第31話 戦争、ですか?

「他国に取られるって、考えすぎではないでしょうか?」


 男が少ない世界で俺みたいな存在を拉致すれば、大きな火種になることは容易に想像が付く。


 最悪は戦争だ。


 そんなリスクを冒してまで手を出すとは思えない。スカーテ王女はネガティブな想像をしすぎているのではないか。


「イオディプス君は何も知らないんだな。いいだろう。周辺の事情を少しだけ話そうか」


 体に残った記憶を探っても生まれた村と森での生活、そして女性への嫌悪感しかなかった。国の状況を知る良い機会なので、不安を覚えながらも話を聞く。


「端的に言うが、イオディプス君の存在がバレたら戦争が起きる」

「戦争、ですか?」


 拉致じゃなく、存在を知られただけで!?


 新しい世界でノンビリと暮らせればいいやと思っていたら、俺自身が戦争の火種になると言われて驚いてしまった。


 先ほど自覚した不安がゆっくりと、でも確実に大きくなる。


 スカーテ王女から目が離せないでいた。


「そうだ。多くの命と金を消費してでも手に入れる価値が、イオディプス君にはあるのだ」

「どうして俺のために……」

「理由はたった一つ。スキルブースターにある」


 俺が覚えているスキルだ。


 男性のSSランクは歴史上初らしいが、それだけの理由で即戦争につながるとは思えない。他の理由があるはずである。


「他者のスキルの効果を上げるだけの能力ですよ?」

「その認識は間違っているな。親しい人のスキル効果を高める、というのが正確な表現だ」

「あまり変わらないような気が」

「いや大きく違う。実はこの親しいというのが重要で、助けたいと思った人にも効果を及ぼすのだ」


 王家ともなればSSランクのスキルでも詳しい情報を持っているようだ。俺の知らない情報ばかりが出てくる。昔から情報を集めていたんだろうな。


 曖昧だったスキルブースターの効果を知る良い機会になりそうだ。


「例えば、イオディプス君が軍隊を率いる将だとしよう。部下を生かして返したいと思うよな?」

「当然ですね。って、あ、もしかして」

「今、想像した通りだ。部下全員に効果を及ぼすことになる。もし国王にでもなれば、国民全員がスキルブースターの対象範囲となるだろう。この意味がわかるか?」


 世の中にはスキルランクDやCが多い。例えばスキルブースターの効果でスキルランクがBにまで上がるとしたら? 国民全員が戦闘できる集団となるだろう。戦闘民族国家の完成だ。


「国の総戦力が底上げされますね」

「そうだ。我国が危機に陥ったときと、必ず戦力が向上するのだ。しかもAランクやSランクの国民にも、その効果は及ぼす」


 Sランクスキル持ちは戦場を一変させるほどの力があり、国家戦力として重宝されると聞いたことがある。彼女たちの実力者が増加し、人数すら増える可能性があるのだ。脅威に感じることだろう。


 他国を侵略しようと動き出したら、一カ国では対抗不可能。いくつかの国が同盟を組まなければいけないはず。


「我が国は残念ながら小規模国家であるため戦力は乏しい。即戦争とはならないと思うが、誘拐や暗殺はしてくるだろうな」

「確かに……」


 しかも俺という存在を知ったら即座に動くはず。


 子種をばらまいたら、数年で高ランクスキル持ちの子孫が大量に生まれることになるからな。その前に手を打っておきたいと思うのが普通だ。


「スカーテ王女様は何を求めているんですか?」


 俺が置かれた立場は理解できた。王族として心配するのも理解はできる。


 そうなってくると重要なのは、俺に要求してくる内容だろう。国を守るためという大義名分があるのだから、非道なことをしてきそうで怖い。


「私と結婚して国王になってくれ、というのはどうだ?」

「荷が重すぎます」


 とりあえず王族になれば国の総戦力は上がり、攻められたとしても対抗できると考えた発言だな。


 時間を稼ぎつつ戦力増強するにはよい方法ではあるだろう。しかし学歴の低い無知な俺が国家運営なんてできない。重圧には耐えられないだろうし、精神がさきにまいってしまうことは容易に想像が付く。


「ふむ。そうすると残る選択肢は三つになるな」


 提案を断ってもスカーテ王女は淡々と話を進める。

 俺の反応は想定内だったんだろう。


「一つ目は種を提供するだけの家畜になることだ。スキルを使った妊娠率は100%なうえに一日に十回以上は使える。スキルランクDやCの子孫が数百から数千ぐらいつくれるぞ」


 まさか高ランクスキル持ちの男を家畜扱いしないだろう。という、盲点を突いた提案だ。


 妊娠スキルの詳細はわからないが、恐らく処女受胎になるだろう。俺は本当に存在するだけでよい男になる。衣食住には困らないだろうが自由はない。そんな生活をしたいとは思えなかった。


「二つ目は週に一度、貴族と子作りをする代わりに不自由ない生活をする方法だ。体力的に厳しいかもしれないが、王族よりも豊かな環境を提供すると約束しよう」


 体力的に厳しいと言ってくれたが、世の中の男と違って性欲は普通にある。週に一度と言わず、二度、三度でもこなせる自信はあるぞ。


 この体は若い上に体力は有り余っている。レベッタさんたちは遠慮せずにベタベタと触ってくるから、欲望を抑えるのに苦労しているぐらいだった。


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