第50話 イオ君を返せ!!
スキルブースターの効果はすごかった。
騎士が剣を一振りするだけで複数のゴブリンが宙に舞い、背の高いゴブリンクイーンもルアンナさんが一刀で両断してしまった。圧倒的な暴力を前にして、メスゴブリンの集団は一分足らずで全滅してしまう。
戦闘向けのスキルをもった集団の強さ、そしてスキルブースターの恐るべき力を目の当たりにした気分だ。
確かにスキルブースターを全力で使えば、大国とだって良い勝負だができるだろう。スカーテ王女が俺に気を使っている理由が本当の意味で分かった気がした。
「すごいねぇ……」
勝利した騎士の姿を見たレベッタさんが呟いた。
憧れ、羨望、そういった類いの感情がこもられていたように感じる。死ぬことを覚悟した相手を数分で全滅させてしまったのだから、プライドが傷ついたはずだ。どんなに頑張ってもスキルの差は埋められないのだ。その現実が彼女を押しつぶそうとしているのかもしれない。
何か言わなくてはいけないと思って口を開きかけたが、言葉は出なかった。
この世界に来たばかりの俺が何を言っても、さらにレベッタさんを傷つけるだけなのだから。
「ねぇ。イオ君」
寂しそうな顔をしたレベッタさんが、俺の方を向いた。
目が合う。ふっと笑ったような気がした。
「お姉さんといるより、王女様達と一緒に居た方が安全だよ。だから……」
最後まで言わせてはいけないと思って抱きしめた。
「イオ君?」
「最初に声をかけて俺を拾ったのはレベッタさんです。最後まで面倒を見る責任があると思いませんか?」
「でも今回みたいに、私たちじゃ守り切れないときがあるかもよ」
「だったら、一緒に強くなれば良いんです。スキルブースターだってもっと効率の良い使い方があるかもしれないですし、諦めるのは早いですよ」
キスをしたらスキルブースターの効果が高まったのだ。もっと親密な関係になれば、さらに強い効果が見込めるかもしれない。一時的なスキル進化だけではなく永久的なパワーアップだって可能かもしれないのだ。可能性は無限大である。
「本当にいいの? お姉さんから離れる最後のチャンスだよ?」
「ずっといる覚悟がなければ、キスなんてしません」
背伸びをしてレベッタさんの耳に口を近づけ、誰にも聞かせられない言葉を伝える。
「初めてだったんです。責任、取ってくださいね」
普通は逆だろと思うのだが、この世界であれば普通かな。
少しでも元気が出ればと考えての行動だったのが、想像以上の効果が出てしまう。なぜか肩に担がれてしまったのだ。
「うん。責任、取るね! 続きはお家でしよっ!」
戦いで疲れているはずなのに、全力で走り出してしまった。向かう先は依頼を受けた村の方だ。
家で何をするつもりなんだっ!!
「抜け駆け禁止!」
すぐに動いたのはヘイリーさんだ。剣と盾を投げ捨てると陸上選手のような走り方で追ってきた。歯を食いしばって目を見開いている。普段の物静かな態度とは正反対だ。ちょっと、いや、かなり怖い。
「アグラエル! コンビ技で捕まえよ!」
「わかった!」
メヌさんを抱きしめたアグラエルさんは背中の翼を大きくひらいた。
まさか空を飛ぶつもりか!?
「レベッタ覚悟しろっ!」
予想したとおりアグラエルさんが空を飛んだ。数十メートルぐらいだろ。滑空しながら近づいてくる。最小の労力で効率よく移動してると、感心してしまった。
「二人の楽園を作るんだから、みんな邪魔しないでっ!」
何を言ってるんだ!?
一緒にいようと言ったが、その中にはパーティメンバーも入ってるんだ。二人だけで永遠に過ごそうなんて約束をしたつもりはない!
「みんなで楽しく過ごしません!?」
「きこえなーーーーい!」
今時の子供ですら言わないことを大人が言わないで欲しい!
ダメだ。この人、暴走している。
「逃がさないっ!」
背後にまで近づいたヘリイーさんが低く飛んで、腰回りを掴もうとする。
「あまいねっ!」
真横に飛んで回避した。さすが冒険者、運動能力が高い。
感心していると急に周囲が薄暗くなった。顔を上げるとハンマーを持ったメヌさんが落下していた。直撃したら、俺まで攻撃をくらいそうなんですがッ!!
「レベッタさん、上! 上です!!」
「はいよっ!」
また横に飛ぶとメヌさんのハンマーを回避する。飛び散った土が口に入ったので、ペッと吐き出した。
「大丈夫!?」
「ダメです! おろしてください!」
「それは無理! 二人で世界の果てまで行こう」
決め台詞を言った、なんて思ってそうな自慢げな顔をされてしまった。白い歯が、きらんと光っているようにも見える。
このままだと本当に連れて行かれそうだ。
「イオ君を返せ!!」
アグラエルさんが滑空しながら衝突した。俺を巻き込んでゴロゴロと転がる。目がグルグルと回ってしまい何が起こっているか分からない。
勢いが止まったので、起き上がるために手に力を入れる。
むにゅっと柔らかい感触がした。
うん。よくわからない。もう一度揉んでみる。やっぱり柔らかい。男を癒やす魅力がある。
「イオ……君……?」
声がした方を見るとアグラエルさんが、顔を真っ赤にさせながらプルプルと小刻みに震えていた。羞恥心に耐えているようだ。
「ありがとうございます?」
お礼を言ったら限界に達したようだ。竜の翼を羽ばたかせて、どこかに飛んでしまった。
風に吹き飛ばされた俺は、また地面を転がると、固い物にぶつかって止まった。
「大丈夫ですか?」
「はい……」
ルアンナさんの足に当たっていたみたいだ。覗き込むようにして俺を見ていた。
「後始末は部下に任せるので、安全な場所に行きましょう」
また抱きかかえられると誰にも気づかれることなく、お持ち帰りされてしまう。
争奪戦の勝者はルアンナさんになったようだ。
========
【あとがき】
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
いったん完結となります!!
もし楽しんでいただけたのであれば、
作品のフォロー&評価の【☆☆☆】で応援をお願いします!
沢山の応援をいただけたのであれば、第二章も書きたいと思います!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます