コンタクトレンズ奮闘記

坂町 東

ミラボレアスに目を壊された

 私の目を壊したのはモンハンでした。どのモンハンかを言うと、2ndGです。もっと、詳しく言えば、ミラボレアスです。

 私が、彼らの肉を剥ぎ取って、武器や防具に換える一方で、奴らも私の網膜やら、視神経やらを剥ぎ取っていったのです。

(視力の低下は、眼球の変形によって、焦点がずれるためらしいので、実際は眼球を潰されたという表現の方が正しいかもしれません)


 1.0か、0.8くらはあった私の視力は、瞬く間に低下して、一応全クリして、武器の全収集などの、やりこみを始めたタイミングでは、すでに0.5は下回っていたと思います。

 視力の低下というのは、かな~りゆっくりです。ですから、普段生活していても、「視力落ちたな」とは中々、感じません。

 私が初めて、視力が落ちたと気が付いたのは、数学の授業でした。

 私は、確か一番後ろから一つ前の席で、それまでは難なく黒板の文字が読めていました。ですが、ある時、先生から「この問題の答えは?」と問われて、私は愕然しました。問題が解けなかったのです。というより、読めませんでした。深緑色の上で白いチョークの線が、水彩画の様に滲んでいて、0なのか8なのか、÷なのか+なのか、判別できなかったのです。

 これは、体験した方ならわかると思いますが、かなりの衝撃です。

 

 そうして、私は「眼鏡」なる「不細工アイテム」の装着を余儀なくされました。

 社会人となった今、眼鏡=不細工などという、「食べたら痩せる食品」並みの暴論は、まったくもって賛成も許容もできません。が、学生の間で、これは共通認識であり、常識です。眼鏡はダサい、芋っぽいというイメージなのです。かろうじて、インテリ、真面目、落ち着いている、といった、ポジティブな側面も持っていますが、そんなものは、焼け石に水。豚に真珠です。


 そこで、私は苦肉の策、その名も「授業中だけ眼鏡」作戦を敢行しました。これは名前の通りで、眼鏡が必要とされる授業中だけ眼鏡をつけて、休み時間は裸眼で過ごすというものです。実はこの作戦には、私のクラスに既に先駆者がおりました。隣のクラスにもいたので、読者様方の学校ではどうかわかりませんが、私の学校では「定番作戦」だった訳です。

 この作戦のメリットはズバリ、「不細工でいる期間を減らせる」ということにあります。更に、授業中であるがため、我々が最も忌避する「あ、眼鏡つけ始めたんだ」という友人からの精神攻撃を防ぐこともできます。また、眼鏡を弄ばれるという物理的な危険も回避できるわけです。付け焼刃とも思える作戦にしては、かなり効果はありました。

 一方、デメリットはというと、二つあると考えています。

 一つ目は、休み時間は碌に見えないということです。「え?それくらいなら別によくない?」、と思われるかもしれませんが、私は、これによって多大な被害を受けました。私は、部活動に所属していたのですが、その部活の先輩と廊下ですれ違った際に無視をしてしまったのです。もちろん、意図的ではありません。見えなかっただけです。しかし、相手からすれば、そんなことはわかりようもありません。それで、私のその日の部活で、先輩から叱咤を受けました。無論、弁明はできません。眼鏡をしていれば、避けられたはずです。

 二つ目は、息苦しさです。視力が一時間おきに弱くなったり強くなったりするので、かなりの違和感があり、それが息苦しさに繋がります。また、「本当はずっと視力のいい状態でいたい」という自分と、「不細工になるのは嫌だ」という自分との葛藤に苛まれます。そして、そんな葛藤を繰り広げる自分が滑稽で、恥ずかしく思えてくるのです。「なんでこんなことでなやまなきゃいけないんだ!」となるわけです。


 なので、私は、そんな不完全な作戦は捨てて、禁忌に手を染めようと考えだしました。

 そう、コンタクトレンズです。

 え?如何して、禁忌なの?と思われるかもしれませんが、これは、私にとっての禁忌であって、一般の方々にとっては、関係ありません。


 ともかく、私は母に頼んで、眼科へと赴くことになりました。

 

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