は小さいから動きやすくて便利、なんて思っていた時期もあったけど、今は少しだけ物足りなく感じる。
いつも、イオ君は大きな胸ばかりみていた。
もうちょっと大きくならないかな。
胸を何度か揉んでみる。これでサイズアップできるって聞いたので毎日実践しているのだ。
「お前何しているんだ?」
「秘密」
「ふん。まあいいか。熱いが我慢しろよ」
「わかってる」
すぐに背中の左側に焼きごてが押しつけられた。
煙が上がり、肉が焼ける。今まで感じたことがない熱さ、そして痛みが全身を駆け巡った。
全身から汗が噴き出て思わず叫び出したくなるほど。我慢して下唇を強く噛むと、プチッと歯が皮膚を食い破って血が流れた。
「うめき声すら上げないか。根性だけは認めてやる」
焼きごてをさらに強く押しつけてきた。完全な嫌がらせだ。
苦しんでいる姿を見ているのが楽しいのかも。性格が悪い。
「ちっ」
舌打ちをしてから焼きごてが離れた。
焼けただれた肌が皮膚に触れて、刺すような痛みが襲ってくる。意識が飛んでしまいそうだけど、必死につなぎ止める。
「後でこの薬を付けておけ。多少マシになる」
テレシアは液体が入った瓶を床に置いた。
震える手で蓋を開ける。中は液体だったので、適当に背中に流す。
言った通り痛みは和らいだ。本当に薬だったみたい。
「三日後、船に乗る。それまでに準備しておけよ」
一方的に言うと、部屋から出て行ってしまった。
勝手な女。やっぱりムカつく。
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