第3話 魔女のウワサとキムワイフ

通された部屋に入ると中に居たのは、見た目は普通にメガネをかけた女性の人間だった。

目が合うと、「キムワイプって知ってます?」と聞かれた。

「きむわいぷ?」

「そう!キムワイフ!理系の人がこよなく愛する商品なんです。質感は和紙に近いかな。ちょっとザラザラしていて、実験道具を拭いたりするんですよ。フラスコとかメスシリンダーとか。毛羽が立ちにくくて、実験の成果がちゃんと出る優れものなんです…」


「ちょっと岡崎さん!こちら代筆のお客様です。それにキムワイプッて何ですか!?文房具全然関係ないじゃないですか」

「まぁいいじゃない。郁さん細かい事は、お嬢さんどうぞこちらへお座り下さい。」

私はそのまま立ちつくしていた。

「どうされました?」

「あの…魔女は?」

2人は顔を見合わせて笑った。

「魔女は私よ。正確にはあだ名ね。メガネをかけて帽子かぶっていたら肝試しにきた人に魔女だって言われちゃって噂が広まっちゃったのよ。あの森には魔女がいるって。私はただの人間よ」

「そうなんですね…じゃあ神隠しやオレンジ色したフクロウも」

「それはこちらに。ブッコローって言います。今寝ちゃってますけど」

フクロウと言ってもまるでぬいぐるみようで本当にオレンジ色だった。耳の近くには緑や黄色、ピンクの羽が生えていた。

「フクロウのブッコロー…」

「ちゃんと手紙は配達してくれますから心配しないでくださいね。じゃ岡崎さん、始めて下さい」

魔女こと、岡崎さんは私の前に座り、

「ではまずあなたは、彼にどんなお手紙を書きたいのかしら?」と聞いてきた。

「私、彼を殺してしまったんです」

「えっ」

2人の声が同時に聞こえてきた。

「いや、彼は病死。寿命で亡くなっています。殺人では…」とお姉さんが慌てていた。


「付き合い初めてすぐ彼、体調崩して。でもデートに無理矢理来て倒れてしまって。それで病院に行ったら余命宣告をされました。あと一ヶ月だって」

「それなら殺人ではないわ、ねぇ郁さん」

「そうですよ!何も悪いことしてないじゃないですか」慌ててフォローしてくれる2人に私は話を続けた。 


「死ぬまでにやりたい事リストをやり尽くしたいと言われました。後悔したくないと。貯金も全部使い果たしたいって。入院して病院で死ぬなんて嫌だ。って一生のお願いだって言われて…私は彼の希望を叶えてあげようとしました。願いは10個。全て叶えたら入院することを条件に」


「それなら…」

「でも10日経って亡くなってしまいました。願いも8個しか叶えてあげられませんでした。私が入院させていれば長生き出来たかもしれません。私のせいで彼は死んでしまったんです。」


2人とも黙り込んで、私にかける言葉を探しているようだった。


「だから、聞きたいんです。残り2つの願いは何だったのか。あと寿命を縮めてしまったことを謝りたいんです」


「分かりました。ではお届けする文章を考えましょうか」そう岡崎さんが言ってくれた。

郁さんは「便箋はどういった物をご希望ですか?」と優しく聞いてくれた。

優しく温かみがある感じでと伝えた。


その後手紙は一ヶ月後、岡崎さんが代筆した手紙をフクロウが届ける事、返事は相手次第であることをお姉さんから伝えられた。

「あの…なんでオレンジなんですか?」

フクロウを見つめながらつい聞いてしまった。

「さぁ、分かりませんね。昔からオレンジでしたので」

「あの…もうひとついいですか?」

「なんでしょう?」

「どうして営業日は満月の日だけなんですか?」

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