第91話 出てくるのがおせぇんだよッ!
「俺の提案を何度も断りやがって! 許さねぇッ!」
ダイチが腰にぶら下げている剣を抜いた。上段に構えているけど、刀身は左右に揺れていて筋肉が足りてない。剣術の訓練をしてこなかったことが分かる。
きっと大変なことは女性にやらせて何もせずに生きてきたんだろう。
生き方、性格、思想、顔つき、そのすべてが気に入らない。
「ならどうするの? サシで殺し合う? あ、君は女の影に隠れないと何も出来ない男だから無理か」
ぷぷっ、といった感じで笑うとダイチがキレた。
「やってやろうじゃねぇか! タイマンだ!」
「ダイチそれはダメ! 私と一緒に!」
「うるせぇ! 俺から離れろッ!!」
蛮行を止めようとしたシャナルンをダイチは蹴り飛ばした。イラっとしたけど狙い通り二人の間に距離が出来たぞ。
二人のスキルについてはスカーテ王女たちから聞いている。セットでなければ遠距離でスキルキャンセルは使えない。
ようやくメヌさんが作ってくれた魔道具が使えるッ!
『起動』
ワードを唱えると腕輪が光る。続けて『アイスランス』を使って周囲に氷の槍を浮かべた。
慌てたダイチが剣を投げ捨ててシャナルンに触ろうとするが、そうはさせない!
狙いは足だ。
僕の意思通りにまっすぐと氷の槍が進む。
「あぶないっ!!」
シャナルンが大地を押しのけて両手を広げた。盾になるつもりだ!
慌てて氷の槍を下に向けると地面に突き刺さった。一秒でも判断が遅かったら彼女を傷つけていたかもしれない。そう思っただけで足が震える。
僕もあのクソ親父みたいに女性を傷つけていたかもしれないのだ。
別の体になったのに遺伝子が染みついているように感じて動けない。
気がつけば持っている剣がカタカタと揺れていた。
「いてえなッ! クソ女!」
身を挺して守ろうとしたシャナルンを蹴り飛ばし、ダイチが僕の方に向かってくる。
また女性を攻撃してしまうのではないかと怯えてしまい動けない。
切っ先が僕の胸を狙っている。
動け僕の体! 相手はクソ野郎だぞ!
「包丁で刺し殺したときの感情を思い出すんだッ!」
ダイチの動きが鈍ったのと同時に、あの時の感情がよみがえって恐怖よりも殺意が上回り体は動くようになる。
刀身を横に叩いて軌道をずらす。
体が流れて重心が前の方に行ってしまい、ダイチはバランスを崩した。
「お前も同じ目に合ってみろ!」
腹を蹴り上げる。
「ふぜける……ブブヘッ」
ダイチは痛みで思わず剣を手放してしまったみたいだ。
何か言おうとしたみたいだけど、無視して顔面を殴った。
鼻が折れて赤い血が流れている。シャナルンが助けに行こうとしたけど、レベッタさんが取り押さえられて動けない。どうやらデブガエルは倒してから応援に駆けつけてくれたみたい。やっぱり、ここぞというときに頼りになる。
「てめぇ、許さねえぞ!」
腕で鼻血を拭ったダイチが睨みつけてきた。
「僕も許すつもりはないよ。女性に暴力を振るうなんて男はこの世界から消えた方が良い」
持っている剣を投げ捨てた。
徹底的に痛めつけるために素手を選んだのだ。
「ここに来ても、似たようなことを言うガキがいやがる。最高にイラつくぜ」
気になるようなことを言ったので突っ込んでみたかったけど、おしゃべりタイムはここまでのようだ。ダイチが体を回転刺せながら蹴りを放ってきた。受け止めることも出来たけど、長い時間接触してしまうとスキルブースターが無効化されるかもしれない。
後ろに下がって避ける。前に出ようとしたらまた蹴りが迫ってきた。
二連続の回し蹴りッ!
想定外の動きに戸惑い、側頭部に当たってしまい足がよろめく。
チャンスだと思ったのか今度は拳が飛んできたから、足を引いて体を縦にして避ける。
距離が近いので殴ることは出来ないから膝を折り曲げて腹に打ち付ける。一度ではダメだ。二度、三度と続けると、涎をまき散らしながらダイチがヨロヨロと後退した。
走ってから跳躍すると、靴の裏を顔面に叩きつける。
もろに攻撃を喰らったみたいで仰向けに倒れた。
追撃はしない。
「お前の罪はこの程度では償えない。さっさと立てよ」
指を前後に動かして挑発すると、周囲から歓声が上がった。
どういうこと!?
周囲を見るとレベッタさんやケガをしていた女性騎士たちが周囲にいた。殴り合いを観戦していたみたい。
ケガの状態が心配になったけど、手に回復ポーションらしき瓶があるので大丈夫なんだろう。
「私のイオ君やっちゃえ!」
「男性の殴り合い、かっこいいーーー!」
「血で汚れた姿も良いよね……あ、涎が」
「女どもうるせぇ!!!!」
スポーツ観戦みたいになってしまっているけど、ダイチを苛立たせる効果があるみたいだ。
体を起こしながら叫んでいる。
不利な状況だというのにバカな男だ。
顎を蹴り上げる。首の骨が折れてもいいやと思って全力を出したんだけど、思いのほか頑丈だったみたいであまりダメージは与えられてないみたい。
意識はハッキリとしているみたいで、地面に手をつきながらもゆっくりと立ち上がる。
「調子に乗るなよ。本気を出せばお前なんてすぐに殺せるんだ」
腰に手を回した。何を出すつもりだろう。様子を見ていると出てきたのはナイフだった。
包丁ぐらいの大きさがあって殺傷性は高そう。
防具はつけているけど刺さりどころが悪ければ普通に貫通するはず。気をつけないと。
「だったらやってみな。返り討ちにしてやる」
助けに入ろうとしたレベッタさんたちを目で制してから挑発した。
これは男同士の戦いだ。女性に入ってもらったら困るんだよね。
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