第67話 いーーだ!

 戦いに慣れている人たちの調査をするからか、十数人もの衛兵のひとたちが冒険者ギルド内に入ってきた。


 昔テレビで見た、反社会勢力にガサ入れしている雰囲気にいている。


 受付のカウンターの奥にまで入っていって、建物の隅々まで調査するみたい。依頼を受けようとしている冒険者たちは尋問をするのか、パーティ単位でどこかに連れて行かれている。


 出入り口や窓はおさえられてしまっているので、逃げ出そうとしてもできない。


 やましいことは何もしてないので怯える必要なんてないんだけど、大股で近づいてくる衛兵を見ると、どうしても緊張してしまう。


「後ろに隠している女を見せろ」


「断る」


「いーーだ!」


 衛兵の命令にヘイリーさんとレベッタさんが反抗してしまった。メヌさんはハンマーを手に持つし、アグラエルさんは周囲に氷の槍を浮かべて臨戦態勢に入っている。


 みんな好戦的すぎるでしょっ!

 公務執行妨害みたいな罪に問われるんじゃないのかな!?


 大事になってしまう前に、僕が止めるべきだろうか。


 悩んでいるとテレシアさんが来てくれた。


 助けて、という意味も込めて小さく手を振ると、微笑んでくれる。気持ちは伝わっただろうか。


「こいつらの調査は私がする。お前は別の冒険者を調べろ」


 テレシアさんが衛兵の肩に手を置いて、命令を出していた。


 上司に反抗なんてできないみたいで、僕たちを尋問しようとしていた衛兵はどこかに行ってしまった。


「事情を説明したい。五人とも付いてきてもらえないか?」


「信じて良いんだよね」


「レベッタなら知ってるだろ? 私はイオちゃんが好きだ。嫌がることをするはずないだろ」


 面と向かって好きと言われてしまい、こんな状況だというのに顔が熱くなってしまった。それに気づいたヘイリーさんがお尻をつねってきたけど、照れてしまったことぐらいは許して欲しい。


 クソ親父のせいで学校にすら通えてない僕は、女性への免疫がないんだよ。


「どこに連れて行くつもり?」


「紹介したい人もいるから衛兵所に来てくれ」


「なんだか嫌な感じがするけど、良いよ」


「じゃぁ行こうか」


 衛兵のトップが現場を離れて良いのかなと思ったけど、レベッタさんとのやりとりに口をはむことはできなかった。


 テレシアさんに連れられて、冒険者ギルドを出ると町の中を歩く。


 ぱっと視界に入る範囲にも衛兵っぽい女性が何人もいて、すごく物騒だ。


 厳戒態勢と言っても過言ではない。


 何か大きな事件が起きたのかもしれない。僕だけじゃなく、仲間のみんなや町に住む人々も感じていた。


* * *


 衛兵所につくと取調室ではなく、応接室に案内された。


 三人掛けのソファが二つ向き合うように置かれていて、レベッタさん、ヘイリーさん、メヌさんが座る。アグラエルさんはその後ろに立ち、僕はドラゴンの尻尾に巻かれて抱かれていた。


 これは何かあったときに、アグラエルさんが僕だけを運んで窓から逃げ出すためのフォーメーションだ。


 ふんふんと髪の匂いを嗅がれてしまっているけど、気にしてはいけない。


「いつまで待たせる気かなぁ~」


 不満を口に出したのはレベッタさんだ。


 案内が終わった後、テレシアさんはすぐに出て行ってしまったので、僕たちはしばらく待たされている。


「暇だからイオちゃんとイチャイチャする?」


「賛成」


 メヌさんがこの場にそぐわない提案をして、ヘイリーさんが受け入れてしまった。


 立ち上がろうとして腰を浮かしかける。


「大人しくしてろ」


 頼れるアグラエルさんが、二人の頭に拳を叩きつけて座らせてしまった。


 ここは外で、僕が男だと知らない人も沢山いる。みんなと触れ合うのは嫌いじゃないけど、場所ぐらいは選んで欲しかったので助かった。


「痛い」


「暴力的な女は男性に嫌われるよ」


 不安そうな目をしたアグラエルさんが僕を見てきたので、首を横に振って否定した。


 世の男はどう思うか知らないけど、強い女性は好きだ。たくましさを感じて安心する。


「問題ない。それよりも変態の方が嫌われると聞く。メヌの方が危ないんじゃないのか?」


「イオちゃんは心が広いから大丈夫だから」


「そう思っているのはメヌだけかもな」


「へぇ。アグラエルも言うようになったね」


 やばいケンカが始まりそうだ。メヌさんが立ち上がってアグラエルさんの前にきた。お互いに顔を近づけて威嚇し合っている。


 ピリピリした空気が応接室内に広がっていく。


「二人とも落ち着いて! ここでケンカしたら牢に入れられて、イオちゃんに会えなくなるよっ!」


 ピタリと二人の動きが止まった。


 衛兵所でケンカしてしまえば言い訳なんてできない。間違いなくレベッタさんが言ったとおり、牢に入れられてしまうだろう。しかも町中でのケンカより重い罪になりそうだから、出てこれるか分からない。


 それは二人も分かっているだろうけど、引っ込みがつかない状態である。ここは男である僕がきっかけを作るべきだろう。


「会えなくなったら悲しいです。私のためだと思ってケンカは止めてもらえませんか?」


「イオちゃんが言うなら良いよ。わかった」


 メヌさんはすぐに顔を離すとソファに座った。


 仲裁した効果が出たようだ。応接室でケンカしてしまうような事態は避けられた。


 この世界の女性は、たまにマウントの取り合いをするから、これからも気を付けるしかない。


 とりあえず場の空気を和ませよう。僕が今日の晩ご飯を何にするか話題を振って、みんなで盛り上がっているとノックもなく応接室のドアが開いた。

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