私 その8
明日、平井郁子を殺すことにする。
平井の仕事のスケジュール、郁子の行動パターン、平井宅周辺にある監視カメラの設置場所と撮影範囲、平井夫婦の近所付き合いなど、調査は十分に時間をかけてやった。いつでも殺せるという状況もたっぷりと楽しんだ。
明日、二月三日は金曜日。平井は通常の勤務で朝七時過ぎに家を出る。郁子は午前中の家事を終えると、自宅で早めの昼食をとり、十一時から隣町の持ち帰り弁当屋で午後五時半までパート勤務。その後、午後五時四十分過ぎに店を出て、午後六時前後に自宅に着く。平井は定時の午後六時に退社し、寄り道せずに帰宅する。玄関に到着するのは午後七時二十五分から三十分の間となるだろう。
天気予報によれば、明日は北海道の東方にある低気圧が徐々に東に移るが、冬型の気圧配置は持続するようだ。このあたりは雲の多い天気となり、夕刻には雪がちらつくらしい。こういう気圧配置の場合は大きく予報がはずれることはない。午後六時には暗くなり、気温はかなり下がるはずだ。
以前に購入しておいた果物ナイフは、スーパーのリサイクルBOXから持ち帰ったアドペーパーで刃の部分をくるみ、コートの内ポケットに隠し持つ。返り血が目立たないようにコートは牛革の黒。指紋対策の革手袋はこの季節ならずっとはめたままでも目立たないだろう。万が一、雪が積れば足跡を残す可能性があるので、靴は量販店で特売品のジョギングシューズを購入した。履き慣れた靴だと、靴底のすり減り具合などから持ち主の体格や歩き方の癖など、持ち主の人物像がかなり具体的にわかってしまうという情報を得たからだ。髪の毛を落とすといけないので、平井宅の敷地内では毛糸で編んだスキー帽をかぶることにする。
私は頭の中ですべての手順をなぞり、計画に見落としや欠陥がないかを入念に点検した。
問題なし。
これまでに何千回も繰り返してきたシミュレーションだ。想定されるあらゆるアクシデントへの対応策も準備できている。
私は部屋の照明を消し、布団にもぐり込んだ。
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