第49話 あのゴミどもを殺すぞ

「みんなの力を解放しますッ!!」


 スキルは使うと意識した瞬間に発動する。特別なワードは必要ない。だから今回も「使う」と決め、スキルブースターの効果を発動させた。


「イオ君、目の光が強い。輝いている。どうしちゃったの!?」


 スキルを使っている間は目が光る。光の強さはスキルの強さと聞いたことがあったけど、これからやることを考えれば、レベッタさんの教えは正しかったのだろう。


「スキルブースターは親しい人のスキルを強化する」


 だからこそ想いの強さが、そのまま力に反映されるのだ。


 スキルブースターが何をすれば良いか教えてくれる。戸惑っているレベッタさんを見た。


「俺の前に来てください」

「イオ君?」

「はやくッ!」

「う、うん」


 言うとおりにしてくれたので顔を近づける。彼女たちの気持ちは充分伝わっているので、宣告なんてせずに唇を重ねた。


 初めてのキスだ。


 気持ちがたっぷり乗っていることもあって、効果は絶大だったらしい。


「え、なに!? どうしたの!?」


 レベッタさんの全身が薄く輝き出す。


「体の奥から力が湧き出てくる」


 ついに始まったのだ。スキルの進化が。


 大切な人を守りたいという気持ちが上限突破したことで、生まれてから絶対に変わることのないスキルが、別次元のスキルへと昇華している。スキルブースターは効果を高めるなんて単純なものではなく、新しい存在にスキルを作り替える機能が本質だ。


 キスをした理由は「親しい人ならそのぐらいするでしょ」と単純な発想があったから。俺の持っているスキルブースターなら、俺の考えを支持してくれるという確信があった。


「私も」


 ヘイリーさんに口づけをされてしまった。先ほどと同じように全身が淡く光り出す。別のスキルに昇華している証だ。


「これは……未来予知? ううん。これは予測。高い確率で起こりうる短期の未来がいくつも見える」


 体から放たれた光が弱くなり、代わりに目の輝きが強まる。ヘイリーさんのスキルは動体視力だったはずだが、今は未来予測のスキルに進化したのか? 彼女の目には、これから起こりうる未来がいくつも映っているのかもしれない。


「レベッタ。クイーンの左右にいるメスゴブリンシャーマン殺せる?」

「任せて。新しいスキル、天眼でバッチリ捉えているから」


 目を閉じたまま、レベッタさんは天に向けて矢を番えた。弓が大きくしなる。ギリギリと音を出しながら弦を限界まで引く。


「ヤるね」


 弦から指が離れた。矢が天に向かって伸びて、重力に従い落ちていく。レベッタさんは続けてもう一本放つと、二つの矢はゴブリンの集団の中に消えていった。


「メスゴブリンシャーマンの額を射貫いたよ」


 矢が刺さった姿なんて見えないのに、レベッタさんは殺したと確信しているようだ。


 メスゴブリンシャーマンを殺されて動揺しているゴブリンの集団だが、クイーンが大声で叫ぶと静かになる。俺に向かって指を指しているところから、言葉が通じなくても強い意志は感じ取れた。


 狼に乗ったメスゴブリンたちが、片手剣を掲げながら全力で走ってくる。後列には弓を持ったメスゴブリンもいるようだ。前衛が近づく直前で援護射撃をするのだろう。


 単体では弱いが、集団になると人間のような力を発揮する。恐るべき魔物だと感じた。


 こうなったら疲労困憊なアグラエルさんにもキスして、スキル進化させた方が良いかもしれない。早く動こう。


「大丈夫。私たちの勝ちだから」


 アグラエルさんに駆け寄る途中で、ヘイリーさんが俺の背後を指さした。


 走ってくる集団が見える。人数は百近い。


「ゴブリンの異変を察知した冒険者たちが助けに来てくれた?」

「冒険者は金にならないことしない」


 命を賭けているからこそ、金にこだわるのだろう。シビアな関係なんだな。


「あれはナイテア王国の騎士」

「ルアンナさんたちだ!」


 スカーテ王女が俺を守るために派遣した騎士たちが助けに来てくれたのだ。


 町を出て森の中にまで守ろうとする行動に、不覚にも感動してしまう。


「スキルブースター使える?」

「もちろん」


 助けに来てくれた彼女たちは間違いなく俺の味方だ。ちゃんと効果を発揮してくれた。


「魔法を放て!!」


 走りながらルアンナさんが指示を出すと、火の玉が数個、空中に浮かび、狼に乗ったメスゴブリンの集団に向かって放たれた。


 接触すると爆発する。クレーターができるほどの威力で、吹き飛んだ土の塊が周囲にいたメスゴブリン立ちにも当たり、狼から転げ落ちる。


 続けてもう一度、火の玉が放たれると、狼に乗ったメスゴブリン立ちは全滅した。


「大丈夫ですか!?」


 騎士を引き連れたルアンナさんが、俺の前に立つ。

 顔や体、腕の順番で触って動きが止まった。


「ケガをされたんですね」

「安心してください。かすり傷ですよ」


 ルアンナさんの表情がいっきに暗くなった。連れてきた騎士たちも同じだ。


「私たちの大切なイオ君が傷物にされた」


 騎士たちから殺気が放たれる。

 戦闘に疎い俺でも分かるほど強烈だ。


「全力でスキルを使え」


 瞳が強く光る。


「あのゴミどもを殺すぞ」


 無言のまま走って行く。


 騎士と言うよりも蛮族に近いと感じてしまうほどの迫力があった。


 迎撃のためにメスゴブリンから矢が放たれるが、騎士は剣を一振りするだけで弾いてしまう。


「私たちは武術系統もしくは攻撃魔法系のスキルを持っています。イオ君のおかげでクイーンですらすぐに殺せると思うので安心してください」

「それでも、気をつけてくださいね」

「もちろんです」


 ルアンナさんが急に跪くと、俺の手を優しく触って顔に近づける。


「あなたに勝利を届けます」


 柔らかい唇が俺の手の甲に当たると、彼女も全身から淡い光が出た。


 相手がキスするパターンでも効果を発揮するのか!!


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