第47話 合体技
「やっと抜けたと思ったら……シズルちゃん達何やっているんだ?」
闘技場の床に埋まっていた両足を引っこ抜いたダイコクが目にしたのは、シズルの首に噛みついているラナの姿だった。
(……ラナちゃんがシズルちゃんの魔力を吸ってるのか? いや待て。量がおかしくねぇか?)
ダイコクはシズルとラナの魔力量が倍以上になっていることに気づく。
(両足埋まっている間に何があったんだ? 今のシズルだけでも、魔力量が俺よりあるじゃねえか)
ダイコクは少し困惑したが、すぐにあることに思い当たる。
「堕転、厳密に言うとそのなりかけか。……とんでもない無茶しやがるなぁ!?」
そして、後からその無謀っぷりに驚嘆した。
————
「合体技ですか?」
「ええ、ずっと考えてたの」
(ずっとカンガえて……?)
「とても簡単だから、今からでもできると思うわ。説明するわね」
シズルはラナとメテットに技の説明をし始める。堕転の影響か、どこかその様子は生き生きとしている。
そして、シズルの言う通り、合体技の説明はとても簡単なものだった。
「まず私がでかい釘を作る。そしてラナがその釘に炎を纏わせる。そしてメテットの窓で釘を加速させて、相手にぶつけるの。簡単でしょ?」
「……カンタンだが……」
「ごり押しの極みみたいな技ですね」
「どうかしら? 悪くはない手だと思うの」
「まぁタシかに。キいただけでもキョウリョクだとワかる」
(シズルが『でかい』とイっているのだからソウトウなオオきさのハズ。ラナのホノオをマトっているからダイコクのカタさもカンケイない)
シズルの言う通り悪くない。それどころか、今取れる手段でダイコクを倒すのに
(モンダイは——メテットか)
シズルの言う『でかい釘』が通れるだけの巨大な窓を作れるのか、作れたとして、ラナの炎がある中で、それを維持することができるのか。メテットに一抹の不安がよぎる。
しかし——
(……いや、やるんだ。たとえフカノウであろうとデキないからやらないというわけにはいかない)
メテットはすぐにその不安を払う。
(ラナとシズルはハジめてのトモダチだから)
メテットは無言で拳を握りしめ、頷いた。
「メテットの言う通り、強い一撃になるとと思います。でも今のシズルの状態でこの技は大変じゃありませんか?」
そんな中、ラナは堕転したシズルの体の心配をする。
「えっ?」
「シズル、今堕転しかかっている状態なんですよね。そんな状態で大きな釘を作ったら、堕転を抑えきれなくなってしまうんじゃないですか?」
「それは……考えていなかったわ」
今のシズルの状態は外にあふれ出ようとしている堕転の魔力をシズル自身の魔力で抑えている、一昔前のラナと似たような状態である。堕転で生成された魔力はシズルの魔力に変換することも可能だが、変換には少しばかり時間がかかる。
このまま時間が経てば、シズルは堕転を完全に抑え込み、堕転の影響で生成された魔力は全てシズルの魔力に変換されるだろう。しかし、大きな魔力消費があった場合、シズルは堕転を抑えきれなくなり、完全に堕転してしまう危険性がある。
「やっぱり気づいていなかったんですね。堕転しかかっている影響か、少し昂ぶりすぎですよ。落ち着きましょう」
「うぅん。でも、半端な大きさだと、ダイコクには受けきられてしまうわよ?」
「そこはワタシに考えがあります。シズル」
ラナは自らの胸に手をおいて、
「貴女の堕転による魔力、ワタシが半分請け負います」
「「えっ!?」」
シズルとメテットはラナの言葉に耳を疑った。
シズルは勿論メテットも慌てて止める。
「駄目よ! 私の堕転の魔力を取り込むなんて! 絶対に悪影響が出るわ!」
「ヘタしたらラナまでダテンを……!」
「ワタシには、魔を焼く業火が体の中にありますので大丈夫です。それに……」
「ワタシ達の旅をかけたこの戦いで、ワタシが頑張らないのは違うでしょう?」
「……イシはカわらなそうだな……」
「……ラナ。危なくなったらすぐにやめなさいよ?」
「はい!」
————
そして、今に至る。
ラナはシズルの堕転の魔力を半分取り込んだあと、左手を差し伸べるような形で前に出す。
シズルは荒々しく右手を突き出し、ラナの左手と合わせて、エネルギーの球を作るような構えをとった。
そして、次の瞬間、ラナとシズルの頭上に、巨大な釘と太陽が顕現する。
「うわ!? 熱い! なんだあれ!?」
「釘と……太陽!? なんにせよでかいぞ!!」
観ていた魔物達が、ざわつき始める。
「はっはっは! こりゃとんでもないな!」
(受けてみたいが流石に止めるか? これはやばい気がするしな)
そう思い、ダイコクはラナ達の方に一息で向かうためにかがんで足腰に力を入れた。
すると——
「そうだ! 受けてみろ!! ダイコク!!」
「お?」
シズルがダイコクに向かって叫ぶ。シズルにはダイコクがかがんだのをシズル達の技を受け止めるための姿勢に見えたらしい。
ダイコクは訂正しようとしたが、シズルの次の言葉を聞いて、その考えは吹き飛ばされた。
「私達の最強を超えた最強の一撃を!!」
「!! ははは! おいおいずるいな」
「そりゃあ……受け切るしかねぇじゃねぇか!!」
ダイコクは止めるのをやめ、全力を持って受け止めると心に誓った。
(最強を超える? それは駄目だ。否定しなきゃいけねえ、拒絶しなきゃいけねえ!)
「来いよ! その
「な、なんだかすごいやる気に……! でも動きが止まりました。これなら確実に当てられます! シズル、まさかこれを狙って……!?」
「ノリと勢いに決まってるでしょ! ここぞって時の勇気だっけ!? メテット貴女が正しかったわ!」
「えー!?」
ラナは驚嘆していたが、メテットからはなんの反応もない。窓の展開が思ったより上手くいっていないようだ。
(ぐっ……ダメ、アンテイしない……! ラナとシズルがマっているのに!)
ラナの生み出した太陽はシズルの巨大な釘に炎を纏わせた後、釘の頭部の上に鎮座し、釘の先端は当然、ダイコクの方を向いている。
太陽が1方向に炎を放射することによって、ロケットのように巨大な釘をダイコクに向けて打ち出すようになっているらしい。
メテットはラナとシズルの準備は出来ているのに、自分だけがまだ出来ていないことに焦っていた。
そんな中、ラナがメテットに大声で話す。
「メテット! 安定は考えなくていいです! 一瞬で構いません! 窓を!」
「っそうか! タシかに!」
メテットはハッとして、安定を捨てとにかく大きい窓を展開する。
「イくぞ! ラナ、シズル!」
そして準備ができたメテットは叫ぶ。
「——ミチよ、“ヒラけ”!!!」
それはもはや暴走に近い。不恰好な窓の道。とにかく大きく、とにかく早く。安定を微塵も考えていないので、既に崩壊が始まっている。
しかし、前に進む為だけに作られた窓は、今のシズルとラナにとって非常に有難いものだった。
「太陽よ/釘よ——その道を“突き進め”!!」
太陽の放射によって釘が発射される。炎を纏った釘は窓の道を通って、
(は——)
一瞬でダイコクに直撃する。
とんでもない轟音。途方もない破壊力。
釘は闘技場はもちろん百鬼魔盗団の周辺の山を消し飛ばして、消滅した。
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