第61話 バングルの使い方教えてあげる
床から腰を浮かして立ち上がると、メヌさんを抱きしめる。
「これで許してもらえませんか?」
「もちろんだよ。イオちゃん」
手が服の下に滑り込んで、直接背中を触ってきたけど、僕のためにバングルを作ってくれたのだから、この程度なら受け入れる。お尻や股間に向かいそうになったら逃げるけど、その辺の見極めはできる人だから大丈夫だろう。
「はい、そこまで」
アグラエルさんが僕たちを引き離した。メヌさんが睨みつけているけど、気にした様子はない。
「バングルの使い方を教えるのが先だ」
「終わったら、またイチャイチャして良いの?」
「私も入れろ」
「条件がある」
「何だ?」
「レベッタとヘイリーにはバレないようにすること」
「いいだろう」
交渉がまとまって、ガシッと二人が力強く握手をした。
僕の気持ちは無視されてしまっているけど、いつも通りなので突っ込む気にはならない。
女性に抱き付かれるのは嫌じゃないからいいけど、子供を作りたいとは思わないので、お触り以上を求められても断るけどね。
僕の精神が幼いのは自覚している。
今の状態で父親になったらアレと同じになってしまうかもしれない。
それが何よりも怖い。
だからもっと色んな経験をして精神が成熟してからじゃないと、みんなと先に進みたいとは思わなかった。
「イオちゃん。バングルの使い方教えてあげる」
「お願いします」
メヌさんに手を握られ、引っ張られるようにして中庭に移動した。アグラエルさんは見学すると決めたようで、座り込んで僕たちを見ている。
バングルを渡されたので右腕に付ける。ひんやりと冷たい。地球に存在しない金属でも、こういうところは同じなんだな。
「魔道具には二つのタイプがある。一つは装着すると使用者の体力を常に吸い上げ、自動発動するもの」
そう言ってメヌさんは僕の首を指さした。声を変える魔道具は付けた瞬間から効果が発動するので、自動発動タイプと言いたいのだろう。
魔道具を発動させると体力を消費するというのは初めて聞いたけど、丸一日つけても気づかないぐらいなので説明を忘れちゃったのかな。うっかり女王だ。
「二つ目は使用者が任意に発動させるタイプ。私のバングルやイオちゃんが付けている指輪はこっちの方」
指輪の効力を発揮するためには、脳内になりたい姿をイメージを思い浮かべる必要がある。バングルもそういった発動条件があるのだろう。
「どうすれば使えるんですか?」
「特別なワードで発動する。試しに『起動』と言ってみて」
普段使っているのとは違う言語だ。この体の持ち主だった男は知らないようで、意味が全く分からない。
「発音できるかな」
「私のマネをして」
今度はゆっくりと先ほどの言葉を発音してくれた。僕も同じように言ってみるけど、バングルは発動してくれない。イントネーションとか何かが間違っているんだろう。何度も繰り返してみるけど、バングルは沈黙したまま。
思っていた以上に時間がかかっちゃってる。それでもメヌさんは機嫌が悪くならず、根気よく付き合ってくれるから感謝の気持ちしかない。
もう何十回目か分からないほど繰り返していると、ついに正式な発音ができたようだ。
『起動』
バングルが淡く光る。氷のように冷たい印象を与える青色だ。
「で、できましたー!」
苦労した末に成功したので、嬉しくなってメヌさんを抱きしめてしまった。背中をポンポンと優しく叩かれると、普段とは違う愛情を感じた。
これはなんて言えば良いんだろう。今の僕には分からなかった。
「でも大変なのはこれからだよ」
「え?」
「三種類の機能があるから使い分けてね。発音は『アイスランス』『アイスウォール』『アイスストーム』なんだけど言えるかな? ちなみにバングルが動き続けている間は、体力が減っていくから使わなくなったら『終了』って言うんだ」
バングルが動き出したんだから、あとはイメージで使うんじゃないの!?
壁を一つ越えたら、さらに大きな壁にぶち当たった気持ちになった。
「発動させればイメージで操作できるから。頑張ってね」
また背中を叩かれてから、メヌさんは離れる。
「さ、私に続いて」
先ほどよりも長い言葉なので、当然のように正式な発音をするまで難航する。
一時間ぐらい経っても何もできずに疲れ切って倒れてしまった。
そういえば英語苦手だったなぁ。こんなことになるなら、学校に行けないからといって勉強をサボるんじゃなかった。
横になっているのに疲労は蓄積していく。このままだと気を失いそうだ。放置してたら死んじゃうのかな。
動けないでいる僕を見かねたメヌさんがバングルを外してくれると、青い光が消える。体は疲れたままだけど、これ以上は悪化かいないだろう。
「今日はこのぐらいで終わり。また明日ね」
体がふわりと浮かんだ。アグラエルさんが尻尾を絡めて持ち上げたみたい。鍛冶場に戻ると寝室へ連れて行かれて、ベッドの上に乗せられてしまった。
「疲れただろ。今日はここで寝て良いよ」
「でも家に戻らないと……」
「魔道具が使えるようになるまで帰れないって、レベッタとヘイリーには伝えておく。安心して寝てくれ」
「でも心配させちゃうから……ちゃんと家に……」
体力が切れてしまったみたいで、話しながら意識を失ってしまった。
翌日、目が覚めるとメヌさんと一緒に発音の練習を繰り返す。何度もチャレンジしては失敗を繰り返し、夕方になってようやく『アイスランス』が使えるようになった。不思議なことに一度コツを掴むと、その後は順調に進んで二つ目、三つ目の機能もすぐにマスターしてしまう。
これで僕は身を守る手段ができた。
みんなの足を引っ張らずに冒険者活動ができそうだ。メヌさんには感謝しないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます