第68話 男性の事件!?

「待たせたな。客を連れてきた」


 応接室にテレシアさんが入ると、後ろからルアンナさん、そして知らない女性が一人付いてきた。


 髪は短い。黒髪だ。どことなくアジア系の顔つきをしていて、親しみが持てる。この世界でもいろんな系統があるんだなぁ、なんて感心してしまった。


 三人は僕たちの前に置かれたソファに座る。真ん中は見知らぬ女性で、左右にテレシアさん、ルアンナさんというフォーメーションだ。


「こいつ、誰?」


 ヘイリーさんはすごく警戒しているようで、かなりきつい言い方をしながら質問をした。剣の柄に手を当てて腰が僅かに上がったように見えたので、不審な動きをしたら即座に戦うつもりでいるんだろう。


 それは彼女だけじゃない。アグラエルさんはドラゴンの羽で僕の体を包む。顔だけが出ている状態である。レベッタさんやメヌさんも警戒しているようだ。


「テルルエ王国の騎士だ」


 空気が張り詰めている中、テレシアさんはいつもと変わらない感じで話している。裏があるわけじゃなさそうに思えて、ちょっとだけ安心した。


「外国の人間が、どうしてここに? 私たちと関係あるの?」


「あるから連れてきている。説明するから落ち着いてくれ」


「…………」


 みんな悩んでいるようで、無言になった。


 僕を守るために必死なってくれるのはありがたいんだけど、このままじゃ何も進まない。


「みんな落ち着いて話を聞きませんか」


「イオちゃん」


 最初にレベッタさんから警戒心が解かれた。力を抜いてソファに深く座る。メヌさんも同じだ。僕を覆っていたドラゴンの羽が離れ、締め付ける尻尾の力が弱まったので、アグラエルさんも話を聞く体勢になったようだ。


「いいよ。今回はイオちゃんの言葉に従う」


 最後まで外国の騎士に敵対してい態度を貫いていたヘイリーさんも納得してくれたみたい。これで話が聞ける。


「ほう。そこの彼女が、このパーティのリーダーなのか」


 凜々しい見た目に反して、やや高くてかわいらしい声だ。

 

 全員の視線が発言した外国の騎士に集まる。


「おっと失礼。先ずは名乗らせてもらおう。私はテルルエ王国特別騎士団に所属するヘンリエッタだ」


 耳元でアグラエルさんが「ナイテア王国の同盟国だよ」と教えてくれた。


 国家間の事情なんて全くわからないので助かったよ。お礼の代わりに尻尾を撫でておく。ぷるっと、彼女の体が震えた。


「実はだな……今回は男性に関わる緊急性の高い事件が発生したので、こうやって面会の時間を作ってもらった」


「男性の事件!?」


 驚いて思わず声に出してしまったけど、誰も突っ込んでこない。みんなも同じ気持ちなんだろう。


「すまないが、詳細については言えない。ただ男性特区が少し騒がしくなるので、ナイテア王国スカーテ王女殿下並びにテルルエ王国イザベル王女殿下から、事件解決するまで君たちを護衛するように言われてここに来た」


 男性特区で事件が起こるかもしれないから、助っ人を用意してくれたみたいだ。


 外国で起こった事件であれば、ヘンリエッタさんは僕たちより事情に詳しいだろう。巻き込まれないようにいろいろと提案してくれることが期待できる。


 スカーテ王女もそういったことを期待して命令を出したのだろう。


「ご丁寧にありがとうございます。私はイオです。後ろにいるのがアグラエルさん、ソファに座っているのが左からレベッタさん、ヘイリーさん、メヌさんで、冒険者をやっています」


「だが、ただの冒険者じゃないだろ?」


 男性特区に住むぐらいなんだから、裏があるんだろと言いたそうだ。


 どこまで説明していいのか悩んで口を閉じる。この世界の常識にまだ疎いので、繊細な事柄については気軽には発言できないのだ。


 そんな僕を見たルアンナさんがフォローしてくれる。


「それについては、彼女たちから信用を得られたらわかることでしょう。今は教えられません」


「護衛対象の情報を隠すとは……任務を失敗させるつもりか?」


「テルルエ王国の特別騎士団と言えば、我が国でも精鋭揃いだと有名です。護衛対象の情報が少ないからと言って、失敗するほど軟弱な鍛え方はしてないでしょ?」


「むろんそのとおりだが、私は何事に対しても徹底的にやらないと気が済まない気質でな。簡単には引き下がらん」


 二人の騎士がバチバチとけん制し合っている。周りにいるみんなは面白そうに見ているだけ。


 同盟国の騎士なんだから、もうちょっと優しく接してもいいんじゃないかなと思ったけど、細かい事情を知らないので傍観を続ける。


「だからといって、仮に裏があってもすぐに教えられるものじゃない」


「ほう、裏があるとは認めるんだな」


「さぁ? 私は仮と言っただけだから。本当にあるかどうかは、ご想像にお任せする」


「ちっ」


 ついに舌打ちをしたヘンリエッタさんが僕を見た。

 

「なあ。イオはどう思う?」


 裏の事情、その張本人に聞かれても困るんだけどッ!


「イオちゃんは私たちのリーダーなの! 勝手に話しかけないで!」


「なんだ、その理論は? リーダーだからこそ、一番始めに話しかけるべきだろ」


 僕を守るためだと思うけど、レベッタさんが変な言いがかりをして、ヘンリエッタさんが反論した。


 顔合わせの場だというのに混沌としている。これ、どうやってまとめるんだろう……。

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