隣人




「おはようございます。

 きょうも いい天気ですね」


花壇越し。

いつもの風景。


隣人との朝の挨拶で

一日が始まる。






草木も

爆睡しているに違いない時間。


隣の家に

誰かが引っ越して来た。


深夜、閃光に驚いて

窓を開け!


閃光に満ち溢れた空。

光が

隣の家まで

一直線に注がれていた。


眩しさに

目を細め、

覆う指の隙間から

見えていたのだ。


光の中を

ゆっくりと降りてくる

人の形をしたモノが。


1つ。


隣の家に降りた辺り。

降り注ぐ光も

空を覆う閃光も

一瞬で消えてしまった。


静かな、

いつも通りの

深夜になった。



ああいうのは

『ヒトガタ』って呼ぶんだっけ?

不思議系の雑誌かニュースサイトで

見たような気がするが

よく覚えていない。


きっと寝ぼけたんだ。

あまり気に止めずに、もう1度寝た。





ピンポーン。


呼び鈴で起こされた。


なぜだろう。

その日は、玄関先の廊下で目が覚めた。

可笑しいな、2階のベッドで寝たはずなのに。


いつもは外して寝る腕時計は付けたまま。

時間を見ようにも

2時半で止まっている。


ピンポーン。


「はーい、どちらさま?」


「おはようございます。

 昨日 隣に越してきた者です。

 ご挨拶に参りました」



手櫛で整えドアを開けると

そこには

笑顔も鮮やかな長身の女性が立っていた。


長身と言わる身としては

日頃、目線が同じくらいの人に会う事も少ない。

ビジネスの現場では

これが有利に働く場合も多い。


今、目の前の女性は

視線を、やや見上げる様な・・・。


「ご出勤前でいらした?

 ごめんなさい、出来るだけ早く

 ご挨拶がしたくて。

 夜遅くの引っ越しで

 起こしてしまわないかと心配でしたの」


「いやいや、全く気が付かなかった。

 ご丁寧にありがとうございます。

 今日は休みですから、ご心配なく」


「安心しました。

 もしよかったら、今日のディナー、

 うちにいらっしゃいませんか?

 せっかく お隣同士になったんですもの、

 仲良くしましょ」



長身の美女に誘われて

嫌な気分になるわけがない。

ありがたく夕食に招かれることにした。



今日は休み、だったんだ。

うん、今日は休みだった。



気楽なカッコでいいだろうが

ジャケットくらいは着ようか。

手土産は なにがいいだろう。


今日のディナーでの訪問に

あれこれ考えを巡らせて・・・


今日って休み、だったんだっけ?

ディナーでの楽しいひと時を想い

その考えは一瞬で消えた。





陽も落ちて。

辺りは静かな時間を迎える。


そろそろ

ディナーの約束の・・・


草木も

寝る準備を始める時間。


玄関を開けた途端に

空は閃光に満ちていた。


隣の家まで

一直線に注がれる光。


眩しさに目を細め。


あれ?

どこかで見たような気がする。


覆う指の隙間から

光の中を

ゆっくりと降りてくる

人の形をしたモノが。


1つ。

2つ。

3つ。

いっぱい。


隣の家に降りた辺り。

降り注ぐ光、空一面の閃光。

全てが一瞬で消えた。


静かな、

いつも通りの

夜の中で。


次の瞬間、

真上から光が降り注ぐ。

光で何も見えない。

目が開けられない。


息を飲む瞬間。


「ディナーの時間よ。

 お迎えに参りましたの」






「おはようございます。

 予定通りですね」


持ち帰った花壇と家と。


隣人との朝の挨拶で

一日が始まるはず。


庭から見える家の中の

地球はキレイだった。







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