第32話 なりたい姿を思い浮かべるんだ
「最後の選択肢は、王家からの護衛を受け入れながら今の生活続けるというのだな。スキルの存在がバレない限り、自由に暮らせるだろう」
「もしバレてしまったらどうなりますか?」
「他国からの間者に狙われ続ける」
国家戦力を底上げするスキルがあると知られたら、野放しにはしないか。俺だけじゃなく、レベッタさんやヘイリーさんたちも危険にさらしてしまう。
でも、このまま提案を受け入れいていのか悩んでいる。スキルブースターの危険性についてもう一つだけ情報が欲しいな。
スカーテ王女に質問をしてみるか。
「スキルブースターの能力は他国まで知れ渡っているのでしょうか?」
今回の問題は俺のスキル内容が他国にバレてしまった場合にのみ発生する。そもそも、どんなスキルなのかわからなければ対処しやすいと思っていたのだが。
「大昔に一度だけスキルブースター持ちは存在したことがあった。大陸を統一した偉人として、貴族階級では今でも有名だぞ」
終わった。俺のスキル名がバレただけで狙われるの確定だ。
現在、ナイテア王国のごく一部が知っているだけだからまだ安全だが、情報が漏れてしまえば自由が欲しいなんて悠長なことは言ってられない。
万が一のことを考えれば後ろ盾は必須だ。
俺と、そして恩人である二人の命を守るために王家の力を借りなければいけないだろう。
「スカーテ王女様は、どこまで協力してくれますか?」
「なんでもしよう」
要求内容すら伝えてないのに気軽に言われてしまった。
王族がこんな気軽に約束しても良いのだろうかと思ってしまうが、後のない俺は他人を心配する余裕はない。良いと言うのであれば使わせてもらおう。
「しばらくは今の生活を続けたいです。けど、襲われるのは怖いので、腕利きの護衛を派遣してもらえませんか」
「いいだろう。自宅周辺の土地を買い上げ、一般市民に扮した護衛を用意しよう」
思っていた以上に大きな提案をされてしまった。
一人か二人ほど派遣してくれば良かったんだが……。
「それだけじゃ足りないな。他にも良い物を渡そう」
スカーテ王女は立ち上がると、赤いドレスをなびかせながら優雅に歩いて俺の前で止まる。
王族の威厳と気品に満ちあふれており目が離せない。嫌でも注目してしまうカリスマ性を感じた。
「受け取ってくれ」
差し出された手の上には銀色の指輪があった。文字がびっしりと彫り込まれているが、イオディプスの知識を使っても読めない。
普段使っている言語とは別のものなんだろう。
「これは何ですか?」
「姿を変えるマジックアイテムだ。指輪を付け擦りながら、なりたい姿を思い浮かべるんだ」
そうすると別人に変わると。
家を出る度に変装しなければいけない俺にとって、ありがたい機能である。
落とさないようにスカーテ王女の手を触りながら指輪を掴む。
「あっ」
持ち上げたときに名残惜しそうな声が聞こえたけど気のせいだろう。
指輪は女性向けに作られているのか小さい。全ての指を試していたが、入ったのは小指だけだ。
ひんやりとした金属の冷たい感触を覚えながら、言われた通りに指輪をこする。
イメージするのはテレビで笑顔を振りまいていたアイドルの姿だ。
目がキラキラと輝いていて青髪をなびかせながら、キレのあるダンスをしていた。歌はそこそこだったが声質はよかったし、何より可愛かった。俺の初恋の女性である。
「ちゃんと使えたようだな」
思い出に浸っていただけで変身できたらしいが、髪を触っても長くなったようには感じない。窓ガラスに映る俺は、今までと変わらなかった。
「俺は男のままですけど……」
「姿を変えると言っても幻を見せているだけだからな。触れば気づかれてしまうし、本人には効果を発揮しない」
女性の体に変わったわけじゃないのか。ちょっと残念……じゃなくて! 接触の他、声にも注意しなければいけない。
変装は楽になったが、それ以外は今までと同じである。
「そう残念そうな顔をするな。声を変えるマジックアイテムもあるぞ」
いつのまにかスカーテ王女の手には黒いチョーカーがあった。彼女の顔と手が近づき、俺の首に巻いてくれる。
大きな胸が目の前にあり、思わず抱きしめてしまいそうになってしまう。年上で面倒見の良い女性に弱いんだよね。俺。
「声を出してみて」
「わかりました。どうです? 変わってますか?」
明らかに自分の声じゃない。高くなっている。ボイスチェンジャーよりも自然だ。
さすがマジックアイテム。原理はよくわからないけど科学技術を超えているなんて、ロマンがあるじゃないか。
「うん。これなら問題ない」
ぽんと肩を叩いてから優雅にくるりと回り、スカーテ王女は俺から離れた。
「これでしばらくは時間が稼げるだろう。二つのマジックアイテムと新しい身分証明書、それと当面の生活費を君にあげるから、お友達と一緒に今後について話し合うがいい。答えが出たら報告に来てくれ」
色々と融通を利かせてくれたのだ。
次の目標が決まったら、報告の一つぐらいするべきだろう。
「必ずお伺いに行きます」
「良い子だ。ではまたおいで」
「はい」
俺は頭を下げてから部屋を出て、ドアを閉めた。
話を聞き終わってみれば俺が得することばかりだった。また会う約束をした以外はスカーテ王女が要求してきたことはない。
このことを報告すれば、レベッタさんたちは喜んでくれることだろう。
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