第2話 オカザキヤ

『5月16日、たくさんの花が咲く事に由来しフラワームーンと呼ばれている。』

そうネットには書いてあった。


今日の天気予報は、晴れ。きっと月は見られる。こんなにも心臓の動きを感じながら歩くのは初めてだった。あの森は、自宅から少し離れたところにある。街灯はなく真っ暗だった。


月明かりに照らされた道を歩き続けていると、古い建物が見えた。中に人がいるっぽい。

薄汚れた看板には、『オカザキヤ』と書かれていた。ドアには『営業中』と書かれてた札がかかっていた。


恐る恐るドアを開ける。古い木が軋む音が響いた。

「いらっしゃいませ」

ボブカットの美人なお姉さんが出迎えてくれた。

「あの、オカザキヤはこちらでお間違いないですか?」

「ええ、合ってますよ。こちらどうぞおかけください。」

アンティークの家具だろうか。オシャレな雰囲気が漂っている店内の奥の席へと案内された。


「これ、よかったら」

「ありがとうございます」

お姉さんが紅茶をいれてくれた。温かい。

「あの、代筆をお願い出来るって聞いたんですが」

「ご存じなんですね」

私は友人は元気にしている事、彼女からオカザキヤを教えてもらった事を伝えた。

「あら、あの子元気にしてるのね。よかったぁ。」

お姉さんはホッとしたような顔をしていた。

「本当に届けてくれるんですか?」

「ええ、こちらではお亡くなりになられた方専門で、代筆を承り、ご本人にお届けするお店です。ただし届けられるのは成仏している方のみ。前科前歴、生前邪悪な人間でなかったことが条件です。1人につき一通のみ。返事が返ってくる保証はありません。」

「そうなんですね」

「どうされますか?お届けは希望されますか?」

「お願いします!」

「かしこまりました。こちらで承ります。

こちらご記入いただけますか?」


お姉さんから手渡されたのは、病院で言う問診票のようなものだった。

名前、住所などの個人情報や、届ける手紙のイメージなど記入する。

イメージはよく分からないが、ご希望のインクの色には『綺麗な色で』とお願いした。

「届けたい人の写真はお持ちですか?」

私は、スマホの中にある1番写りのいい写真をお姉さんに見せた。

「彼に届けて欲しいんです」

「確認させていただきますので少々お待ち下さい。」

そう言ってお姉さんは、お店の奥へと行ってしまった。


彼には前科前歴はない。邪悪な人間じゃない。成仏…は、私のせいで出来ていないかもしれない。そうなれば手紙を届けることが出来ない。不安ばかりが募る。しばらくするとお姉さんが戻ってきた。

「確認致しましたが、成仏されていましたので手紙を届ける事が出来ます。」

「本当ですか!?」

「ええ、大丈夫ですよ。ではこちらで代筆致しますのでどうぞ。」


私は、ちゃんと成仏できていた事に驚きと嬉しさが混じっていた。


私はお店の奥へと通された。

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