第62話 スカーテ王女:最近、変わった犯罪はあった?

 王女様と仲良くしたいというイオディプス君からのお願いがあって、何度か家にお邪魔して晩ご飯を一緒に食べたけど、男の手料理を堪能できるとは思わなかった。


 毎日あんな良い思いをしているなんてズルい。

 王族だって、そんなことできないのに。


 週に一回、晩ご飯を食べに行く約束をしてもらえなければ、国家反逆罪でレベッタたちを捕まえ、処刑するところだった。


 ルアンナに自慢したら思いっきり悔しそうな顔をしていたので、数度に一回は連れて行ってあげよう。


「スカーテ王女殿下。そろそろお時間です」


 寝室のドア越しから侍女の声が聞こえた。


 朝から政務が忙しく、昼食を取った後に仮眠していた私は体を起こす。


「支度を手伝ってちょうだい」


 ドアが開くと侍女が入ってきた。


 私が大きな鏡のある化粧台の前に座ると黙って髪を整えてくれる。薄く口紅を引いてもらい来客用の青いドレスに着替えさせてもらうと、近づいてくる足音が聞こえてきた。


 これから騒がしくなるだろうから、彼女は下がらせておこう。


「もういい」


「かしこまりました」


 深く頭を下げてから侍女が出て行くと、入れ違いにルアンナが寝室に入ってきた。


 金属製の鎧を着ながら走ってきたみたいで、息が切れている。汗も浮かんでいるようで少しみっともない姿をしていた。


 第一王女である私の寝室に入るのだから、もう少し身なりを整えてから来なさい。幼なじみじゃなければ説教をしていたと思う。


「スカーテ王女殿下っ!」


「何?」


「イザベル王女殿下が来ました!」


 私のお母様が治めているナイテア王国の隣にあるテルルエ王国の王女だ。


 地理的にナイテア王国を攻めようとしたら、まずはじめにテルルエ王国を攻めなければいけないため、防波堤のような役割をしてくれている。非常に重要な相手だ。


 同盟国だから仲は良い。国境をまたいだ問題が起きたときは、外交を担当している彼女が来る決まりになっていた。


 今回は重犯罪者が我が国に逃げ出したと言うことで、詳細の説明をしに来たと聞いている。


 本来は女王であるお母様が対応するべきことなのだが、体調を崩してベッドの上で生活しているため私が担当することになった。


「今は湯浴みをしているころか?」


「いえ、先に急ぎで話したいことがあるらしく、応接室で待ってもらっています」


 長旅の汚れを落とさず、すぐに会談を求めることから、逃げ出した人物が非常に重要だというのが分かる。


「すぐに行く」


 寝室から出ると廊下を歩く。後ろには護衛としてルアンナが付いている。


「最近、変わった犯罪はあった?」


「男性特区に入り込もうとする女が後を立たないぐらいですかね」


「ダミーの情報は流しているんだろうな?」


「もちろんです。ツエルという男を守るために作ったと噂を流しています」


 イオディプス君とトラブルを起こした太った男を守るために特区を作った。これが表向きな見解である。


 まだ本人の移住は終わってないが、数日後には本当に引っ越してもらう。嘘ではなく本当に身代わりとして生活してもらう予定だ。


「評判が悪い男性だと聞いていたが、それでも忍び込もうとする女がいるとはな……」


 本人はまだいないのに。

 先に入って現地調査するつもりだったのだろうか。


「欲望を抑えられない一部の女は、リスクなんて気にしません。相手が男性であれば何でもするでしょう」


「そんなものなのか?」


「そんなものです」


 まったくもって理解できないのは、少ないながらも知り合いの男性がいるからだろう。有史以来から続く男性不足と、暴走する女の欲望は常に大きな問題を出し続けている。なんとかならないものか。


 男女問題で頭を悩ませながら歩いていると、応接室のドアが見えた。


 後ろにいたルアンナが前に出ると大声を出す。


「ナイテア王国の第一王女スカーテ殿下が参りました」


 内側からドアが開いた。中にいた侍女が対応したようだ。


 ルアンアが入ったので後に続く。


 室内に置かれたソファに緑色の髪を肩まで伸ばした女性が座っていた。つり目で気が強そうに見える。胸は小さく肩幅が大きいので、遠くから見れば男性に間違えられてしまう風貌をしている。そんな彼女がイザベル王女だ。


「久しぶりだな。元気にしてたか?」


 声をかけるとイザベルは立ち上がった。


「平和が続いているから元気に過ごしている。スカーテも元気そうだな」


「ああ。おかげさまで毎日楽しく過ごしているぞ」


 友好の証として握手を交わすと、私たちは向かい合うようにしてソファに座る。


 侍女がローテーブルにカップを置くと紅茶を淹れてくれた。


「急ぎの話があるんだろ? 詳細を教えてくれ」


 カップを手に持つと一口飲む。


 ほんのりと苦いが、頭が引き締まる感じするので私は好きだ。


 イザベルを見ると黙ったままだった。


「言いにくいことなのか?」


「我が国の失態に繋がる話だからな」


 機密性が高い話をしたいというわけか。


 カップを置くと手を軽く叩く。


「二人で話す。他の者は部屋から出てくれ」


 侍女は静かに去って行ったが、ルアンナは命令に従うか悩んでいるようだ。立ったまま私を見ている。


「心配は無用だ。さっさと行動してくれ」


「かしこまりました」


 他国の王女がいるからか、普段とは違って丁寧な返事をすると応接室から出て行った。


 これでイザベルと二人っきりである。


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