初陣 デイリーズアクア

 本題に入る前に、将棋の話をしましょう。

 なぜ、将棋の話をするのかという話はおいておくとして……。

 将棋は私の趣味の一つです。俗に「観る将」と呼ばれるもので、自分で指すことはせず観戦を楽しむタイプ。乗り鉄と撮り鉄で言えば、撮り鉄な訳です。

 将棋観戦の醍醐味は、逆転劇にある、とよく言われます。実際、将棋では逆転が頻発します。最後の最後、残り一手で必勝から必敗へと転落することすらあります。逆も然りです。

 ここから得られる教訓は一つ。最後まで諦めてはならないということです。匙を投げるに、遅いということはないのです。


 閑話休題。(将棋の話はまたいずれしたいと思います)


 私は、母に頼んでコンタクトレンズを買うべく、眼科へ足を運びました。コンタクトレンズは医療機器で初めて買う場合は処方箋が必要ということでの受診。といっても、やることは眼鏡を作るのと一緒で、視力を図るだけ。

 あの有名な、気球の絵を眺めたり、右、左、下と、答える検査をしました。ここまでは卒なくこなし……

 

 ついに、真打登場です。


 そう。コンタクトレンズ君です。彼の正式な名称は「デイリーズアクア」と言いました。私は、両親の勧めで1dayのソフトコンタクトにすることは決めていて、その中から眼科医の先生が選んだものです。


 化粧台のような場所に座らされて、助手の若いお姉さんから、コンタクトの入れ方のレクチャーを受けます。

 まずは、指を洗って、コンタクトを取り出して、逆さになっていないかをチェックする。そうしたら、瞼を持ち上げて、眼球へ押し当てる。というもの。

 コンタクトレンズに裏表の概念があることを初めて知ったものの、それ以外は予想通り。説明が終わると、助手のお姉さんが、「最初は難しいと思うけど、頑張ってね」的なことを言って去っていきました。

 その時、私は「ふっ、こんなの楽勝に決まってる」と思っていました。なぜなら、友人が、ものの二秒で装着するところを見たことがあったからです。誇張なしに、マジで二秒でした。それに、私は自分で言うのもあれですが、かなり手先は器用な方です。針の穴に糸を通す作業で、苦戦したことがないくらい器用なんです。マジで。

 だから、私は故のない自信に溢れていました。


 私は、慎重な手つきでケースの中からコンタクトを摘まみ上げ、右手の一刺し指の腹に乗せました。そして、左手で、右目の瞼を引き上げ、眼球を露にします。

 ゆっくりと、ゆっくりと、指を眼球に近づけていきました。






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