Fuber Eatsで働き続けて20年の佐藤さん〜チリツモパワーで城に引きこもる御曹司にも完全無双〜

蓬餅鶴ん

第1話

「止まった・・・」


ボロアパートの一室で佐藤は絶望していた。

電気が止められたようだ。


Fuber Eatsで働き始めて20年。

いつかは転職をしようと、考え続けていたら40歳。独身。


まあ全部自業自得なんだけど。


恐ろしい現実から逃げるように仕事に出かけた。



◆◇◆



「誰か助けてーーーーー!」


近くで女の子の助けを呼ぶ声が聞こえた。


「まずいな、あそこら辺は・・・」


予想通り3日前に倒したゴーレムがリポップしていた。

今にも女の子を踏み潰してしまいそうなゴーレムに買ったばかりの自転車を乗り捨て飛びかかった。


「おらよっ!」


振り上げた拳は一直線に頭部に直撃しゴーレムの全身は一瞬で砕けた。手が痛い。


「嬢ちゃん、怪我はないかい?」


「大丈夫、ありがとうおじさん」


「なら良かった、ここら一帯はゴーレムの出現区域だから 来る時は大人と一緒にな。」


「うん、わかった!じゃあねおじさん!」


俺は仕事と並行してモンスターの討伐を行っている。

そのおかげで給料はかなり悲しいことになっているが。



◆◇◆



「報酬ボーナス2倍?!」


仕事の帰り道、とある張り紙に目が止まった。


【ボーナスタワー】の報酬がどうやら期間限定で2倍になっているらしい。

【ボーナスタワー】、全300階層で階層をクリアする事に報酬が貰える。未だに制覇したものはいない。

俺は性にあわないとずっと手をつけてこなかった。


だがしかし、電気を止められてしまった今、四の五の言っている余裕は無い。


「行くか、東京」



◆◇◆



『さあさあ皆様、【ボーナスタワー】にお集まりいただきありがとうございます!』


『なんと!今回の挑戦者チャレンジャーは新人ルーキーです!』


『40歳男性のFuber配達員の佐藤!やはり金銭的に厳しかったのか?報酬2倍に釣られて挑戦しに来てくれました!!』


コメント

・40歳の新人www

・こういうのは、若いうちからコツコツ攻略するのw

・39歳ワイ、70階から高みの見物


主催者とコメントブロックできないのか?

地下1階に閉じ込められてこれだけ見せられるの軽く拷問なんだが。


『それだけではない、この方のお住まいは日本一平和で有名な埼玉だ!』


コメント

・モンスターが全然現れないで有名なあの埼玉www

・おいおいモンスター見たことあんのか?www

・5階にすら到達しないに諭吉10人賭けるわwww


モンスター普通にめちゃくちゃいますけど?

みんなの平和のために毎日頑張ってますけど?

いや、もしかしてあれでも1番少ない方なのか?


『では新人くん、今からタワーレベルの測定を行うぞ』


『レベル2だったら2階クリア程度の強さということで3階からスタートできるよ、測定用のスライムを倒して貰うだけでいいからね』


『皆様、40歳でも新人様でいらっしゃいますので暖かい目でお見守り下さい』


コメント

・はい先生!www

◉面白そうなことやってるな

・↑御曹司様きた!


俺の住んでた地域はそんなにレベルが低かったのか・・・。やっぱ来るべきじゃなかったな。


次の瞬間、地下だった場所は草原に変わり、中央にはスライムがいた。



◆◇◆



〈測定を開始します、スライムを倒してください〉


『おやおや新人様は武器をお持ちでないようで』


コメント

・拳www

・平和ボケもここまでくると酷いもんだな

◉こいつはバカなのか?


武器なんて買う余裕ないんだわ。

というかスライムめっちゃ向かってきてる。

俺はスライムの頭上に向かって拳を振り下ろした。


「よっ」


殴ると風船が割れたような音がしてスライムは消えていった。


〈測定中・・・〉


コメント

・拳でやりやがったwww

・虐待だ虐待www

◉バカだな


頼むからましなレベルであってくれ・・・


〈測定完了しました〉

[レベル180]

[報酬:900万円×2]

[100階クリア報酬:100万円]

《固有スキルⅠが解放されました》

《ギルドが解放されました》

《武器レベル上限が解放されました》

[武器:拳:レベル180]

《PVPが解放されました》

〈181階からスタートできます〉


コメント

・俺疲れてるかもしれん

・ひゃくはちじゅう?????

・拳レベル180www

・俺は最初から佐藤は出来るやつだと信じてたぞ

◉お前らバカか?バグに決まってるだろ!武器レベル180なんて数十年タワー外のモンスター倒し続けないと到達しないレベルだぞ?!バグに決まってる!!!

・御曹司様お怒りで草


え?1900万円?1900円じゃなくて1900万円?

電気代はおろか、ボロアパートから引っ越せちゃうぞ?!

【ボーナスタワー】最高か?


コメント

・佐藤!佐藤!佐藤!佐藤!佐藤!

・佐藤!佐藤!佐藤!佐藤!佐藤!

・佐藤!佐藤!佐藤!佐藤!佐藤!

・御曹司様コメ欄から消えてて草www


『えーと、予想外の出来事に面食らってしまいました・・・』


『佐藤様は181階から攻略・・・おっとおっと』


『佐藤様、PVPの対戦申し込みがございますが』


「今日はもう帰ろうかな」


『PVPの勝者には報酬がございますが』


「っしゃ、やるか」


『でしたら、そのままお待ちください、地下1階が会場となりますので』


タワーを登りに来たのにずっと地下なんだけど。



◆◇◆



「うわ」


やってきた対戦相手を人目見て誰かわかった。

コメント欄にいた御曹司様だろう。

でないとドフラ○ンゴとこいつ以外にピンクのファー着て偉そうなやつがいるわけない。


「どんな卑怯な手を使ったかは知らんが、貴様のような貧民はこの大手薬品会社の御曹司様が直々に大衆の前で処刑してやる」


最近の若い子こわ。

御曹司様自称してるのこわ。

対戦拒否すべきだった。帰りたい。


「卑怯な手なんて使ってないよ、正直自分でも信じられないぐらいだ」


「はぐらかしてんじゃねぇよゴミ虫が」


この一瞬で貧民からゴミ虫に降格してしまった。


〈まもなくPVPを開始します〉


次の瞬間、地下だった場所は天下○武道会のような会場に変わり、正面には殺意マシマシの御曹司様がいた。




◆◇◆



〈対戦選手情報〉

佐藤:レベル180 武器:拳:レベル180

御曹司様:レベル120 武器:城:レベル70


コメント

・佐藤VS御曹司様キター!

・御曹司パワーえぐスギィ!

・毎度思うけど城が武器判定なのおかしくねw


〈それではPVPを開始します〉


開始の合図と同時に御曹司様を取り囲むように城が形成された。


「来いよゴミ虫、ご自慢の拳でこの城を打ち砕いてみろ」


「いやいや城って武器か?卑怯な手はそっちだろ」


「この城には大砲が付いている、だから武器だ」


いやどう考えても武器じゃねーよ。

ほんとにどうすんだこれ、中に入るのは逆に危ない気がするからなあ。

かといって外にいても大砲が飛んでくるだけだし・・・


コメント

・決まったな

・佐藤でもさすがに無理か・・・

・南無南無


「決めつけてんじゃねえ!」

「全力で城をぶん殴る、そんでぶっ壊して中にいるお前もぶん殴る、これで俺の勝ちだろ!」


「ゴミ虫は頭も悪いのか」


大丈夫、ゴーレムをワンパンできる俺なら城ぐらい2、3発でぶっ壊してみせる。

まずは城門に1発ぶち込む。


「はあ・・・ほんとにあきれたゴミ虫だ」


「お前は今からそのゴミ虫にやられるんだよ!」


ドゴッ


よし!城が吹き飛んだ!もう1発・・・。

え?城が吹き飛んだ?


〈勝者佐藤〉

[報酬:10万円]


「いや、まだ城吹き飛ばしただけで倒してないんだけど」


『御曹司様様でしたらお城と一緒にご吹っ飛びなさられました』


「まじか、俺強いな」


コメント

・佐藤ーーーーーーーーーー

・御曹司様嫌いだったからスカッとした

・佐藤、お前ならやってくれると思ってたぞ

・城こなっごなで草

・やっぱ金だけあっても実力が伴ってないからね

・ワイも拳に切り替えてみようかなw


『佐藤様、お帰りになられますか?』


「うん、今度こそ帰るよ」

「あと、たぶんここにはもう来ないかな」


『なぜですか』


「お金は十分手に入ったし、やっぱりこういうのは俺の性にあわないや」


『分かりました、お気をつけてお帰りください』


俺は1910万円と共にもうすぐお別れするボロアパートの元へ帰った。






◆◇◆






1ヶ月後


俺は今東京へ向かっている。

ギャンブルにハマる人の気持ちがわかった気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Fuber Eatsで働き続けて20年の佐藤さん〜チリツモパワーで城に引きこもる御曹司にも完全無双〜 蓬餅鶴ん @yomogiyomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ