第114話 ヘイリー:最低

 暴走したレベッタがスカーテ王女に抗議を続けていた。何日も。当然だけど私やメヌ、アグラエルだってやった。


 だけど国とポンチャン教の関係、戦争が起こったときのリスク、その他さまざまな政治的な懸念があることで、動きは鈍い。SSランクスキルもちの男性が攫われたのだから、正面切って戦えばいいのに負けたら意味がないと思っているらしい。


 正直言って失望した。


 将来、私に子種を授けて子供を作ってくれる男が、クソ女の手にあることは許せない。


 戦争? 国の崩壊? 横やりを入れる他国?


 ただの冒険者で敷かない私には、どうでもいいことだ。


 もう誰にも頼らない。フットワークの軽さを活かして、私たちだけで独自に潜入すると決めた。


 それが「ボレル島侵入計画」。


 貿易をしている商人に頼み込んで密航するのが大筋の流れ。でも私たちには特別なコネクションがないので、このままじゃ実行は不可能だ。


 協力者が必要で、私たちが頼ったのは衛兵団長のテレシアだ。非番の日を狙って彼女の家に突入して話し合うことにした。


 * * *


「なるほどね。やりたいことはわかった。協力しても良いぞ」


 レベッタと二人でテレシアの家に押しかけて計画の話すると、彼女は腕を組んで笑っていた。


 勝算はある、と考えているのだろう。


「やったーー! じゃあよろしくね!」

「バカ。帰ろうとするな」


 協力を取り付けて終わった気になったレベッタの頭を軽く殴った。


 私たちのなかでイオ君の貞操を一番心配しているくせに、脳天気なのは変わっていない。毎晩、しくしくと枕を濡らしているくせに、なにをしているんだか……。相棒が抜けているのであれば、私がサポートしなければいけない。


「商人の伝手はある?」

「ああ。もちろんだ。話を通すことはできる」


 よかった。島にさえ入れれば探すのは簡単だ。


 彼がいる場所は騒動が起きるので見つけやすい。


「だが問題はない、というわけじゃない」

「金?」


 タダでやってくれるとは思ってないけど、いくら請求するつもりだ。


 テレシアだってイオ君を狙っているくせに、足下を見るようであれば今後の付き合いを考えなければいけない。


「違う、違う。金はスカーテ王女に請求するからいらん」

「あの女が払う?」

「払うさ」

「信用できない」


 保護すると言ったくせにイオ君の危機に対して動けない王女なんて価値はない。私は期待なんて一切してなかった。


「どうしてそう思うんだ?」

「イオ君が誘拐されたのに率先して動かない」

「ポンチャン教の信者は世界中にいる。もちろん城内にだってね。スカーテ王女が動けば鈴に情報が漏れてしまう。だから静観して待ってるんだよ」

「誰を?」

「お前たちだよ。ヘイリーが裏で動けば気付にない。それに……」


 一呼吸置いてから、テレシアが悪意の含まれた笑顔をする。


「仮に捕まっても知らなかったと言い逃れできる。最悪の事態は回避できるのさ」

「最低」


 奪還できれば国益になり、失敗しても犯人を切り捨てれば良いだけ。為政者としては正しいのかもしれない。国とイオ君を守るための判断だというのはわかったけど、やり口が気にいらない。


「気持ちは分かる。だが、スカーテ王女の苦しい立場も分かってくれ。プルド大国に隙を見せたら最後、イオ君の帰ってくる場所がなくなるんだぞ? 今は情報が漏洩しないように情報工作しているし、動いてないわけじゃないんだ」


 帰ってくる場所と指摘されて、何も言えなくなってしまった。


 仮にポンチャン教から奪い返しても、安心して生活できる場所がなければ意味がない。子供を作り、育てる場所は必要なのだ。


「ふーん。要はスカーテ王女は守り、私たちは攻めってことだよね? いいじゃん。それなら私は納得だな」

「レベッタにしては賢いことを言ったな」

「いつも賢いよっ!」

「そうだな。知っている」


 笑いを堪えつつテレシアが話を続ける。


「まぁ、そういった事情があるからスカーテ王女とは連携する。取り戻した後の対応も任せたいからな。それでいいだろ?」

「いいよー! ヘイリーは?」


 結局の所、私たちは冒険者でしかなく、大局は分からない。


 知識と経験が圧倒的に不足しているため、今すぐ身につけられるようなものじゃないのだ。


 いいよ。手足として動くから。私たちが得意なことだし。


「賛成。任せる」

「よし決まりだ。本題に戻ろう。商人と手を組んでボレル島へ侵入するには二通りのパターンがある。一つは側近として、もう一つは奴隷だ」

「観光とかは無理なの? それかさー、木箱に入って隠れて誰もいないところで逃げ出すとかっ!」


 気になっていることをレベッタが言ってくれた。


「それは無理だ」

「なんでー!?」

「観光客は受け入れていないからだ。巡礼している敬虔な信者を除けば、外部の人が港から出入りできないようになっているんだよ。唯一の例外は直接取引している商人と側近だけ。彼女たちは毎回、島にある城でミシェルのクソ女と輸入計画を話し合っている」


 閉鎖された環境だから、この町みたいに旅人がやってくることはないので侵入者に気づきやすい。


 少数の信頼できる人しか島内に入れないのは納得だった。


「で、側近の枠は二つあるが、一人は埋まっている。どちらかが奴隷になってもらうしかないが、どうする?」


 国民として扱われない存在。それが奴隷だ。


 一部の貴重な奴隷については奴隷の首輪という魔道具を使って行動を制限するけど、一般的には焼き印と手足に鎖を付けるだけで終わる。


 気軽に良いよと言えることじゃなかった。

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