第48話 ついにその時がやってくる。

「見晴らし良くなっちゃった……」


 地下に避難していたローザ達が戻って来てその光景に唖然としていた。百鬼魔盗団の本拠地の周りは山で囲まれていたのだが、その山の半分が消し飛んでいる。


「すごい……なんて威力……あ、ニャル」


 コルネは語尾も忘れかけてしまうくらい驚いていた。

 

「これはすごいわよ。……これなら」


 アイナはシズル達の放った技の威力を見て、ある期待を抱いていた。


「ダイコク様もきっと御満足している筈よ」


————


「……これ、やりすぎてしまったのでは……? というか、これをワタシたちがやったのですか?」


 ラナは自分達が行った大破壊を見て、腰を抜かしていた。ラナはやりすぎたと思っていたが、


「いや、ダイコクに対してやりすぎるってことはないわ。これくらいは間違いなく必要よ」


 シズルはキッパリと答える。その目は真っ直ぐに釘が飛んでいった方向を睨みつけている。


「……そうなのか? サスガにこれは……」


ドォーン!


 今は消滅した山の方からそれは飛んできた。

 

「……空から登場するのが好きなようね?」



「そりゃあ……かっこいいからな?」



 のダイコクがシズル達の眼前にいた。


「……え、?」


「あ……ありエない! いくらカイフクリョクがタカいとしても! そんなこと……!?」


 ラナとメテットは理解が出来なかった。否、拒んでいた。

 確かにダイコクが腕を一瞬で直していたのは見たが、言ってしまえばあれは軽傷に過ぎない。故にギリギリ納得は出来たのだ。

 しかし、あの合体技を喰らったのなら、致命傷まではいかずとも、ダイコクであろうと重傷は免れられない


 その傷を直して、ここまで飛んでくることがこの短い時間のうちに出来る筈がないのだ。


 口ではああ言っていたシズルも、内心驚いていた。


(おかしい。あれはラナの炎を纏っていたのよ? 効かなかった、なんてことがある筈がない)


「そう睨みつけんな。さ。これは」


 シズルを見てダイコクはニッと笑う。まだ余裕がありそうなその顔を見てシズルはムッとする。


「嘘吐くんじゃないわよ。山まで吹っ飛ばされたのに飛んでこれるくらいの余力はあったじゃない」


「だからそれも体を誤魔化して無理してやって来たんだよ。そういう力があってな」


「……! まさか、アクマのチカラ……!?」


「なんだ、知ってるのか。これやるとあいつが怒るから普段は使わないんだがな」


「ということは……ダイコクさんは悪魔……!?」


「違う。そう考えるのもわかるがな。まぁ俺様にも色々あったのさ。


(……? 『ちゃん』がない?)


 ダイコクは小さくため息を吐き、そして困ったように笑う。


「やれやれ。こんな筈じゃなかったんだがなぁ。思っていたよりもはしゃげてしまった。最後の一撃、あんなに胸が高鳴ったのは本当に久しぶりだった」



「お前らの勝ちだよ。ラナ、シズル、メテット」



 その言葉を言った後、ダイコクはバタンと仰向けに倒れた。


「ダイコクさん!? ……あれ?」


 倒れた直後にグオーッといびきがダイコクから聞こえてきた。


「寝た……?」


 ラナ達はいきなりの事態にポカンとしていたら、


「あら、やっぱり! 皆! ダイコク様が寝ているわよ!」


「……アイナ!?」


 いつの間にかアイナがラナ達のすぐ後ろまで来ていた。アイナは寝ているダイコクを見て、嬉しそうに他の仲間達にそのことを大声で伝えていた。

 少し経つとあちらこちらから歓声が聞こえてくる。


「……どういうこと?」


 訳がわからないシズル達はただただ困惑する。


「ラナ、シズル、メテット。感謝するわよ。ダイコク様もうぐっすりよ。15。寝た姿を見れたのは」


「「「15年/ネン!?」」」


 ダイコクの不眠歴を聞いたことでシズルはある真相にたどり着いた。


「ちょっと待ちなさい! もしかしてあいつがあんな条件出したのは……」


「多分、。ダイコク様、最近派手なことが起こらなくて退屈してたの。だから、眠るのがもったいないっていつも起きてたのよ」


「だからって15ネンも……」


(ネムりたくないってイってたが、そこまで……!)


「……ワタシたち、ダイコクさんの安眠の為にあんな必死に……いやまあ15年も寝てないなら何がなんでもとなりそうですが……」


「寝てないのは本人の意思じゃない……! 15年も寝てないなんて絶不調な状態で戦って、満足したから負けを認めた? 完全に勝ちを譲られてるじゃない!!」


「いや、ダイコク様は本気で勝つつもりだったわよ? その上で負けを——」


「だから! あいつが負けた要因寝てないからでしょうが! くっそうあいつ耳元で不快な金属音掻き鳴らしてやろうか!?」


「落ち着いて下さい! シズル! 気持ちはわかりますが寝てる時にそれはちょっとあんまりな気もします!」


「そうだ! カちはカちなんだしダイコクのチカラもカりられるようになった! ケッカとしてはサイジョウ! ね!?」


 必死にシズルを宥めるラナとメテット。しかし、やっぱり納得いかないシズル。その様子を見て、アイナはクスりと笑う。


「……ふふ。本当仲がいいのよ。大事よ、特にこの世界でそういうの」


 コホンと咳払いしたアイナは勝者であるラナ達に改めて、条件を話す。


「それじゃ、確認するわよ。貴女達はダイコク様に勝負を挑み、そして勝った。……本当、凄いことよ」


「……勝ってない」


 シズルは小さく唸りながらボソリと呟く。


「ダイコク様が負けを認めたのだから貴女達の勝ち! とにかく、これで百鬼魔盗団私達は貴女達の復讐に乗る。復讐が確実に果たせるように、私達は協力するわ。体の強化の話だけど……」


「そっちは大丈夫です。戦闘中にがっつりと強化されちゃいましたから」


「そうなの? ……ダイコク様ったら……」


「?」


「なんでもないわよ。じゃあ、体の強化はもうやったってことでよし、確認はおしまいよ」


 アイナはラナをじっと見る。魔物だと見た目に対して精神は成熟していることはあるが、ラナは違う。言葉は丁寧だが見た目と同じ精神年齢である。


(まだまだ親に甘えたい年頃であろうこの子が、いきなり全部奪われて、打ちのめされた)



(それでも……それでもこの子は仲間と共にここまで、ここまで来たのよ)



「ラナ、シズル、メテット。本当にお疲れ様。とりあえず今日はもう休みなさいよ」


「ありがとうございます……実はもうクタクタで、歩けないかも……」


「メテットも……カツドウゲンカイ……」


「ラナもメテットも頑張っていたものね。任せて、私が運ぶわ」


「いやなんでシズルがイチバンゲンキなんだ?」


 思わずシズルを見るメテット。シズルはそんなメテットにニッと笑い返す。


「復活の速さには多少自信があるのよ」


「いや、ハヤすぎ……ん? シズル、ハが——」


ドズッ


 そこから後が続かなかった。

 メテットの腹部が大きな蝋の槍によって貫かれてしまった為だ。


「「!? メテット!!」」


 メテットの背後にいつのまにか空間の歪みができておりそこからロウソクの騎士がメテットを槍で刺したのだ。

 そのロウソクの騎士は今までと違う。これまでよりも遥かに重装備で分厚い蝋の盾を持ち、大きな槍を持っている。おそらく通常の騎士よりも強い特別性なのだろう。


 しかし、


「メテットから離れろッ!!」


 シズルは大釘の頭部でその騎士を思い切り殴打する。するとメテットを刺した騎士は真っ二つに

 シズルは急いでメテットから槍を抜き、安否を確認する。


「メテット! 無事!?」


「ガッ…ガガ……ラ……ナ……!」


メテットはシズルの背後の方を指差し、シズルはハッとする。


「!? しまった! ラナ!!」


 シズルは急いでふりかえる。

 そこには気絶したラナを物のように片手で掴んだあの忌まわしき爛れた男の姿があった。

 男の背後にも空間の歪みが発生している。


「そいつは通常の50倍の蝋がいるんだが一撃とは。本当に忌々しいな。だが鳥の魔物はそれで十分みたいだな?。」


 アイナは先程メテットを刺した騎士と同型の騎士と戦っており、ラナを助けにいくのは難しそうだった。


「返せッ!!!!」


 シズルは当然、ラナを取り返す為に爛れた男に迫る。

 しかし、男の背後にある空間の歪みから大量の通常型のロウソクの騎士がシズルは足止めを喰らってしまう。


「どけぇ!!!」


 当然ロウソクの騎士はシズルの相手にはならないが、それでも数が多く、時間を稼がれてしまう。


 そして男は散歩から帰るように。


「それじゃあな。これは返してもらう」


「待て……」


 空間の歪みへと消えていく。


「待ぁてぇぇぇぇ!!!!!」


 歪みから出てきた騎士達全員を消滅させて、手を伸ばしたシズルだったが。



 空間の歪みは消えていた。ラナの行方も、これでわからなくなってしまった。





「………ラ……ナ」





「まだ……だ! シズル!!」


「!? メテット……?」


 メテットは苦しそうにしながらもシズルに話す。


「メテットは……あのトキ、チカでラナにマリョクをあげた! ラナのナカにあるメテットのマリョクをメジルシにできる……!」



「メテットなら……ラナのイバショがわかる!!」



「!!」


「マドはデキないけど……! シズル! メテットをカツいでハシれ! キミのアシならタドりツける! だってシズルなんだから!」


「言われなくても!」


 そういうや否や、シズルは急いでメテットを担ぎあげた。


「シズル! これを持っていきなさいよ!」


 アイナは騎士と戦いながらシズルに木でできた小さなドクロを投げ渡す。


「これは!?」


「私達の目印よ! あの男本拠地中にこの騎士を放ったみたい。私達はここをなんとかしてからそれを辿ってそっちに行くわよ!」


 良く聞くとあちらこちらから戦闘音が聞こえる。アイナの言う通り、爛れた男が時間稼ぎに放ったらしい。


「わかった! ありがとう、アイナ!」


 アイナにお礼を言ってシズルはメテットの指を差した方向に全力で走り出した。


「ラナを助けて、あの男を潰して、これで……これで全て終わりにしてやる!!」



 復讐鬼は命を燃やす。

 攫われた友を助ける為、

 怨敵に復讐を果たす為。


 今こそ全て終わらせる刻。


  復讐の旅は終わりが近い。








「ようやくだよ。ついに来た。」



「この星から悪を。魔を。夜を消す時が。」









 

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