(8)

 ふと見ると、「救助対象」のマイクロバスも停車していた。

 そこから、中年ぐらいの男女が下りてきた。

「え……?」

 どうやら、明らかに中学生ぐらいに見える、あたしと沙也加ちゃん(沙也加ちゃんは「鬼」形態に変身してるけど)を見て、ギョッとしたようだ。

「『ローカ・パーラ』の福岡県のチームだ。そちらの救助要請を受けた時に、たまたま近くに居たので対処した」

「そうか……」

 その中年男女が、全身大火傷の警官を見る目が何か……敵を見てるにしては……そう……痛ましいと言うか……哀しそうと言うか……。

「今は敵味方に分かれてるけど……あたしの弟なんだよ……こいつは……」

 女の方が、そう言った。

「ああ、自己紹介が遅れたな。『脱大』ブローカーの松本だ。夫婦で、この商売をやってる」

 続いて、男の方がそう言った。

「え……えっと……脱大って……何?」

 男の方は溜息を付く。

「あんたらに個人情報を訊くのは御法度だそうだが……そうか……生まれた時には北朝鮮が無くなってた奴も居るのか……」

「えっ?」

「かつて、朝鮮半島に北朝鮮って国が有った。まぁ、今の大阪を更に酷くしたような国だ。その国から外国に亡命する事を『脱北』と言って、脱北をする奴を手助けする商売をやってる奴らは脱北ブローカーって呼ばれてた。俺達は、大阪から逃げようとしてる奴らを逃がす商売をしてる」

な言い方だけど、大阪から逃げ出したがってる奴らは多いんで……あたしらの飯の種は当分尽きない。精神操作能力に耐性を持ってる奴に、うっかり大阪に逃げ込んでしまった関東難民に……大阪で差別されてる人間は多い」

「ところで何で、また……あの車なんだ?」

 強化装甲服パワードスーツの女は、警察用らしいマイクロバスを指差した。

「この先の大阪側の検問所で、あたしらを追ってた特務機動隊に追い付かれたんだけど……うっかり、やっちゃったんだよ……緊急事態だったんでね」

「何を……?」

「一応、あたしら夫婦は『魔法使い』系なんだけどさ……」

「で、大阪の警察の武装部隊には『准玉葉』とか呼ばれてる政治将校を兼ねた精神操作能力者が居るのは知ってるだろ?」

「嫌な予想しかしないが……ええっと……まさか……」

「この先に有る大阪側の検問所は……かなり無茶苦茶な事になってると思う……えっと……その……」

 続いてとんでもない台詞が飛び出した。

「検問所の居た部隊と……俺達を追って来た特務憲兵隊……その両方の、その隙に逃げた」

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