幕間
チュチュッ。
お茶会が開かれていた室内。
愛菜とハーちゃんが消えた後も窓の外ではクロウタドリが鳴いていた。
ミラトが腕を差し出すとクロウタドリが止まり、歌うように鳴く。
「君は……、やっぱりそうか」
ミラトが指で撫でようとするとクロウタドリはさっと羽ばたき、窓の外へ飛んでゆく。室内は急に無音になる。
ミラトは小さく息を漏らし、周囲を見回した。
「……ここに来たのは、一体、何十年ぶりだったかな」
ミラトは暖炉の上においてある老婆の小さな写真を手に取り、写真を撫でて静かにうつむく。
「サンドラ、君の教え、願い、ようやく果たせそうだ。とてもいい子に出会えたよ」
ミラトは写真を戻し、庭に出る。
薔薇、デルフィニウム、ダリア、様々な花が色彩を滲ませ、フレンチガーデンらしい優しい色合いは眺めているだけで心が落ち着く。
懐かしい、そんな表情でミラトは庭を歩いた。
ふとミラトは咲いていた菊を一本手折り、祈るように胸に寄せた。それから少し歩き、背の高い植物が壁のように植えられているところで足を止める。
ミラトは組木で作られた道を逸れ、植物の下から見える細い土の道を歩きはじめた。
そこは土がむき出しになっている獣道のような道だった。
表の道とはまるで異なる寂しい、細い道。
左右の植物はその道を隠すかのように植えられている。
ミラトは言われても道と気づくか分からないその道を、植物をかき分けながら進んだ。
十メートルほども歩いた先には小さな空き地が見え、木漏れ日あふれるそこには小さな箱型の石が置かれている。
それは墓石。
明らかに人のそれより小さな墓石の前には一輪の菊が供えられている。
「つい最近だ……」
ミラトは嬉しいような、少し悔しいような困った表情でため息を漏らし、持っていた菊を墓前に供えた。
「君にも、いい報告ができると思うよ」
ミラトは慈しむように墓石を撫で、その場を立ち去った。
表の道に戻ったミラトの耳にさっきのクロウタドリの囀りが響いた。
視線の先にはクロウタドリが飛び、まるで誘うかのように飛んでは降り、飛んでは降りを繰り返しながらさえずり続ける。
「はいはい、分かったよ」
色とりどりの回廊をクロウタドリに呼ばれながら進んだその先には東屋があり、薔薇の蔓で組まれたアーチの木陰の下にはアイアンテーブルとチェアがあった。
少し前まで誰かが居たのだろうか。
テーブルには二客のティーカップが置いたままになっている。
クロウタドリはテーブルの上に降り、一声さえずって何処かへ飛び去っていった。
「飲んだら片付けろって昔から言っているのに、相変わらずだな。いつもぼくが片付けるんだ」
ミラトは苦笑いしながら、だけど少し嬉しそうにカップを持つ。
「……相変わらず、紅茶の淹れ方は君のほうが上手いな」
たった今淹れたかのように残る紅茶の残り香を嗅ぎ、ミラトが肩をすくめる。
表情には素直な感心、そして拗ねたような悔しさが滲んでいた。
「君も愛情をもらえたのか? 受け入れる事ができたのか?」
二客のティーカップを見つめるミラトに風が吹き、薔薇の花びらが舞う。
「あの子を死なせた人間を……許せたのかい?」
オレンジ色の花びらが一枚、カップの中に落ちた。
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