第90話 力がみなぎってきた!!

 剣を振り切ってバランスを崩したデブガエルに斬りかかろうとしたけど、ヘイリーさんに抱きかかえられて離れてしまった。


 次の瞬間、黄色い玉から雷が発生して先ほど立っていたところに煙が立つ。


 デブガエルが魔道具を使ったのだ。


 あれは事前に来るとわかってなければ避けられない。近寄るのは危険だ。


「よくも私のイオ君をねらったなぁあああああっっっっ!!!!」


 瞳の光ったレベッタさんが矢を放つ。雷の魔道具で迎撃しながらさらに攻撃してきたけど、アグラエルさんが氷の盾を作って防いでくれた。


 光の速さで進む攻撃を読めるなんてすごい。


「どうして雷の来る方角がわかるんだろう」


「顔と視線だね。デブガエルはわかりやすい」


 それだけでわかるものなの!?


 さすがプロの冒険者だな……って、感心している場合じゃない! 男に暴力を振るうのが苦手なんだから、僕が前に出ないと。ってあれ? メヌさん普通にハンマー振り回しているぞ。


 騎士と違って普通に戦っている。


「私たちにはイオ君がいるから」


 ぐっと親指を力強く立てて、心を読んだヘイリーさんが疑問に答えてくれた。


「行ってくるね」


 僕の頬にキスをするとデブガエルに向かって走り出す。スキル進化した彼女は未来予測までできる。視線から攻撃を読まなくても、雷が来る位置はわかるので当たることはない。近づいて剣を振り下ろそうとする。


 デブガエルの前にラレンが二人も出現するとスタッフでヘイリーさん、メヌさんの攻撃を受け流してしまった。


 あれは影の方だ。


 本体は家の中か?


 みんなはデブガエルたちと戦っていて余裕はない。騎士たちは倒れているし、僕が動くしかないだろう。


 バレないように隠れながらルアンナさんのところにまで行く。


「ケガは大丈夫ですか?」


「体が少ししびれているだけだ。問題ない。私はまだ戦えるぞ」


 よかった。元気そうだ。


「デブガエルに協力しているラレンの本体を叩きたいんです。協力してもらえませんか?」


「イオディプス君のお願いを断るわけないだろ」


 笑顔になると白い歯がきらんと光る。


 僕よりも男らしいと感じていると、突然、口が近づいてきた。


 ヘイリーさんとがしたとのは逆の頬にキスをされる。


「力がみなぎってきた!!」


 何のスキルを持っているのか知らないけど、どうやら進化してパワーアップしたみたい。体のしびれなんて吹き飛んでいるようで小屋の中に入ってしまった。


 一緒に行こうと思ったんだけど……。


「じゃまだぁ! どけぇ!」


 ルアンナさんの怒声が聞こえると小屋の壁が吹き飛んだ。地面にラレンが転がっている。仰向けになっているところで、跳躍してきたルアンナさんに胸を貫かれる。


 容赦ない攻撃だ。


 ラレンは黒い塊になってドロドロに溶けていく。あれも分身だったみたい。


 小屋から新しいラレンが飛び出してきたのでルアンナさんが戦う。有利に進めているけど、このままで終わるはずがない。傍観せずに僕も動くべきだ。


 壊れた壁の隙間からダイチが見えたので、全力で走る。


 男性特区でランニングしている成果がでているのか、息切れせずに小屋までたどり着く。ダイチの瞳が光り始めたので勢いをつけたまま殴りつけた。


「ガハッッ」


 足に力が入らないようで、一緒にいる痩せた女性のシャナルンに支えられている。


「スキルをキャンセルなんてさせない。お前は僕が倒す」


「どうして否定する? 俺のが目指す国を作れば、お前だってもっと良い思いが出来るんだぞ」


「女性を虐げるような国、認めるわけないだろッ!」


「なら男が不自由な思いをする国は存在して良いのか? 常に女に狙われ、行動は制限されている生活が当たり前だと? 女が多いだけで頭がおかしくなりそうなのに、出会った男どもはそれに疑問を持たない。みんなイカれてやがる!」


 頭に血が上って興奮していた僕は、今の発言で少しだけ冷静になれた。


 ダイチはこの社会、いや世界に疑問を持っているようだ。拒絶していると言っても良いだろう。


 この世界で出会った男は少ないけど、みんな男女比が違うことを受け入れいてた。当たり前だ。生まれたときからそういった世界なので、疑問を持つ方がおかしい。


「女性が多いのは当たり前だろ? 何を言っているんだ?」


「そんなはずねぇ!」


 興奮したダイチは支えていたシャナルンを突き飛ばした。さらに蹴りを入れると彼女は床に座り込んでしまう。


 また女性に暴力を振るった。それが許せない。


「増えた女は、まびいてやらねぇとなぁ!!」


 抵抗すれば逃げられるのにシャナルンは黙って、踏みつけてくるダイチの攻撃を避けようとしない。


「いいよ。ダイチ。君のすべて受け入れてあげる」


 どうして笑って受け入れているんだ?


 二人の関係が理解できない。


 けど、僕がやることは一つだけ。目の前の暴力を止める!


「ダイチ! 僕と戦え!」


 腰にぶら下げていた剣を抜いて構えた。さすがに危機感を覚えたのかダイチは踏みつけるのを止めて僕を見る。


「男同士で戦うなんて不毛だ。俺についてこい」


「断る!」


 女性に悪意を振りまくダイチはこの場で排除するぞ!




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